「もろ☆」の愛称で親しまれている諸星大二郎先生の作品から「復讐クラブ」です。何だか駆け出し女性声優のニックネームのような軽さがある呼び名ですが、キャリア50年以上の超ベテラン漫画家です。一説には手塚治虫先生がその才能に嫉妬したという話もあるほど、緻密で繊細なストーリーを描き、多くのファンを抱えています。

 特に民話や伝説、宗教説話などをもとにした作品を多く手掛けている諸星先生ですが、本作「復讐クラブ」はかつての日本ではなく、現代の日本社会に焦点を当てたモダンホラー劇画です。非常にクオリティの高いシナリオは高い評価を受け、作者自身も自選傑作集に入れる程気に入っている著者を代表する作品です。「世にも奇妙な物語」で実写化もされました。諸星先生の作品は星新一や筒井康隆さんに次いで「世にも」で映像化されています。尺伸ばしや世界観をより「奇妙」にするためにアレンジされがちなシナリオも、本作はほとんどいじられないありのままの姿で映像化されました。偏にそれほど作品のテイストにあっていたわけです。主演の橋爪功さんがいい味を出しています。

 

 「復讐クラブ」と聞くと某うんこが出来なくなる漫画や……と先日公開したブログと重複するイメージを抱いてしまいそうになりますが、こちらも全く「社会の代わりに俺たちが制裁!」といったそれっぽく言えば反社会的、俗っぽく言えばスカッとジャパン的要素のものではありません。かといって『フリージア』のように複雑なものでもありません。本作の「復讐クラブ」は秘密裏に活動が行われている裏の世界です。

 内容も本当に稚拙極まりないもので、「復讐クラブ」の会員は自分が憎いと感じた人物の名前を記入すると、誰かが代わりにその人物に復讐してくれるという活動になります。復讐というのも突然転ばされたり、梯子から落ちたり…危ないと言えば危ないですがそこまで物騒なものではありません。執行された復讐は撮影され、クラブ内のシアターでまとめて放送されます。会員はそこで憎い相手の痴態を楽しむわけです。依頼以外の復讐にまで笑って鑑賞している様が、このクラブが本当に稚拙極まりないものであることを良く表しています。

 

 しかし復讐クラブけっしていいことばかりではありません。サービスではなくクラブですから、会員にも仕事はあります。その仕事とはずばり、他の会員が依頼した復讐の執行です。運営による正確なナビゲートの元、何の恨みもない人間に悪事を働きます。身バレを恐れているという根拠は分かりますが、どうせやるなら憎い相手にやればいいのではと考えてしまいます。

 本作のラストはそんな意気地のない現代人を盛大に皮肉った見事なものになっています。マンガも非常におすすめですが、「世にも」のドラマも非常に秀作です。タモリさんが最後にぽつりとつぶやくコメントが本作の魅力を引き立てています。

 さて本作を取り扱うにあたり、会員を散々馬鹿にした私ですが、こんなものは自分に実力がないからと、復讐クラブなんてものがこの世に存在していないから言えることです。もし私が「キラークイーン」を持っていたら…もし私が範馬勇次郎のような強さを持っていたら…もし私に独裁者スイッチがあれば…気に食わないものを一方的に虐げる存在にはならない、なるわけがないと、果たして胸を張って言えるでしょうか。

(出典:『諸星大二郎自選短編集 汝、神になれ鬼になれ』諸星大二郎 集英社 2004年11月)