以前からちょくちょく言っていたいつも書いている記事とは違った趣向のブログ記事の第一弾を上げようと思います。不定期更新のつもりですが、基本的には毎月15日と月末に更新する予定です。お時間ありましたら、ぜひ寄ってみてください。いつもは好きな短編(主に漫画)を一話分取り上げるという旨の記事を書いているのですが、雑記という名前通り、今回は漫画でこそありますが長編作品、『ドラえもん』についてのびのびと語っていきたいと思います。一話完結ものの漫画だって、見方によっては短編ですよねということで(こじつけ)

 

 好きな漫画、好きな回と題しました今回の記事ですが上記の通り一話完結ものの好きな回について毎回何話か書いていきたいと思います。差し当たって必要になるのが、その作品に対する予備知識になると思います。今回は言わずと知れた『ドラえもん』ということでほぼほぼ予め知っておくようなことなど皆無かと思いますが、今後取り上げていく予定の一話完結漫画への礼儀もかねて特別扱いせずキチンと前説を行いたいと思います。

 

☆作品概要と登場人物紹介

 『ドラえもん』。言わずと知れた国民的漫画であり、藤子・F・不二雄先生の代表作です。今でもほぼ年に一回のペースで劇場版が作られていて、昭和生まれの子供から令和生まれの子供まで、その少し不思議な魅力でトリコにし続けています。大人になってもファンは多く、愛蔵版の寄稿の顔ぶれが豪華で笑っちゃいます。芸人のサバンナ高橋さんや千原ジュニアさん。小説家の辻村深月さんや川村元気さん(映画の脚本も担当されています)ミュージシャンでは現OPを担当されている星野源さんやブルハの甲本ヒロトさん。同じ漫画家ではいよいよ挙げきれませんが、『ソラニン』『おやすみプンプン』の浅野いにおさん、『ケロロ軍曹』の吉崎観音さんがファンとして、作品にも強い影響を受けていると聞きます。

では、今更ながら登場人物紹介おば…

ドラえもん……ご存じ、頭てかてかの人気者です。猫型ロボットですが、食事もしますし、トイレも行きますし、蚊に刺されますし、人間の女の子も猫もロボットも好きになります。好物はどら焼きです。のび太君のお世話をするため22世紀の未来からやって来ました。初期こそのび太君が泣かされれば、鬼気迫る表情で報復に走っていましたが、今では知っての通りかなりドライな対応です。単なるお付きのロボから気の置けない仲になった証なのかなと思っています。

 

野比のび太……本作の主人公。何をやってもダメな小学生です。近年では眼鏡外したらイケメンとか、他人の幸福、不幸を云々とか彼を肯定的に捉える風潮が強まっていますが、割とマジでダメな奴なのが良いところです。意地っ張りで幼稚でスケベで、イタズラも不正も進んでしますが、悪人にはなれない。何だかんだ友達も多い憎めない少年です。

 

 

源しずか……みんなのアイドル的存在の女の子で、のび太の暫定未来のお嫁さんです。お風呂が大好きでしょっちゅう入浴しています。アニメと原作で割とキャラぶれが激しい『ドラえもん』の世界において、比較的ぶれずに心優しくあり続けています。近年可愛さに拍車がかかっていると話題になっていますが、なぜか茶髪だった旧ドラアニメが異次元なだけで、彼女はずっとすこぶるキュートです。

剛田武(ジャイアン)……のび太の住む町のガキ大将で腕っぷしが強く、横暴な乱暴者です。基本、劇場版が絡まなければ性悪ないじめっ子ですが、豪快で過度にわがままなある意味でもっとも子供らしい無邪気さの表れなのかもしれません。歌手になるのが夢ですが、公害扱いされるレベルの音痴です。地頭ものび太に毛が生えた程度で実家も貧乏と、もしかすると最も作中で不憫な立ち位置のキャラクターな気がしますが、それを一切感じさせない逞しさが彼にはあります。ガキ大将の貫禄はもうすこぶるあると思います。

