panpanyaさんの通算6作目の短編集『グヤバノ・ホリデー』から「学習こたつ」を取り扱います。氏の作品の主人公ちゃんは小学生~社会人の若者までを扱っている作品が基本ですが、本書の表題作やここの記事でも扱った「カステラ風蒸しケーキ物語」のように時折、作者自身のエッセイが織り込まれます。どれも読んでいて楽しいですが、個人的に好きなのは小学生が主人公のケースです。何と言うか、どれだけ奇抜なお話でもすっぽり町内に収まっている感じが可愛いんですよね。あと、純粋に子どもっぽい悩みで頭を抱えたり、夢中になっている主人公ちゃんも魅力です。

 

 そんなわけで小学生主人公ちゃんのお話を取り扱います。このお話は平たく言えば、小学校の各々の机にこたつが付属し、温かい環境で勉強できるようになったというものです。まだテスト導入と言うことですが、どうもカルフォルニアの大学で研究された結果、こういう具合にリラックスして学習することが良とでたみたいです。メリケンのジャパニズム好きは遂に我々の教育環境にまで押し寄せてきました。

 確かに僕が学生の時分も、やたらと足を温める女子が多かった気がします。女子の膝元毛布率は誇張抜きに99%を超えていました。反対に男子でやってる奴はこれまた誇張抜きに0%でした。女子には冷えやすいとか、スカートで通気性が良く寒いとか、様々な悩みがあるのかもしれません。まあ、男子だって寒いこた寒いんでしょうが、彼らは見栄でそういうことできません。すいませんね馬鹿で。

 それでも僕の学校では授業中の毛布使用は禁じられていました。つまり、この主人公ちゃんたちのこたつ導入制度は非常に画期的というか、斬新なものなわけです。当然、大喜びする主人公ちゃんたちですが、反対に大学の研究とやらに関してはいぶかしむ主人公ちゃん。曰く、こんなぬくぬく環境を設けてしまえば、学習力向上どころか注意散漫、居眠り続出でデメリットしかないと言うことです。全く持っておっしゃる通り。彼らメリケンはこたつが持つ魔性の力を知らんのです。

 

 しかし、まだテスト段階。当然、主人公ちゃんが危惧する通り、実績が悪ければこたつは廃止です。この降って湧いた極楽浄土を守るため、主人公ちゃんと友人ちゃんはテストを頑張り、成績向上を目指して廃止に待ったをかける作戦を立てます。予期せずこたつが、想定とは違う形で学力向上に働きかけました。

 努力の甲斐あり、見事100点満点を獲得する主人公ちゃんたちでしたが、何と作戦に加わっていなかった大半の生徒たちが同様に学力アップを果たしていたのです。信じられませんが、本当にこたつには学力向上の効果があったようです。今思えば、寒い環境で手がかじかんだ状態でやるより、ぬくぬくとココアでも飲みながらやってた方が、確かに宿題がはかどっていた気がします。我々ジャパニーズはこたつが持つ秘めたる可能性を知らんかったのです。

 

 こたつの正式導入が決定し、結果的には良かったものの、何となく釈然としない主人公ちゃん。頑張って勉強した成果が出たと思ったのに、それの何割かがこたつによるバフだとしたら確かに嫌かもです。帰って宿題をしますが、テーブルでは捗らず憮然としながらこたつに移動し、本作はチョンです。

 こたつ導入。理想的なお話かもですが、リアルでやっても大方主人公ちゃんが危惧していた通りになって終わるだろうと思います。何より、こたつの中でスマホをいじったりお菓子を忍ばせたり、よからぬことを考える奴もいそうです。画期的な体制を崩すのは基本的に誰かしらあくどい奴の蛮行ですからね。何てお堅いことを言ってみましたが、個人的にはそもそも学校が支給して、教室に据え置きで置いてあるこたつなんて汚くて使いたくないのが本音です。僕が潔癖というよりは、通っていた学校が小中高全て歴史があり、ボロだったことが大きいかと思います。色んな意味でフィクションだから楽しめる夢のようなお話って感じですね。

 

出典:『グヤバノ・ホリデー』panpanya 白泉社(楽園) 2019.2

初出は同誌のWEB増刊 2017.3

 

 

☆これ聞いて書いてました:22

『ファンタズマゴリア-ある幻想的な風景-』カーヴド・エア (1972)

最高傑作の呼び声高い英のプログレバンド3作目 様々な楽器を用いた実験性の高いアルバム

 


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ソーニャ・クリスティーナの美声がすごく良いアルバムです このツアー中にメンバーが次々脱退したのは何故?