panpanyaさんの作品もこれで4作目と言うことで一週間も折り返しです。特殊な日常を生きているpanpanya作品の主人公ちゃんはそのアルバイト先も変わっていることが多いです。アルバイトでは基本的に意味不明な仕事内容やトラブルにてんやわんやな彼女ですが、反対に「魚社会」で流通会社を立ち上げたように頓珍漢な事態を逆手に取り、商売を始める場合もあります。例えば、知人から沢庵のプラモデルなる珍妙なものを横投げされた際は、滅茶苦茶うまい沢庵製造機に化けたプラモで沢庵屋を営業したりしていました。……漫画で見ればよく分かる普通のお話なのですが、要所を端折るとこんなにもボーボボ次回予告みたいな混沌無形さを醸してしまうのですね。

 

 そんなわけで今回は変なバイトに勤しむ主人公ちゃんのお話を取り扱いたいと思います。彼女は電力会社で発電するための労働をしているわけなのですが、それというのがコンベアを流れてくるココナッツを割ると言う摩訶不思議なモノでした。一体全体、ココナッツを割る行為のどこに発電する要素があるのか働く主人公ちゃん自身分かっていません。コンベアの先の深い深い穴の中に落ちていく割れたココナッツを見ながら主人公ちゃんはその行く末を思います。ココナッツの果汁が何かしらの電気エネルギーを孕んでいるのかとか考えちゃいますが、果汁は全て100%ココナッツジュースとしてアルバイトのドリンクバーに費やされるのでその線は薄そうです。いよいよ謎ですね。

 読者も俄然その先が気になるところですが、主人公ちゃんはココナッツを割るだけの女子ではなく華の女子高生。学業が本分です。その学業の一環で竹細工を作ることになり、主人公ちゃんは器用に鹿威しを作ります。シーソー状の竹筒の先に水を貯め、水の重さに耐えきれなくなり傾いた竹筒がカコーンと気持ちよい音を出すアレです。文字通り、鹿を驚かせる効果も「トリビアの種」にて立証されていました。

 

 しかし、学校の課題で作った創作物というのは得てして置き場に困るもの。主人公ちゃんも鹿威しを早速もてあましますが、アルバイト先にてある名案を思いつきます。それはココナッツジュースのドリンクバーをホースでつなぎ、コンベアの前に設置した鹿威しに向けるというアイデアです。なんのこっちゃと思われるでしょうが、早い話がココナッツジュースを垂れ流し続け鹿威しをカコンカコンフル稼働させることで自動的にココナッツを割れるようにしたわけです。体よくサボれるようになったってことです。真面目なイメージを勝手に植え付けられがちな主人公ちゃんですが、宿題はめんどくさがるし、仕事はサボりたがるし案外怠け者です。「ていうか鹿威しにココナッツを割る力があるわけないだろ」とか考えないでください。きっと鉈のように鋭い竹筒なのです。

 

 ですが、そもそも工場には定期的に勤怠をチェックする管理業の人がいるわけでして…。主人公ちゃんのサボりは当日中にバレました。工場長に詰められ「すいません…鹿威し使ってサボってました」ともう二度と聞かないであろう謝罪をする主人公ちゃんでしたが、工場長の反応は至って明かるげ。ココナッツさえ割れてりゃ後はどうでもいいのですから当然と言えば当然です。そして、お役御免となった主人公ちゃんはリストラされます。ココナッツが割れてりゃ人間はいらないんですから当然と言えば当然です。ここで鹿威しのレンタル料とかアイデア料とか言えない主人公ちゃんですが、アイデアはともかく鹿威しは主人公ちゃんのものである必要ないんでした。

 リストラは困ると、別の部署を案内してもらう主人公ちゃん。ここで予期せず主人公ちゃんは発電の仕掛けを知ることになります。正直、ここまで引っ張ることかと呆れるほどツッコミどころ満載な発電内容ですが、発電はシンプルな自転車発電でした。僕も伏見区の青少年科学センター横にある京都エコロジーセンターでやったことありますよ。肝心なココナッツの用途に関してですが、自転車走者のヘルメットとしてココナッツの殻がカポッと嵌められる…これが全てでした。

 リアルで走ってるわけではないのだから別にヘルメットいらないし、そもそもヘルメットの代わりにココナッツの殻ってのがわけ分からないし、頭ベタベタしそうだし、でもココナッツってオイルとかが美容に期待されてるから案外頭皮にいいのかもだしで、頭ん中グチャグチャになります。主人公ちゃんが案内された次の部署はズバリこのライダーになることですが、ものぐさ太郎の主人公ちゃんにこんな肉体労働はできません。逃げるように去っていきます。ここの工場シーンは意図的に怖く、威圧的に描かれていて不気味ですが、冷静に考えれば怖いより先にシュールが勝つ世界観です。風邪ひいた時の夢みたいって言う例えは月並みでしょうか?

 

 ストーリーの合間で、主人公ちゃんはこの工場の発電方法をまだ知らなかったときにその仕組みについて教師に質問していました。その教師も当然、頭を抱えたわけなんですが、後日…主人公ちゃんが全てを知りしっぽ撒いて鹿威しも置いて逃げた後で、意気揚々と自分が立てた仮説について主人公ちゃんに話します。バイオエネルギーが近年注目されていて、ココナッツもそれを孕んでいると言われているからそれだろう…とか、レモン電池の要領で金属の化学変化をうにゃうにゃ…とか。かすりもしていませんが、ハッキリ言って先生が持ってきてくれた仮説の方がよっぽど現実的です。主人公ちゃんもこんなに一生懸命知恵を絞ってくれた手をこまねいて調べてくれた教師にあんな真相を話すわけにはいかず、冷や汗をかきながら引き攣った笑みを浮かべていました。

 つげ義春先生の影響をフルに受けているであろうpanpanya作品ですから、こんな夢のようなお話もあってしかるべきだと思います。こういう話が無性に好きな僕ですが、これはシュール云々以前に絵的な世界観を楽しむお話だと思います。

 

出典:『蟹に誘われて』panpanya 白泉社(楽園) 2014.4

初出は作者同人誌…2012.2

 

 

☆これ聞いて書いてました:23

『ZABADAK』ザバダック (1991)

吉良知彦率いる日本のプログレ集団 トリオ期の1stアルバム 先発のミニアルバム2枚を合わせた編集盤

 

Spotify有

ザバダックはいつだって聖域ですが、上野洋子がいた時代の彼らにしか描けない世界はあったと思います