 

骨川スネ夫……ガキ大将であるジャイアンの腰巾着的存在で、まあまあ嫌な奴です。お家が結構なお金持ちでどこかに旅行したり高価なおもちゃを買ってもらってはみんなに自慢します。真噓を織り交ぜる自慢話は絶妙な子憎たらしさで、22世紀の道具を駆使できるのび太があっさり渋い思いをするのも、偏にその憎らしい話術にあるのかなと思います。趣味も多彩で凝り性なために、猶更です。ジャイアンと合わせてストーリーテリングには欠かせないキャラクターですね。

 

 

1.「しあわせ保険機」……(『小学5年生』 1983.5)

 と、言うわけで早速ドラえもんの好きな回を挙げていくのですが、やはり本作の売りは多種多様な秘密道具にあります。その多くは便利ですが、ドラえもんと同じようにどこか抜けていたり、絶対いらない機能がついていたりしてひょうきんな面があります。その点で、本作に登場する「しあわせ保険機」はかなり有用性の高い道具になっています。小学5年生向けのお話だけあって、保険制度という少し複雑な題材をとっていますが、登場人物を多彩に動かし良い例、悪い例を示して分かりやすく保険のシステムを教えてくれます。

 

 しあわせ保険機はどんなものにでも保険をかけることができる道具です。作中では、大切なプラモデルをママに壊されてしまったのび太のためにドラえもんが出してあげる流れで登場します。保険を掛けるという事は、何かのトラブルで失くしたり壊れたりしたとき、その分の料金を機械が出してくれるという事です。これがまたとんでもない破格で、一点につき10円で入ることができます。考えるまでもなく、お得な保険です。審査もないし、年会費も要りませんし。しかし、のび太はこのシステムがよく理解できなかったうえに10円を渋ったために加入を拒みます。ここで面白いのが、分からず屋ののび太に愛想をつかした機械が「話の分かる人」を探しによその家に飛んでいくところです。のび太はぽっと出の機械にまで馬鹿にされる定めにあるのです。

 

 話の分かる人……と言っても保険は信用が命ですから、未来の道具を抵抗なく受け入れられるのは限られてきて、加入したのはしずかちゃんとスネ夫の二人のみでした。しずかちゃんは大切なバイオリンに10円かけたのですが、運のいいことに直後にバイオリンが壊れ、保険機は素直にバイオリンのお金を現ナマで出してくれます。本人にその気がないとはいえ、彼女は10円で何千倍もの大金をせしめたわけです。

 ここで凄いのがスネ夫で、さすがの悪知恵を見せます。要らないおもちゃに大量に保険をかけ、わざとジャイアンの目につくように遊んで取り上げられるように仕向けます。まんまと目論見はうまくいき、スネ夫は大金をせしめます。いわばおもちゃの保険金殺人です。スネ夫の大成功を見たのび太が、遅れて保険の魅力に気づき、スネ夫の真似をするあほなカラスになりますが、しょぼいおもちゃばかりでジャイアンには相手にされず、仕方なく自分で捨てたために保険は下りません。その上、本来の目的だったはずの惜しいモノたちには何も保険をかけていなかったばっかりに再びママに処分されてしまいこのお話はチョンです。

 

 お話としても、よくできていますが、多分ジャイアンものび太と同じで魅力が分からず突っぱねたんだろうなという想像を働かせられたり、一貫して傍観者を決め込むドラえもんの表情が一々愉快なところが好きポイントです。

好きなコマです。横取りというより、バザールみたいになってます。本編内では度々、ジャイアンがステージギミックみたいになっている節があり、そんなところもギャグチックで好きです。あと、本当に品揃えが最悪なのも好きなところです。

 

 

2.「あとからアルバム」(『小学5年生』 1983.9)

