大が付くほど変態な漫画を描く駕籠真太郎先生の大が付くほど名作短編集『大葬儀』から「大酔狂」を取り扱います。『大葬儀』はエロティクスにて掲載された短編をまとめたものなのですが、その作品の多くが冠に「大」を付けており、大規模な仕上がりになっています。何がどう大規模なのかは見てのお楽しみですが、ただ単に猟奇趣味な作品では終わらないとだけは言っておきます。

 

 社会人になり、アパートにて冴えない一人暮らしを始めた僕ですが、越して間もないころに一度だけ間違えて横の部屋に鍵を突っ込んだことがありました。お隣の方に気づかれなかった…もしくは留守だったから良かったですが、入口に何か違いを作っておかないとぼうっとした拍子に間違えて入ることも無いとは言い切れません。

 それが泥酔中なら猶更です。というわけで本作は、飲んで帰ってきた亭主がマンションの階を一階分間違えて、真下の部屋に入ってしまうというお話です。お話です…と言い切りましたが、もちろん駕籠真太郎先生のマンガですから、単に間違えただけという『サザエさん』みたいな展開では終わりません。何と酔っぱらった亭主はムラムラしていたのか、出迎えた人妻を自分の嫁と勘違いしてブツを突っ込んでしまいます。階だけでなく、奥さんまで間違えちゃったと言うわけです。

 

 うっかりミスがとんだ民事事件に発展してしまいました。これは襲われてしまった奥さんやその旦那はもちろん、上で帰りを待っている本物のワイフも黙ってはいないでしょう。……ところが、何とその奥さんも同じタイミングで、間違えて入ってきた上の階の住人に犯されてしまっていました。察しの良い方ならもうお分かりかと思いますが、さらにその上の階の奥さんも、さらにその上も、さらにさらにその上も……間違えて入ってきた上階の酔っ払いから性被害に遭っています。早い話が、本作はそういうお話なのです。

 シチュレーションこそ同じですが、そのプレイや夫婦間の関係にバリエーションがあり、途方もないほど高いマンションの途方もないほど続く展開の中で、作品の読みごたえを担ってくれています。個人的にもっとも可哀そうだったのが、裸エプロンで「うふ、あなたこういうの好きでしょ?」と言って愛らしくお出迎えした若奥さんがおっさんに襲われてしまったケースです。夫婦共に不憫でなりません。まあ、旦那の方は絶賛泥酔中で、上の階の女とよろしくやっていますが。

 この時点でかなり奇抜なお話ですが、駕籠真太郎先生が繰り出す性のバリエーションの豊かさを嘗めてはいけません。本作の肝は後半部、もはや性行為かすら怪しくなってくる…というか待ち構えているのが人間どうかすら怪しくなってくる辺りです。一部を箇条書きでご紹介しましょう。

 

・奥さんがカマキリでヨッパライの首をゴリゴリ食べる。

※カマキリの交尾は最終的にオスがメスを食べてしまうので、性行為には間違いないと思います。

・酔っ払いが間違えて奥さんの目にブツを挿入して大惨事になる。

※上の階の女性(つまりこの酔っ払いの奥さん)は両目が女性器なので、性行為には間違いなかったと思います。

・酔っ払いが間違えてモグラの目を墨で塗りつぶす。

※下の階の酔っ払いはハンマーを振り回していたので、待っていたのがモグラでも間違いなかったと思います。

※上の階で待っているのは達磨なので、目を塗りつぶすのも間違いではなかったと思います。

 

 こんな調子で徐々にセオリーが狂っていき、しまいには部屋を間違えるのが酔っ払いですら無くなります。この異常事態を知った奥さんが「この調子だと好きだった下の階の旦那様が襲ってくるわ!」と全裸待機していたにも関わらず、やってくるのは出前だったり、1174階の火事を消すために、消防隊が1164階に水をぶっ放したり業者まで間違えだします。ちなみに1174階では、1184階の旦那が「何だい今日は燃えてるね」と火事の中、燃えさかる女性に盛っていました。カオスすぎます。

 

 そして最終的にはマンションという本作の舞台すら超越してしまいます。超越という言葉を使いましたが、この駕籠真太郎先生の魅力というのも、今まで奇才だ、変態だと言ってきましたが、早い話が色々と越えていることだと思います。発想が我々のスケールを超え、猟奇描写が一般の範疇を超え、しまいにはようやく慣れてきて作品に楽しみを見いだせてきた我々の、面白いと思える境界すら超えてしまいます。これは他のマンガでは良くないことかもしれませんが、端から超えすぎている先生にとってはもはや一種の作家性です。まだまだ底が知れなすぎる先生ではありますが、これからも色々とハマっていきたいと思います。

 

出典:『大葬儀』駕籠真太郎 太田出版(エロティクス) 2002.7

※初出は同誌 2000年

 

 

☆これ聞いて書いてました:16

『VS.』パール・ジャム (1993)

グランジ・ロックの巨頭による2nd メロディックな曲調が多くアメリカでも大ヒットを記録した名盤

 Spotify有

一曲目の「go」から頭が沸騰するくらいカッコいいです。これは大音量で聞かなくてはいけないアルバムです。