今回は趣向を変えて、以前参加した酒蔵見学ツアーについて書きたいと思います。
成人の日に、千葉にある寺田本家さんで酒造見学をさせていただきました。
寺田本家HP http://www.teradahonke.co.jp/
こちらの酒造は、創業300年以上にもなり、昔ながらの手仕事の酒にこだわり、添加物を使用しない自然な酒造りを行なっています。
第24代頭首である寺田勝さんにご案内いただき、酒造りのいろはを教えていただきました。
蔵人の方が仕込み歌で歓迎してくださり、見学がスタート。
意外だったのは、蔵人の方が皆さんお若いこと。
老舗の造り酒屋のイメージとは違いましたが、酒造りにかける情熱や誇りといったものがひしひしと伝わってきます。
秋から冬の仕込み時期に集まり、オフシーズンはそれぞれの地域で様々な生業をされているそうです。
古くは、杜氏も農閑期の出稼ぎだったとか。
理にかなった暮らしの形かもしれません。
酒の仕込みは、一麹二もと三造りと言われ、まず麹を育てることに始まります。
酒蔵の入り口に鎮座する甑。大型の窯で米を蒸します。
外は固く、中はふっくらと蒸すのが酒米のコツ。
外がしっかりしていることで、ゆっくりと醸されて深みのある味わいになるそうです。
昔は米を炊かずに、蒸して食べていたそうです。
因みに、むすは生す=生まれるに通じる言葉だそうです。命の源ですね。
蒸しあげた米を、麹室へ。
常時30℃以上に保たれた部屋に、台が並んでいます。
ここに米が広げられ、麹種をまぶします。
この麹もこだわりの自家製で、稲につく稲麹というカビの仲間を採取し、蒸した米に椿の灰とともに加え、雑菌を抑えつつ増殖させたものを使用しているそうです。
稲麹。稲穂につく菌を採取・培養。
麹が成長し、米の中へと食い込んでいくと、やがて熱を帯びるようになります。
手で撹拌しながら適度に冷ましつつ、菌糸を均等に行き渡らせます。
こうしてできた麹を、水とともにタンクへ入れます。
もと(酒母)の仕込みです。
タンクに入れる前に、浅い木桶に麹と水をいれ、棒で摩り下ろす作業を行ないます。
これが、山おろしと呼ばれる作業です(この作業を省いたものが、山おろし廃止=山廃仕込)。
夜から始まり、夜中と早朝に20分の作業をを計4回。
この際に歌われるのが、冒頭の仕込み歌です。
つらい作業でも、めでたいめでたいと酒造りの喜びを込めて仕込む。
気持ちにこたえるように、酒もうまくなる。
こうして愛情を込めておろされ、酒母タンクで発酵が進みます。
発酵の進む酒母。甘酸っぱい。
乳酸発酵に始まり、環境が整ったところで、やがて蔵に住む酵母菌が自然に降りてくる。
微生物の共同作業です。
決してでしゃばらずに自分の出番を待ちつつも、それぞれの役割を命を懸けて全うして消えていく様は、まさに命のリレー。バトンタッチです。
菌だから当たり前といえばそれまでですが、自分の本分を知った生き方には、見習うべきものがあるように思えます。
菌もまた微生物である以上、多様性とバランスの中で生きていることに気付かされました。
もちろん、有用なものやそうでないものもいますが、それは人の都合というもの。
自然な調和の中でこそ、生き生きと菌が働いて力強い酒母ができる。
本来のお酒は、様々な微生物が溶け込んだ、まさに「命の水」と言えるでしょう。
こうして90日間が過ぎ、いよいよ仕込みです。
もろみタンクへ、もとに米・水・麹を加えたものを入れます。
発酵の進み具合にあわせ、米・水・麹を数回に分けて加えます。
3回に分ければ、3段仕込です。
手間暇かけて造られる寺田本家のお酒のこだわりは、「自然素材」と「発酵」。
微生物の働きやすい環境づくりを、とことん心がけている様子が伝わってきました。
そして、環境を整えた上でなお仕込みの出来を決めるのは、最後は造り手であること。
言葉遣いや心構えが、酒の味を左右すると。
先代が築いた「自然に還る酒造り」の伝統が、着々と受け継がれているのを感じます。
昔ながらの手作業で、素材と対話しつつゆっくりと醸されていくのです。
神様に供えるお神酒。
このミキですが、三キに通じていることを教えていただきました。
うれしき
たのしき
おもしろき
人もまた、腸内の幾千ともいえない微生物に支えられています。
善玉・悪玉と呼ばれる菌もまた、バランスの中で生きています。
善悪の基準は、発酵か腐敗か。どちらも同じ、菌の働きにもかかわらずです。
不平や不満は、善玉菌の活動を鈍らせ、結果として腸内に腐敗をもたらすそうです。
もちろん、ストレスによる食の乱れ等も、影響を与えるでしょう。
そうならないためにも、ミキを心に感謝を忘れず、体に良いものを摂りつつ穏やかに健やかに、自分自身も発酵していきたいものです。