三宅乱丈先生によるちょっと毛色が独特なホラー作品集『ユーレイ窓』から表題作を取り扱います。毛色が特殊というのは、ホラーのようなそうでないような話が盛りだくさんだからです。時折、ギャグ漫画なんかでホラー回や妙な終わり方をする回があったりしますが、そんな話がいくつも重なったみたいな短編集です。地味に気に入っていて何回か読み直しています。

 

 今回取り上げる「ユーレイ窓」は世にも珍しい怪談とサスペンスを織り交ぜたお話です。この二つのジャンルは雰囲気こそ似ていますが、実は全く嚙み合いません。例えば金田一なんかではお化けをモチーフに殺人事件が繰り広げられやすいですが、実は裏にトリックがあって科学的に証明可能なケースばかりなのが筋です。そりゃ、読者は理の通ったトリックを求めているのですから、何でもありの超常現象を用いられたらたまったもんじゃないでしょう。

 反対に追い回してきているおっかないお化けが実は被り物しただけの殺人鬼とかだったら…案外、こっちは喜ぶ読者も一定数いるかもしれません。事実そういうオチのお話結構ありますし。でも、そうなるとやっぱりお化けならではの演出は描けません。そんな中で、本作はキッチリとサスペンスを描いたうえで、ホラーも成立させている稀有というか、器用なお話です。サスペンスにつきものの有能だけど口の悪い癖アリ刑事も出てきます。

 

 事の発端は、ホラーそのものです。というか、読者も事件に巻き込まれる主人公もしばらくはホラーだと認識するはずです。主人公含む仲良しグループの面々は、罰ゲームを賭けたブラックジャックで敗北した藤田を病院のユーレイ窓に向かわせます。ユーレイ窓とは、主人公が住む部屋(今回集まっている会場でもある)から見える病院の窓であり、そこから黒い長髪の女性が見えると言うのです。十中八九患者ですが、その不気味な見た目や、目を離したすきにいなくなっていたという主人公の体験談から、いつしか仲間内でユーレイ窓として有名になっていました。

 言われた通り、ユーレイ窓まで行き、窓から主人公たちに何らかのサインを送っていた藤田でしたが、その直後、窓ガラスを割り勢いよく窓から落ちてしまいます。頭から地面にぶつかり、藤田は即死。罰ゲームはえらい大騒動に転換してしまいます。

 

 主人公と藤田と共にトランプをしていた里中が呼んだ他のグループのメンツも呼び、駆け付けた刑事に事の始終を話します。そして、ユーレイ窓のある病室は空き部屋であるという話や昔自殺した患者がいるという話を聞き、主人公はいよいよをもってユーレイの仕業であると慄きます。先述した通り読者もそう信じていましたが、刑事はそうは思っていませんでした。主人公に横暴な態度で色々と質問したり、調査をさせ、真相を探ろうとします。

 ちなみにこの刑事、幽霊の仕業と決めつける主人公に対し「この世には殺した人間とまだ殺していない人間の二種類しかいない。幽霊なんていないんだよ」と吐き捨てます。言われてみれば僕らが人殺ししない保証ってないよな…とあんまり関係ないところで何か納得してしまいました。

 

 後出し情報で申し訳ないですが、死んだ藤田にはカードの数字を記録できるというトランプにおける必勝ともいえるテクニックがありました。そして、それをフルに使い、賭博トランプで仲間内から何度も金を巻き上げていました。そんなチート持ちに勝負を挑むわけがないので、おそらく仲間は知らなかったのでしょう。主人公も藤田が死ぬ直前に、里中の口から初めて聞かされました。ちなみに主人公は賭けトランプには混ざっていませんでした。となると、カモにされていたのは里中と後から来た二人のみということです。動機は十分…そう!実は、これは幽霊の仕業に見せかけた姑息な殺人事件だったのです!

 と、記事で杜撰にお伝えするとチープですが、漫画ではすべてが自然な形で読者に伝えられているので、主人公と同じく「あそうか!」と膝を叩く展開が楽しめるかと思います。話の持って行き方がうまいです。何より読者が最初はホラーだと認識し、全く謎解きする姿勢で読んでいないのも大きいと思います。

 

 ちなみに里中らが用いたトリックですが、こちらも単純です。主人公に「いつもボロ勝ちしている藤田が負けるとこみたいだろ?いいじゃん賭博じゃないし!」とイカサマを誘い、共謀して藤田を負かします。そして、罰ゲームとしてユーレイ窓に行くよう指示、そして病室で待ち受けていた残りの2人が意識を奪い、窓から放り投げ殺害。藤田が死んですぐに残りの2人が駆け付けていたのも伏線だったわけです。里中が電話で2人を呼んだと言っていたのに対し、着信履歴がなかったことが決め手になり、見事お縄となりました。………ホラーのベールをまとっていなかったら許されないくらいヘボいトリックですね。

 

 ここまでだと、結局ホラーのフリしてちゃんと理の通ったトリックがあるいつものホラーサスペンスじゃないかと思われるでしょうが、まだ本作には「じゃあ主人公が見ていた黒髪の幽霊は何だったんだ?」というでっけえ謎が残っています。主人公が怪談話として聞かせたのを里中らがトリックに用いたと思っていましたが、実はその段階から、里中らは仕組んでいた…つまり幽霊も犯人たちの自演だったのでしょうか。少なくとも刑事はそう推測しますが、犯人たちは否定します。

 この最後の謎は主人公が真相を突き付けられる形で解明しますが、ぶっちゃけ謎は残ったままです。「なんで?」となると思います。ひょっとすると他に伏線があるのかもしれませんが、僕にはちょっと分かりませんでした。……まあ、最後にちょっとモヤが残るのもホラーあるあるということで一つ〆にしましょうか。

 

出典:『ユーレイ窓』三宅乱丈 太田出版(エロタクティクスf) 2009.12

初出は小学館 モーニング 2005.5

 

☆これ聞いて書いてました:12

『プライマリー・カラーズ』ザ・ホラーズ (2009)

ボーティスヘッドのジェフ・バーロウによるプロデュース。大注目のロックバンド2作目。

Spotify有

ライナーノーツの新谷さんの解説文。なんか限界オタクっぽくて好きです。このアルバムもハチャムチャに好きです。