 時間や人物を指定すれば、その人物の、その時間帯の姿を写真で出すことができる秘密道具「あとからアルバム」が活躍する回を取り上げます。完全にタイムテレビの下位互換なこの道具ですが、エピソード内のギャグや描写がキレキレで最高です。

 ファンにはお馴染みの設定ですが、のび太のパパは画家を志していて、絵が達者でした。宿題で嫌々下手な絵を描いているのび太に「自分は幼少期にコンクールで金賞をとった。大切なのは美しいものを表現しようとする心だ」と説教をします。パパの絵画論を話半分に聞いていたのび太は「パパの息子なら絵の才能が眠っているはず」とズレた解釈をし、うまく書けないのはモデル(ドラえもん)が悪いからだと断言します。「モデルがよくない。美しくもかわいくもない!」と気持ちよく眠っているドラえもんに言い放つコマが好きです。この時のドラえもんは絵に飽きたのび太に落書きを施されており、そこも愉快ポイントです。

 

 美しくてかわいいモデル。すなわちしずかちゃんにモデルを頼むのび太ですが、僅かな挙動が気になって集中できず、上手くいきません。そこに落書きに気づいて怒ったドラえもんがやってきて、悪行の証拠を突き付けるために「あとからアルバム」を用いります。のび太はその道具を使って、しずかちゃんのモデル用写真を手に入れようとしますが、スケベ心を働かせてお風呂写真ばかりを作成します。

 

「ヒャア……」じゃねえよ

 

 この後、しずちゃん本人にバレて丸ごと没収されるのですが、その時、一緒になってノリノリで物色していた癖に「ろくなことに使わないんだから!」とのび太にキレるムッツリ青狸が好きです。「どれもこれもまずいなあ」「実にまずい、もっと出せ」の実用性の高い会話も好きです。 「最後に良いことに使う」という宣言通り、のび太は空襲で焼けたパパのコンクール写真を復元してあげる温かいオチもついています。結局、欠片も進まなかった絵の宿題ですが、題材は「僕の親友」だったりします。一瞬でしずかちゃんに代わったものの、ドラえもんをモデルに据える辺り、エモーショナルです。

 

 

3.「ジャイアンへのホットなレター」(『小学6年生』 1983.12)

 僕が勝手に思っていることですが、ジャイアンの歌関連の回は神回だらけです。『ドラえもん』というお話の特性上、のび太一人にトラブルが集中してしまいがちな中で、ジャイアンの歌はみんなに等しく暴力的です。先輩がきつい職場の同期は仲が良好になると聞いたことがありますが、その理論が適用され心なしみんなの仲も良くなっているように思えます。

 ただ、その中でのび太とドラえもんだけは秘密道具を当てにされ、半ば一方的にジャイアンからファン代表扱いされ、自身のプロデュースを一任されています。今回もそんなこんなでジャイアンから無茶苦茶な要求を突き付けられる回になっています。

 

 事の発端は、「伊藤つばさちゃんへのホットなレターコンクール」という死語まみれの会で見事選ばれたスネ夫が彼女のサイン入りパネルをジャイアン含む友人たちに自慢したいつもの光景からでした。本来なら、みんなが羨み、中でも特に食いついたのび太がドラえもんの道具でもっと濃密なつばさグッズをゲットする……という流れになりそうなものですが、スネ夫の話は怒ったジャイアンが帰ったことで中断されます。「自分の胸に聞いてみろ!」と不機嫌の原因も言わず帰ったジャイアンの気持ちは誰からも察してもらえませんでしたが、唯一のび太から一部始終を聞いたドラえもんだけが「自分のことを歌手だと思っているジャイアンがアイドルに嫉妬している」という彼の筋違いな怒りを理解することができました。秘密道具云々を抜きにしてもファンクラブ会長の器がしっかり出来上がっているように思えます。

 

