花輪和一先生の初期短編集『赤ㇶ夜』から日活ロマンポルノみたいなタイトルの短編漫画を取り扱います。花輪和一先生の絵はとても緻密かつ美麗で、水木しげるを思わせるほどの背景の書き込みが凄まじいです。そのくせ、セリフや地の文、作中のノリがおふざけ感満載で馬鹿馬鹿しく癖になるのが魅力です。本作も、お話としては幼少から気性の荒い女、倉が田舎で男の跡取りを求められるものの、娘しか生まれず、癇癪とともに我が子や姑を血で染めるというえげつない内容なのですが、本編中のノリが軽すぎてスナック感覚で楽しめてしまえます。絵も達者で、相応にグロテスクで、話も残酷なのにギャグに思えてしまう。『彼岸島』のようなシリアスな笑いでもなく、狙って演出しているのだからたちが悪いです。見た目も匂いも、お値段も高級ステーキそのものなのにいざ食べてみればスナック菓子のようなジャンキーな味がする……下手な例えですが、そんな感じでしょうか。しかし、すこぶる美味いスナックです。癖になるジャンキーです。

 

 本作では「昔、この村には倉というおっかない女がいたそうな……」という昔語り形式が採用されているのですが、差し当たって当時の事件を載せた新聞記事や倉の被害者、住んでいた村などの写真を参考代わりに引用されています。もちろんこれも含めて全てフィクション、作者なりのジョークであることが最後に明かされているのですが、漫画としての生々しさを引き上げる役割として、実写写真を用いるという技法は当時ではかなり目新しいのではないでしょうか?…逆に、当時のアングラ漫画でしか見ない表現かもしれないですね。

 とてつもなく気性の荒い田舎娘の倉は、これまた田舎の百姓である捨吉の一家に嫁ぎます。とにかく跡取りが欲しい捨吉一家は倉のお産に大層期待します。山伏もやっているらしいしゅうとの栄太郎からは念を送られますし、捨吉はもう男の子をもらうつもりで「ぐひっぐひっ」と気持ち悪い笑い声を漏らします。そして、大方の予想通り男の子ではなく女の子の桑子が生まれるのですが、このお産がハチャメチャにクレイジーでした。

 臨月にも関わらず、雨の中、捨吉とともに農作業に繰り出されていた倉は突如現れたマムシを鎌で殺したと同時に、産気づき桑子を出産します。急だったからとはいえ、捨吉はマムシを切った鎌でへその緒を切断するし、女の子を産んでしまったことで一家からは陰口叩かれるし最悪です。

 

 しかし、ここで今までどちらかと言えば悲劇的立ち位置だった倉の荒い気性が爆発し、しゅうと姑双方を血が出るまで袋叩きにします。その後もまた、子を身籠りますが、家庭内は険悪だし、桑子はネグレクトを受けて死ぬしでとんと良いことがありません。ちなみに桑子は一族代々の墓の隅の方に埋められ、親族を呼ぶのが面倒なので葬式にも出されませんでした。浮かばれないにもほどがあります。

 その後も、柿木から飛び降りれば男の子が生まれるという謎の理論でそれを実行し、痛い思いをしたり、しゅうとの尻を猟銃で撃ち抜いたりとカオス&デンジャラスな展開は続きます。銃である意味を感じないほど至近距離で撃ったために速攻で悪事がバレる倉でしたが、跡取りを産まねばいけない身であるため不問とされました。にもかかわらず、肝心の子供はまたも畑で大便のようにポロっと生まれます。またまた女の子だし死産だしで散々です。大便のように生まれた第二子は、無かったことにしようとする倉によって大便より扱い悪く放り投げられます。

 

 文字に起こすと、改めてとんでもないお話で笑ってしまいます。繰り返しになりますが、本作では実写が用いられ、例えば桑子が生まれた桑畑や倉が飛び降りた柿木などが作中で語られると速やかに写真と図解付きで詳細が記されます。何となく忌避感が増す仕掛けにも思えますが、慣れてくると笑えるので不思議です。また、僕がお上品なので男の子、女の子…と書いていましたが作中では一貫してオス、メスです。極端に悪い民度ってひょっとしたらお笑いになるのかもしれません。生々しいのに笑えるってことは、これがリアルに起きた出来事でも笑える可能性があるというわけですからね。あくまで下らないギャグマンガのくせに、雰囲気作りが上手すぎて、何となくブラックな可能性をはらんでしまっている、そんな名作です。

 

本編ラスト。死してなお誰からも愛を与えられず孤独な桑子が不憫です。まあ、うそんこなんですけどね。画像では分かりにくいですが、倉や捨吉などが埋葬されているお墓も実写になっています。理由は謎です。

 

出典:『赤ㇶ夜』(改訂版)花輪和一 青林工藝舎(2013.3)

初出はガロ 1984.11