キリアンです。

あなたは部下の商談に同行した際、ついつい口を出してしまっていませんか? 部下のトークがたどたどしいのを見て、横から「あ、補足しますとね……」と割って入る。あるいは、商談が終わった直後に「あそこはもっとこう言うべきだった」と、頼まれてもいない反省会を始める。

もし、それがあなたの「教育」だと思っているなら、今すぐ改めてください。 あなたが口を出した瞬間、その商談は死に、部下の成長も止まります。

なぜなら、マネージャーであるあなたの役割は「代わりに喋ること」ではなく、部下が見逃している「現場の真実」を、誰よりも深く観測することだからです。

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私は、部下の商談に同行しても、一言も喋らないことが多々あります。 耳が聞こえにくい私は、横でじっと「三者のパワーバランス」と「顧客の身体反応」を観測することに全神経を集中させています。

部下が必死にプレゼンしている最中。 私は部下のトークなど聞いていません。それよりも、

・部下の一言に対して、顧客がどれほど「無意識の拒絶(腕組みや視線の回避)」を示したか。 ・その拒絶に対して、部下が気づかずに「言葉の暴力」を重ねていないか。 ・その場の「空気」が、いつ、どのタイミングで冷え切ったのか。

これらを、静寂の中で記録していきます。

耳が聞こえるマネージャーは、部下の「言い回し」や「知識の正確さ」といった、枝葉末節のミスを指摘したがります。 しかし、そんなものは後でいくらでも修正できる。 本当に教えるべきは、相手という「市場」が発しているSOSに、なぜお前は気づかなかったのか? という一点なのです。

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巷の「リーダーシップ論」や「コーチング」を教えている連中は言います。 「部下を褒めて伸ばしましょう」 「適切なフィードバックを即座に与えましょう」

……甘いですね。そんな「パクリの優しさ」で育つのは、指示待ちの操り人形だけです。

商談が終わった後、私は部下にこう問いかけます。 「さっき、顧客が資料の3ページ目をめくった時、なぜ彼は一瞬だけ『奥歯を噛み締めた』と思う?」

部下は絶句します。そもそも、そんな細かい反応を見てすらいないからです。 そこで初めて、部下は気づくのです。 「自分は、相手を人間として見ていなかった。ただ自分のトークをぶつけていただけだった」と。

この「気づき」による絶望こそが、人を本物のプロフェッショナルへと変貌させます。

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私は42歳で一度、社長という椅子を失いました。 当時は私も「正解」を語り、部下を支配しようとしていました。でも、それでは誰もついてこないし、市場の歪みにも気づけない。

今の私は、静かな「観測者」です。 部下には、私の「沈黙」が何よりも重いプレッシャーだと言われます。 それは、私が言葉のノイズに惑わされず、彼らの「怠慢」や「観察不足」を、非言語の情報から全て見透かしているからです。

マネジメントとは、喋ることではありません。 「背中で、観察の深さを見せること」です。

もしあなたが、優れたリーダーになりたいなら、次の商談同行では一言も喋らないと決めてみてください。 そして、部下が一生かかっても気づかないような「相手の微細な変化」を、一つだけ指摘してあげてください。

その一言が、100時間の研修よりも深く、部下の魂に刻まれるはずです。

次回は、再び第一印象の話へ。 「第一印象を良くする『笑顔』の練習はやめなさい。」 なぜ作られた笑顔が商談を壊すのか、その心理的構造を暴きます。

キリアン