 ファンクラブを作るだけ作ってほったらかしだったことに気づいたのび太とドラえもんは素直にジャイアンに謝りに行き、流れでジャイアンの今後の希望、ファンクラブとしての展望を聞きます。ジャイアンは「ジャイアンを囲む夕べ」というファン実行型のディナーショーのようなものを企画しますが、二人の巧みな話術でこれを阻止します。で、代わりにホットなレターの募集です。つばさちゃんに倣い、金賞に輝いた手紙への景品として自身のサイン入りパネルをドラえもんに作らせます。

 「パネルを作る道具くらいあるだろ!?」とドラえもんのぽっけの万能性を見抜くだけでなく、以前から温めていたアイドル衣装を着せ替えカメラで即座に作らせ、スタジオセットまで出して撮影する手際の良さ。これら全てジャイアンの発案なのがすごいところです。ジャイアンのリサイタル衣装と聞いて即座にイメージできるであろうあの趣味の悪い装いはこの時に生まれています。また同時にポージングについてこれでいいか聞かれたドラえもんが「いい!いい!どうでもいい!」と応える名シーンも生まれています。コマの隅で「おぞましい」と胸を押さえているのび太がいい味出してます。

 この回ではないですが、のび太の「ジャイアンはなんであのひどい歌を平気なんだろ?」という問いかけにドラえもんが出した「当たり前だろ!フグが自分の毒で死ぬか!?」というアンサーを出した名掛け合いもありました。ジャイアンリサイタル回はセリフのキレも数段増します。

 

 そして一番肝心なホットなレターの募集を二人で進めるのですが、「出さないと祟りがある」「パネルはいい魔除けになる」と好き放題言って何とか十数枚程度の応募に成功します。ちなみにこの時、結果を早く知りたいジャイアンがタイムマシンで応募が終わった未来に行かせると、またも機転を働かせています。自分自身では何の希望もありませんが、本物のアイドルをプロデュースする立場になったりすると、案外腕を光らせるかもしれません。

 しかし、肝心のレターは匿名希望で悪口が書かれたとても本人には見せられないもの。会長二人の気苦労も知らず、会員は勝手です。仕方なく、秘密道具のもはんぺんで書いたお世辞まみれのレターでのび太が金賞に輝きます。………で、

この始末

 ちなみに、散々人の歌声をとやかく言っているファンクラブ代表の二人ですが、実は二人そろってジャイアンより音痴であると明言されています。まあ、無理やり人前で歌うか否かの違いですよね。

 

4.「超リアル・ジオラマ作戦」(『小学6年生』 1984.1)

 「ジャイアンへのホットなレター」の次に収録されたお話です。F先生のプラモ好きが爆発した回になっていて、全11ページ中の実に2ページもの尺を使ってスネ夫のいとこのスネ吉兄さんがジオラマ工作について熱弁するシーンが有名です。

 目下の親戚に教鞭をふるっているとは思えないガチッぷり。そりゃあのび太の落書きみたいなジオラマ写真を見るとムカムカしてくることでしょう。スネ夫に対抗するジオラマ写真を撮るため、ドラえもんは未来のデパートで実物大のフィギュアとセットを買いに行きます。実物大なので上で言われているような遠近やら量感やらを完全無視することができるわけです。喜び勇んでスネ夫に宣戦布告するのび太ですが、高価なので買えなかったとドラえもんから衝撃的な事実を打ち明けられます。引くに引けなくなったのび太はドラえもん抜きで、揉み合いでひょっこり入手できたポケットを使い単独でジオラマ作成に挑みます。

 僕がこの回を推している理由はここにあり、ドラえもん抜きでのび太が数々の道具を上手く駆使するのです。いつものパターンならのび太が一人で道具を使いだしたら失敗フラグですし、かと言ってドラえもん込みで打ってつけすぎる秘密道具を使って勝っちゃえばズルい気がして素直に喜べないのですが、本作では色んな道具を創意工夫して使い、相応の苦労もしているために素直にのび太を称えることができます。

