僕は動物が好きですが、さして飼おうと思いません。金かかるし面倒……という現金な理由もありますが、それ以上に飼育してかわいがると言う行為に別に憧れがありません。あくまで生態的な面で、動物が好きだったりします。動物園にもよく行きます。僕はまだそんなので動物を好んでいる節がありますが、僕の母はもっと極端で、キュートな動物を見ても可愛いと思わないのだそうです。そんなドライなことを言っているのに、母の実家……つまり僕目線で言う祖父母の家では犬を飼っていました。もう今では亡くなったのですが、その犬も二匹目。つまり実に二匹の犬と老いて死ぬまでたっぷり一緒に生活していたのに、犬や猫が好きではない、可愛いと思わないと言うのです。のび太のママみたく嫌いなわけでもなさそうですけどね。

 ただ、母が結婚する前から飼っていたという一匹目の犬のことは可愛がっていたそうです。その犬はラッキーと言うのですが、ひとえに母は犬ではなく、ラッキーを大切に思っていたと言うことなのです。種ではなく個を愛する。ある意味で、最も健全なペットへの向き合い方かもしれません。

 

 今回取り上げる猫の登場する漫画、「ミーコ」の主人公、浩太も猫ではなく半ば押し付けられるように飼い始めたミーコ単体が好きだと言います。ミーコとは子猫の時から一緒だったため、浩太に非常によく懐いています。好きという言葉通り、浩太もミーコのことを大切に思っています。相思相愛です。

 ですが、浩太には彼女ができて、浩太の家に頻繁に遊びに来るようになりました。もう浩太とミーコだけの愛の巣ではなくなってしまったわけです。彼女も良い人そうで、かつ猫好きなためミーコを可愛がりますが、当然それ以上に浩太と親密になっていきます。気が付けば姓呼びから名で呼び合うようになり、ミーコが寛いでいたベッドも、二人が夜を共にするので追い出されてしまいます。裸で眠り合う二人の間に、挟まるように割り込んで眠るミーコが健気です。

 彼女が家に居ない間も、浩太は今までミーコにしていた近況報告やお話を電話で彼女に済ませてしまいます。良い事があったことを嬉しそうに報告しながら、餌を用意してくれていた浩太でしたが、今では電話のながらでサッと用意して終いです。

 

 そんな日々にミーコもジェラシーを燃やしたのか、二人の行為中に浩太の服に粗相をします。浩太はボケてしまったのかと心配しますが、彼女の方は同じ女として通じるモノがあったのか、ミーコの気持ちを察し始めます。何だか一触即発な空気になりそうで身構えてしまいます。

 そんな折、浩太がシャワーを浴びている間に彼女がミーコに話しかけます。一体何を言うつもりなのでしょう。それは、浩太から聞かされたミーコの知らない「浩太のミーコへの愛について」でした。浩太のメルアドがミーコの名前であること、浩太は死んだらミーコと同じ墓に入るつもりであること……猫であるミーコには知る由もない深い深い愛を、彼女はどこか羨むような口調で教えます。今までミーコ視点で描かれた物語で、てっきり浩太はミーコへの愛を失いつつあったのかと錯覚しそうになりますが、彼女への愛が生まれて育まれても、ミーコへの大きな愛は健在だったのです。とても見せ方が巧みだと思います。

 

 さて、では反対に彼女がメラメラとミーコにジェラシーを燃やしてしまうのでしょうか? またも一触即発な空気間です。と、読者が勝手におののいているも束の間、彼女は「私も浩太のこと大好きなんだ」と思いの丈を伝えます。しかし、続けて「でも私、ミーコのことも大好きなんだ」と続けます。「だからまた来ても良いかな?」とミーコに聞きます。今までのお話はミーコに自分を認めて欲しかったから取った行動だったのです。それに対し、ミーコは気を許したようにお腹を見せ、浩太が戻ったころには2人してベッドで眠っていました。脳がメキメキ浄化されていく音がします。

 

 これから始まるであろう二人と一匹の幸せな生活に読者が心を弾ませたところで本作は終了します。とても優しくピュアなラブストーリーに加えて、繰り返しになりますが展開の仕方が丁寧で読む者の心を掴んでくれます。この彼女が取った行動は猫としてではなくミーコという個人で対象を見た結果なのだと思いますが、そういった気持ちの問題は今回は置いておいて、猫という存在の女々しさ、女らしさについて触れたいと思います。

 気まぐれな性格や、懐かれればべったりな性格から女性の心を重ねられることが多い猫ですが、見た目も重要なのではないかなと僕は思います。顔立ちやしなやかで柔軟な肢体。そして、容易く人間の体に乗っかったり、寝床に入ってこれるサイズ感。これらが一層、ふれあい度を増し、可愛さに加え、共に暮らしているという実感に繋がるのかなと思います。飼い主の中には自分は猫の奴隷であるとマジなのか酔っているのか分からないことを言う人がいますが、奴隷よりも恋人のつもりで触れ合ってみるのも案外乙かもしれないと、本作を読んでいると何となく思います。可愛くってわがままで気品と愛嬌があるって今思えば最強の女性像かもしれませんね。

 

出典:『ミーコ』冬川智子 エンターブレイン(ビームコミックス) 2019.3

初出は講談社 モーニング23号 2014年

 

 

☆これ聞いて書いてました:38

『燦々』カネコアヤノ (2019)

バンドセットと弾き語り形式の二刀流で活躍するシンガーソングライターフルアルバム4作目 「光の方へ」収録

 

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力強い歌声と淀みのない歌詞が凄く素敵です 生まれる時代を間違えたとよく言われてますがどういう意味でしょうかね?