若干話題に上げるのが遅いような気もしますが、ジャンプ+にて絶賛連載中の『放課後秘密クラブ』が面白いぞ!ということで、同作者さんの読切作品を取り上げます。物凄く昔に取り上げた「アマリリス」(一日一短編No.20)の時にもちらりと触れましたが、本作は福島先生では珍しい女性中心の作品です。少年少女という存在に対する造詣が深い作者さんですが、「アマリリス」にて男の子同士の不規則な愛を描いた一方で、本作では少女同士のファンタジックな愛を描いています。

 同性愛を描くのが好きなのでしょうか?それとも何でもいいから複雑な関係性を描きたいのでしょうか?作風については結構あやふやですが、いずれにしろカワイイちびっ子を描くのがすこぶるお好きだというのは間違いないと思います。

 

 タイトルにある「ルチア・オンゾーネ」とは主人公の少女を指しています。令嬢の上すこぶるカワイイ女の子で、自身もそれを自覚しています。ただ、その御父上は家族愛こそあれど民衆には悪政を働いている天竜人見たいな人柄らしく、反乱がおきてお家は存亡の危機を迎えます。父親は民衆を押さえつけるまでの間、ルチアちゃんを教会の孤児院に預けます。華やかな貴族生活から一変、一気に孤児院暮らしです。

 ただ、孤児院暮らしではあれど、孤児ではありません。物語を読んでいると、父親の口ほど反乱の火は容易く消せそうにないことが伝わりますが、少なくともルチアちゃんはすぐに父親が迎えに来ると思っているため、孤児である自覚など微塵もありません。だから、他の子どもたちが引き取り先で働けるためにスキルを磨いている間もずっとサボってあざ笑います。当然、イジメられたりもしますが、ルチアは尚もケンカ腰です。いい性格していますね。丁度、同じようにお嬢様で傲慢で、自分のかわいさを大いに自覚している『放課後秘密クラブ』の蟻ヶ崎さんみたいです。喋り方も似ています。ただ、傲慢なうえに図太い蟻ケ崎さんと違い、ルチアちゃんは何だかんだメンタル自体は普通の女の子の為、3ヶ月経って父親から何の連絡もないと、次第に気持ちが焦ってきます。気持ちが焦ってくるルチアちゃんの様子は、かわいそうですが、なんか可愛いです。

 高慢だけど寂しがり屋とか、高飛車だけど照れ屋とかそういう女の子が好きです。ただ、マジのマジでず~っと高慢で高飛車で根拠のない自信にあふれている性格の悪い美人も大好きです。ちなみに今の特徴を要約すると富江になります。

 

 関係のない話はやめて本題に戻るとして、ある日そんなルチアちゃんに友達ができます。自分と同じようにお稽古をさぼり、友達を作ろうとせず、尚且つ父親を待っているベッラという少女です。ルチアちゃんはこのベッラにつっけんどんな態度を取りつつも、彼女のおかげで心のうちの寂しさや不安がぬぐわれることを喜んでいました。裏を返せば、ベッラを必要とするほどルチアちゃんは追い詰められているわけです。それこそ、ベッラの正体が実は孤児院で身投げした幽霊であることを知っても拒絶しない程です。

 ベッラのおかげで気が休んでいたルチアでしたが、遂に父親が反乱の火に消されてしまったことを知り、いよいよ心も孤児と化してしまいます。こう書いたら何だか孤児を貶しているようでよくないですが、少なくとも今までの態度を拭おうと媚びへつらった笑みを浮かべるルチアは見ていられないやるせなさがあります。ここも可哀そうで可愛いです。

 実は孤児院には14歳を過ぎると里親が見つからなくても自立しなくてはいけないという恐ろしいルールがありました。いよいよ14歳になってしまうルチアは何の技能もないまま教会を後にしなくてはいけません。ただでさえ何もできないのに、もしも恨みを買っていた貴族の令嬢だとバレてしまえば、「きっとせいどれいにされてしまうわ」とのことですとも。絶望したルチアはベッラに促されるまま池に身を投げます。

 

 とまあ、ここまで書けばバットエンドですが、ルチアちゃんにも根性はあります。そして何より愛情もあります。このままでは終わりませんぜ。

 愛と言ったところで、ルチアとベッラはあくまで友情ではないのかと思われないでもないです。というより、作品の構成上友情でも何の問題もないはずなのですが、何とダイジェストで送られる日常の一コマの中で2人はキッスをしているのです。女性でも男性でもキスをした二人に友情は成立しません。さや香もきっとそう言います。あまりにもあっさり恋愛関係であったことを明かされたルチアとベッラ。福島先生のこだわりというか、同性愛であることへの意義というかは今後も注目しないといけないポイントですね。

 

出典:『アマリリス』福島鉄平 集英社(ヤングジャンプ) 2014年12月