 インスタントミニチュア製造カメラでビルのミニチュアを作り、それを実際に壊して配置し、ジオラマにスモールライトで入り込んだのび太が撮影する。完成した写真はメンバーの度肝を抜く素晴らしい完成度でスネ夫に煮え湯を飲ませることに成功します。是非、スネ吉兄さんにも見せてあげてほしいところです。のび太が頭を働かせた一方で、愚直に巨大フィギュアを無理して購入してきたドラえもんが対照的ですね。のび太思いではあるものの、道具使いはやっぱりお粗末なドラえもんが愛おしいです。

 

 

5.「ションボリ、ドラえもん」(『小学3年生』 1981.4)

 秘密道具を上手く使いこなすと言えば、ドラえもんの妹、ドラミちゃんが印象的です。本作はケンカしてばかりでのび太が真人間になれるビジョンが見えないと判断した未来ののび太の孫、せわしがドラミちゃんと世話役をバトンタッチさせようとするお話になっています。有体に言うと、寂しいものののび太の成長を思って身を引こうとするドラえもんと完璧なドラミのサポートに大喜びしていた一方で代わりにドラえもんが帰るとなると即座に猛反対し泣きつくのび太の友情を描いた感動回です。もちろんそのストーリーも最高ですが、ドラミちゃんによる模範的な秘密道具の使い方を見ているのも楽しいです。

 例えば、朝寝坊は夢を操作できる「ゆめコントローラー」で悪夢を見せて強制的に起こします。学校の居眠りも同じく「ゆめコントローラー」でしずかちゃんに「勉強を頑張ったらのび太さんはもっと素敵になれるわ」と言わせることでやる気を奮い立たせます。一つの道具でアメもムチも駆使するドラミちゃんの力量は流石です。ドラえもんはいつも美味しい思いだけさせるために、その後勝手な使い方でのび太がセルフで過剰なムチを負っています。ドラえもんにはない、適度なコントロールです。

 さらに体育の時間、ヘロヘロになりながらランニングをするのび太へのアシストでも、ドラミの腕が光ります。透明マントでこっそりフォローしようとするドラえもんに対し、「自分の力でやり遂げさせないとダメ!」と周囲のヤジを声援に変える「自信ヘルメット」を使ってのび太の根性を捻りださせます。「道具に頼らず自分の力で~」はドラえもんもいつも言っている文言ではありますが、便利で楽できる機械を先に見せておきながら、のび太のやる気を促しても小学生には厳しいお題でしょう。のび太の意識を前向きに修正することで本人の力で熟させるドラミの方針は教育者として満点の対応に思えます。

 

 その後も「昼寝したい」「遊ぼう」というのび太の欲求に「瞬間昼寝ざぶとん」と「クイズパズル光線」で応えます。前者は名前の通り、一瞬で十分に昼寝したと思える道具で後者は学校の勉強を楽しいクイズ形式で学べるように変える道具です。特に後者は画期的で、ドラミちゃんはのび太の「遊びたい」という欲求をかなえると同時に彼の重荷であった宿題まで片付けさせることに成功したのです。ママと一緒になって「宿題してから!」と昼寝も遊びも止めてきたドラえもんには無かった発想と言えます。

 言うまでもなく、完全敗北のドラえもんですが、上記の通り例えポンコツでも、自分にとってプラスにならなくてものび太はドラえもんを取ります。そもそものび太にとってのドラえもんは「お守りロボット」でも「保護者」でもない親友なわけですから、今回の議題そのものが不毛だったわけです。ちなみにこの回はのび太が体感18時間も家出をしてママを心配させる「のび太のなが~い家出」と同時収録されています。この回もわずか数コマで読者を感動させる好きな回です。

 

 

6.「百丈島の原寸大プラモ」(『小学4年生』 1982.7)

