超私事ですが、ただいま一身上の都合で石川県に来ておりまして、そのため手元に短編集がありません。ですので今回はインターネット上で見ることができる短編作品を取り上げたいと思います。言うまでもなさすぎることですが、ちゃんと合法です。

 今回取り上げる「番長エルフ」の作者はビュー先生です。小学館が運営しているブログサイト、オモコロ内にて連載している『レッツゴー怪奇組』の作者で知られる先生で、僕も大好きな先生です。シンプルにギャグマンガとしても面白いですが、キャラクターの言葉選び、マニアックすぎる小ネタなどがとにかく独特で、一々僕のツボに入ります。

 レッツゴー怪奇組は単行本にもなっているヒット作ですが、驚くことに全話無料公開されています。ネット漫画界の伝説、『ワンパンマン』と同じ大盤振る舞いっぷりです。怪奇組以外の作者の短編や別シリーズなども全て無料で公開されているので是非、ご興味持たれましたら読んでみてください。『スーパー不向きくん』とかもマジで面白いです。

 

 というわけで硬派な番長漫画を取り上げたいのですが、この漫画、失礼なことを言いっこ抜きで馬鹿正直に申し上げますと、何の中身もありません。繰り返しますが、失礼な発言ではありません。ギャグマンガとしてはむしろ大正解な内容だと思います。事実、ギャグはキレッキレですし、シュールに傾倒しすぎていないため万人が呼んでも楽しめる可能性を秘めています。

 河川敷を歩くヤンキー二人でしたが、己らの縄張りに知らない学生がいたので早速いちゃもんをつけます。しかし、ケンカを売ったその学生服の男は筋骨隆々のヤンキーエルフでした。否、タイトル通り解釈するなら番長です。ちなみにエルフであることを証明する身体的要素は耳がとんがっているのみです。ギリギリ耳が個性的な人間と見てもおかしくはない範疇ですが、速攻でエルフだと解釈したと言うことはある程度、本作の世界ではエルフという存在が浸透しているのだろうと思います。

 ですが、珍しい存在ではあるようで不良2人は初めて見たと慄きます。どうもエルフは単なる耳がとんがっているだけの亜人ではないらしく、訳の分からん妖術を使うらしいです。不良2人はそんなエルフの危険性をヒソヒソと語り合うのですが、話が変な方向に脱線し、「妖なんて悩ましい感じの漢字が入ってる術だから、ちょっと見てみたいよな」「お前はまっことゲスだなぁ」と、なんか変なことで盛り上がります。不良のくせにセリフがやたら長尺で、そのくせ一切のIQを感じないのはビュー作品あるあるです。

 

 しかし、そんなまっことゲスな方の不良にノータイムでエルフの暴力が入ります。エルフ特有のとんがった耳が不良の目に突き刺さり、一コマ前まで下ネタで笑っていたとは思えないほどの凄惨な状況になってしまいます。何と残忍な!と思わずたじろぐ読者と不良の相方ですが、どうも番長エルフに悪気はなかったようです。じゃあ何でこんなクレイジーな事態になっているのかというと、どうも番長はゲスな方の不良が言った「悩ましい感じの漢字」という駄洒落に、聞き手である相方が気付いていないのを気にして突っ込もうと思ったのです。その結果、石に躓いてとんでもない事態になってしまいました。友人が片目貫かれている状況ながら、「言った当人も(駄洒落に)気づいてなかったんじゃないか?」と冷静にツッコんでいるのもビュー作品ならではです。

 

 大して動揺していない番長エルフ。「頁の少ない成人漫画の導入みたいで嫌だ」なんて下ネタ言ってるくらいです。鳩こんろのエロ漫画の悪口はそこまでだと、僕が突っ込む前に、耳を引き抜くべく相方が駆け寄り、躓き、もう片方の耳に目玉を突っ込んでしまいました。

 もはやカオス何て言葉でも収拾がつかない状態ですが、エルフは持ち前の妖術で不良2人の傷を治します。二人は片目が治ったうえに視力まで回復するという棚からの牡丹餅をあやかることになりました。ですが、片目だけ視力が良くなってしまったアンバランスな状態はすっごい酔うみたいです。結果オーライで結局損をしている気がする不良たちですが、彼ら曰く常に酔っているから飲酒防止にも効果的らしいです。見習いたいほどのポジティブさです。

 

 そこに唐突に女学生エルフがやってきます。唐突にやってきた女学生エルフは、どうもエルフが支配する社会を築くことをもくろんでいる危険な存在のようです。番長エルフの今の一連の行為に何を見出したのか謎ですが、女学生エルフは彼のことを気に入り、仲間として合格の烙印を押しました。そんな彼女にノータイムで番長エルフのとがった耳が突き刺さります。もはやお家芸です。

 もちろん、番長エルフに悪気はありません。話が難しそうだったので近くで聞こうとしたらこんなことになってしまったようです。この世界を支配するのは人間でもエルフでもなく道ばたの石ころではないのでしょうか?ちなみにこの一連の流れに不良たちは興奮して視力が良くなった方の目でガン見します。リョナ性癖があるのではなく、単に男の凸が女性の凹に入っている状況を見て性行為を連想したようです。まっことゲスな二人です。

 目は直してもらったものの計画自体はコケ降ろされ、「覚えてらっしゃい」とテンプレートに女学生エルフは退場します。同族に嫌われてよかったのかと心配する不良たちに、番長は「そういう細かいことを気にしているから争いがなくならないのだ」と一周回って番長らしいのか否か分からない良いセリフを吐き、3人は友達になります。

 

 俺たちは友達になったという誰視点なのかすら分からないモノローグで締められる本作は驚くほど、中身が無いです。テーマもありませんし、ずっととち狂ってることを除けば起伏もありません。それでもストレートに面白いギャグ漫画のお手本のような作品です。何というか、漫画というより、コントとか漫才とかに近い世界観なのかもしれません。

 

※本作はオモコロにて2018.6.20に掲載されたもの