誰が言い出したのか定かではありませんが、日本には「爆発オチなんてサイテー!」という名言があります。そんなわけで今回は見事な爆発オチをかましてくれた短編を取り上げます。漫画界のサイケデリック担当、カネコアツシ先生の名短編集『ATOMIC?』の表題作で、冒頭を飾った作品です。作者曰く、ルースターズの「C.M.C」をモデルに描き上げたものみたいです。

 

 中学生男子二人組が女性を強姦するために頭部を鈍器で殴り、うっかり殺してしまうという世紀末過ぎる場面から本編は始まります。殴って気絶させようと提案したAは落ち着いてジュースなんか買いに行っていますが、手にかけてしまったBの方は慌てふためいています。

 とりあえず死体を廃屋の巨大なタンク内に隠すことにする悪童二人ですが、底の方にカバンが落ちているのを発見します。試しに開けてみて、二人はおったまげます。

 と…ここで急な場面転換、しかも時系列まで転換します。一般的な漫画よろしく、枠をベタ塗りとかしてくれていないので、まあまあ分かりにくいのですが、話は過去…少年たちが見つけたカバンがタンクに放り込まれた経緯に関する回想へと変わります。と言っても、まあ、大抵の読者の予想通り、そのカバンの中身は公に見つかってはいけない危ういモノでした。麻薬のバイヤーをしているヤクザから、別の組の鉄砲玉が奪い取ったドラッグだったのです。取引していたヤクザの一人を殺し、一人に深手を負わせ、何とか逃げおおせた鉄砲玉の男は、奪い取ったヤクを上に渡すまでの間、タンクに隠していたのでした。確かに、滅多なことがない限り、こんなへんぴな場所の廃屋にあるボロい貯水タンク何て誰も触ろうとしないはずです。

 

 しかし、知っての通りその滅多なことが起こったがために、ドラッグは悪ガキどもの手に渡ります。強姦未遂、殺人に続いて薬物使用まで重ねるガキどもの悪へのバイタリティがえげつないです。二人は殺人罪というとんでもない十字架を放り投げ、海外に逃亡する為に、薬物を売って資金集めを計画します。伝手、行動力、発想力、倫理観の全てが中学生離れしている少年たちですが、逃げる予定のロスをフランスかなんかだと勘違いしています。頭がいいのか、悪いのかって感じです。

 しかし、そんな悪しき計画を息子が立てている間、Aの父親は母親に高跳びの話を持ち掛けます。Aの父親は近所の原子炉で働いているのですが、その施設がそろそろ限界を迎え、大爆発を起こしかねないというのです。ルートこそ違えど、薬物なんて売らなくても逃げられそうなAですが、彼らはそんなこと知る由もなしで、伝手の先輩に薬物を売りに行きますが、逆にボコボコに殴られ、ブツを全てかっぱらわれてしまいました。悪の道は険しそうです。

 さて、だいたい同時刻、タンクの中に隠した薬物を拾いに行くため、廃屋に向かう鉄砲玉。ですが、途中で道路を封鎖されてしまい、目的の場所にたどり着けませんでした。封鎖の理由は、例の原子炉から放射能が漏れている為です。せっかく怖いお兄さんたちを殺してまで奪い取ったものが、あとちょっとのところで届かず、呻く鉄砲玉。実は、隠し場所にも既にブツは無いのですが、知らぬが仏ですね。

 

 さて、「お前らみたいなガキがこんなもん持ってても意味ねえんだよ」とある意味、もっともなことを言ってヤクを奪ったチンピラ先輩。ですが、言う割に自分も薬物を直接売る伝手なんてありません。そのため、ヤクザに買ってもらおうと事務所まで訪れます。ところがそのヤクザというのが、先程鉄砲玉の介入によって取引を邪魔されたその人だったのです。あえて言うならば、薬物の本当の持ち主です。巡り巡って、物語が見事一周しました。

 ヘルメット被って人相分からない奴から片腕打ち抜かれて奪われた薬物を買ってくれとチンピラが持ってきた。改めて一文にすると、数奇すぎる流れです。当然、読者以外に事の背景を理解しているモノはいません。憤慨したヤクザによって、先輩は射殺されます。

 

 その射殺シーンは例の原子炉を中心に据えた町のバックに、パンパンという乾いた効果音だけ響くという王道ですが、かっちょいいものでした。ただし、忘れてはいけないのが、このお話は爆発オチで終わるということ、そして目の前に広がる原子炉はパンク寸前ということ。ボカンと全てが灰になって終了しますが、裏を返せば、鉄砲玉のミスも、悪ガキどもの罪も綺麗さっぱりふっとんだったことですね。爆発オチ。一般的に言われているほど、悪くないかもしれません。

 

出典:『ATOMIC?』カネコアツシ エンターブレイン(ビームコミックス) 2001.10

※1997.8 祥伝社『FEEL YOUNG』の増刊号『メロディーズ』より