 のび太とドラえもんが深い友情に結ばれていることは前回でよく分かりましたが、やっぱり名目がのび太の世話である以上、ドラえもんの献身的なサポートや責任感は本作の大きな魅力です。というわけで何から何までスケールの大きいこのお話をチョイスしました。本編も23ページと、尺まで大ボリュームです。基本、長編のお話でスケールも大きいとなると、秘密道具ではなくメインキャラやSFをテーマに据えた内容になったりして、たくさんの秘密道具を駆使することになりがちなのですが、この回はほとんど「プラモ化カメラ」という単純な秘密道具のみで展開されています。そんな所も好きなポイントです。

 

 夏休みにスネ夫が四丈半島の別荘へ遊びに行くことを提案するのですが、定番の流れとしてのび太は仲間外れにされます。島で浮かべる予定のクイーン・エリザベス号のプラモを見せに呼んでおいて仲間はずれにする徹底的ないじめっ子ムーブです。ちなみにもはや定番すぎるこの流れはのび太自身も理解しており、「どうせ僕は仲間外れなんだろ?」と反対にスネ夫に言っちゃう始末です。それに対して悪びれもせず「当たり!」と返すスネ夫……見上げた根性です。

 悔しがるのび太のために、ドラえもんが何かしら道具で別荘や海に連れて行ってくれるのも込みなお決まりの流れですが、今回はプラモ絡みのイベントだったために、ドラえもんは単に無人島に行くのではなく、超巨大な無人島のプラモデルを実際に組み立て、そこでプラモ遊びと無人島遊びを両立させると凝った趣向で、気を巡らせます。そこで登場するのが、撮った写真を何でもプラモデルにしてしまう「プラモ化カメラ」です。スケールも自由に調整できるうえに、未来のプラモだから電池やリモコンなしで動くという万能っぷりです。

 

 「ノーリツチャッチャカ錠」でテンポよくプラモデルを作っていくのですが、それでも島のプラモデルを作るのは並の苦労ではありません。どこでもドアで実際の海の上に組み立てていくのですが、夏休みの宿題を理由にのび太は途中で離脱してしまいます。一人で懸命にプラモを作り続けるドラえもんも健気ですが、その努力に応えようと今回はのび太も頑張ります。どうしても集中できないのび太でしたが、ここも「プラモ化カメラ」で先生のプラモ(原寸大)を背後に置いて乗り切ります。こうして、見事一晩でドラえもんは無人島を、のび太は夏休みの宿題を片付けることに成功します。見ているこっちが気持よくなる達成っぷりです。その後も、宿題を終えたことを信じてくれないママの目をごまかすため、先生の応用で勉強する自分のプラモを置き、いざ百丈島に上陸です。

 

 あえてスネ夫の四丈半島の近くに島を作ったドラえもんは、プラモ化カメラを使いありとあらゆる面でスネ夫を上回るスケールを見せます。クイーン・エリザベス号はスネ夫のものより遥かに大きいサイズ。彼らが遊泳を始めれば、泳いでいるのび太を出してより優雅に泳がせる。魚釣りを始めれば魚のプラモをたくさん作り、多種多様な魚を釣り上げ楽しむ。スネ夫のもとに行ってしまっているしずかちゃんの代わりに、プラモデルのしずかちゃんを作って一緒に遊ぶ。……と、手を変え品を変え結構粘るスネ夫に負けじと、色々なバックアップを用意するドラえもんの懸命な姿にグッときます。ところどころそれでいいのかと思わんでもないモノもありますが、本人たちが楽しそうならそれでいいのです。

 ちなみに僕の父親が以前、「しずかちゃんはいい人ぶってるけど、スネ夫に仲間外れにされたのび太をほったらかして誘いに乗っている」とみんなのアイドルしずかちゃんを下げるような指摘をしていましたが、この回では無いにしてもしずかちゃんは「のび太さんを仲間外れにするんなら私も行かない」とキッパリ断ってもいます。ていうか、小学生なんだし、多少欲に負けちゃうところがあっても仕方ないでしょと思います。

 

 

7.「けん銃王コンテスト」(『小学6年生』 1976.1)

