るーみっくコメディへの愛はまだまだ語りつくせません。というわけで『赤い花束』収録の短編マンガ「パーマネント・ラブ」を取り扱います。丁度この短編集が発売されたと同時に高橋留美子先生の短編集読本『Oの悲劇・Oの喜劇』が発売されました。このタイトルは傑作短編「Pの悲劇」から来ているのでしょうが、P(ペンギン)からO(おっさん)に変わっています。どうも短編集の中でも登場するおっさんたちにフォーカスした内容になっているようですね。何ともまあコアな。

 

 以前もチラリとお話しましたが、高橋留美子先生の短編マンガに登場するおっさんは基本的に枯れた夫婦関係にどこか寂しさを憶えていて、自分に親切にしてくれた若い女性に勘違いして舞い上がり、一人で勝手に盛り上がってそのまま何事もなく萎んでいきます。男はいつの時代も綺麗な女性に親切にされたら勘違いする生き物なのかもしれませんね。大分前に取り扱った古屋兎丸先生の「アゲハ」のような痛々しい見てられない姿も多々ありますが、相手側に膨らんだ気持ちが伝わる前に終わることが大半なのでコメディの範疇に終わるので安心して見ていられます。

 

 さて、セオリーにさんざ触れてしまった為、もはやほとんどネタバレをしたも同然なのですが、本作も単身赴任で急遽一人暮らしになったOが勝手に舞い上がるお話です。僕が新生活で引っ越しした時は両親が泊りがけで来てくれて、色々と身辺の世話をしてくれたのですが、主人公、神本の単身赴任には妻も娘も来てくれなかったみたいです。妻は色々と忙しいと言い訳をしていましたが、その実は推しの韓流スターを追っかけていたにすぎず、「ほほほ、旦那には内緒内緒」と笑っていたところがバンキシャされていました。

 そんな寂れた気分の神本は行きつけの定食屋を設けるのですが、そこで決まって一人食事をしている美女に惹かれるようになります。惹かれた理由は一人寂しく遅い時間に安定食屋…というシチュにシンパシーを抱いたこともそうですが、何より妻が追いかけている韓流スターを苦手と口にしていたのが、高ポイントだったようです。すっかり彼女に夢中です。もちろん、単にチラチラ眺めるだけだったのですが、そんな彼女が美容室で働いている姿を偶然見てしまったのですから大変です。思わず散髪を済ませたばかりなのに、その美容院に行き、パーマをかけてもらいます。自身の浅はかな行動に呆れていた神本でしたが、定食屋で面識があることを彼女の方から言ってくれたことでめっちゃくちゃに浮かれます。トークも弾み、涼風という名前も知れて万々歳です。美容師のトークなんて接客の一環みたいなもんだと思うのですが、ここで「彼女は話すのが好きなようだ」と思っちゃう神本が…誰が何と言おうと僕は好きだ!!

 

 その後も定食屋で会話をするようになり、色々と涼風のプライベートについても理解を深める神本。若くして未亡人で、女手一つで息子を育てる苦労人ですが、その死んだ旦那がDV夫だったようで別に一人を悔やんでいるわけではなさそうです。ちなみにその夫というのが例の韓流スターにクリソツな為、苦手と言っていたようです。実家から子どもを引き取ったのはつい最近のようで、神本が毎晩のように定食屋で会っていたのは引き取る前みたいですね。

 その後も、仕事が忙しくて息子のサッカーの試合が観に行けないと嘆く涼風のために、こっそり試合を録画しようと観戦に行ったり、若白髪を指摘され、染めればどうかと言われ一コマで染めたりとるーみっくわーるどにおけるOの轍を順当に歩んでいた神本でしたが、彼には寂れているとはいえ家庭があるのを忘れてはいけません。

 

 ある日の夜、神本は高熱の身でありながら夜道を右往左往する涼風にバッタリ出会います。どうも息子が行方不明みたいです。熱に参り、へたれ込む涼風を自宅に寝かせ風邪薬を買いに走る神本でしたが、そんな折に妻からメールが届きます。何と、赴任先のマンションまでやって来たと言うのです。ベッドに若い女性が寝ている部屋に妻が上がり込むというとんでもない修羅場の予感に焦る神本でしたが、意を決し、何と妻を捨て涼風と共に生きる決意を固めます。

 さて、そんな覚悟を胸に部屋に戻った神本に待ち受けていたのは、妻と涼風と若い男が仲良く笑っているところでした。いなくなっていたはずの涼風の息子までいます。混乱する神本ですが、真相は何ともあっけなく…若い男は涼風の恋人で、高熱の母を心配した息子が連れてこようとしていたのでした。そこに涼風が現在地を知らせるメールをしたことで無事、全員合流できたわけです。神本の妻は、涼風の恋人が例の韓流スターにそっくりな為、すっかり上機嫌でした。恋人がいたことにショックを隠せない神本が思わず「あの韓流スターの顔苦手じゃなかったのか!?」と詰め寄りますが、彼は性格の方もバッチグーみたいです。神本完全敗北。とんだ独り相撲です。

 

 勝手に失恋したうえに、奥さんからは「そのパーマと髪染め、私の好きな韓流スターに似せようとしたんでしょうけど、似てないからやめな」と一蹴され、立つ瀬がない神本でしたが、奥さんが2,3泊って掃除をしたことで汚かった彼の部屋は綺麗になりました。やっぱり奥さんが一番なんですね。

 

出典:『赤い花束』高橋留美子 小学館(ビッグコミックススペシャル) 2005.6

初出は同社『ビッグコミックスオリジナル』2005.2

 

☆これ聞いて書いてました:15

『娯楽(バラエティ)』東京事変 (2007)

椎名林檎が在籍するバンドの3作目 椎名林檎作曲の楽曲が一つもない唯一のアルバム 「キラーチューン」収録

 

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まさか本当に椎名林檎がバラエティー番組に出演するとは…