 まだまだわんさか好きな回はありますが、今回の記事は一先ずこれでおしまいです。このお話は「射撃」というのび太の特技にフォーカスした内容なのですが、驚くべきはその腕前です。射撃をつまらないことと一蹴するドラえもんに「僕の生まれた時代が西部劇の時代なら歴史に名を残していた」と言い返すのび太でしたが、これが自惚れでも、フラグ建設でもない言葉通りの意味で描かれています。

 今回登場する秘密道具は「空気ピストル」です。映画などでおなじみのドラえもんを代表する武器「空気砲」とは、似てこそいますが違う道具です。「空気ピストル」は小瓶に入った液体で、これをモノにつけ乾かして「バン」と唱えれば一発分の空気弾が打てるようになるのです。これを受けてのび太はスネ夫、ジャイアン含む男子計7名を誘って西部劇ごっこを開催します。両手指分、合計十発の「空気ピストル」を仕込んで、町を歩き、相手に会ったら決闘するという『バキ』死刑囚編ルールみたいな遊びです。空気弾は怪我こそしませんが中々の衝撃で気絶は必須なので、スリリングです。男なら一度は憧れる遊びですね。

 

 で、ネタバレ…というか元も子もないことを言いますが、今回参加した7名のガンマン。一人残らずのび太一人が片付けます。先に劇場版などを履修している初見時の僕でも、ここまで無双するとは思いませんでした。

 上の画像は一人目の相手を楽々圧倒したシーンになりますが、ただ一発で打ち倒しただけではありません。まず、ビビりであがり症ののび太がこの涼しい反応をしているというところから凄いです。このゲームをやりこんでいるどころか、この時点ではまだドラえもんから軽い説明を受け、ちょっと木の葉を撃った程度の段階なのにこの余裕っぷり…それだけ射撃には自信があるのでしょう。そして、相手が3発も乱射しているのに、その場から一切動いていません。相手の手元を見て、弾道を読み、当たらないことを理解しているのです。

 これを見たスネ夫とモブBが二人係で、しかも背後から襲いますが、一足早くのび太は車のミラーでこれに気づき、またも一発ずつで仕留めます。いつも前方不注意でドブに足を突っ込んでいるとは思えない程の観察眼。御見それする次第です。その後、激しい銃撃戦をしていたモブ3人組を煽り、またも多勢に狙われますが、これも涼しく対処します。残りはジャイアン一人ですが、モブ3人の漁夫の利を狙うつもりだったらしく、既にその場に潜んでいました。しかも、野良犬をけしかけのび太に残弾を使い切らせます。卑怯ですが、勝利にどん欲なフレイザードスタイルは天晴です。

 これには流石ののび太も冷や汗をかきますが、10発綺麗に残していたジャイアンの弾幕を潜り抜け、気絶しているモブのピストルを使うことで無事、打ち負かします。テストで0点ばかり取る男の機転とは思えません。

 

 ドラえもんのメインキャラクターにはそれぞれ長所があります。しかし、ジャイアンの腕力は中学生には適いませんし、スネ夫の財力も養子にもらわれていった弟のスネツグには劣ります。可愛くて人気者のしずかちゃんも、アイドルや目新しいカワイ子ちゃんに目移りされてしまうことがあり、絶対ではありません。そんな中で、のび太の射撃に関しては群を抜いた特技と言えます。以前、何かの記事で「のび太は射撃が上手くて、どこでも寝れるからスナイパーの素質がある」と書かれていましたが、この回を見ているとあながち大げさな評価でもないような気がしてきます。

 

 

 

 

 さて、というわけで選んだ7選。いかがでしたでしょうか?「帰ってきたドラえもん」や「ぺろ!生き返って」と言った有名エピソードを極力除いたチョイスをしてみたのですが、やっぱりまだまだそれでも挙げたりません。また今後も一話完結ものの連載作品から好きなエピソードを紹介したいと思いますが、いずれ『ドラえもん』の第二弾も行なえたらと思います。