時々、この漫画家と言えば、このミュージシャンというくらい頻繁に案件を担っているケースがあります。例えばマキシムザ・ホルモンと漫☆画太郎さん、銀杏BOYZと江口寿史さん、そして今回取り上げる丸尾末広先生と遠藤ミチロウさん。

 遠藤ミチロウさんというと、ハードコアパンクバンドのスターリンでボーカルを務めていたミュージシャンです。LIVE上での過激なパフォーマンスで一躍有名になると同時に、ハードコアパンク=グロテスクなパフォーマンスというイメージを植え付けてしまったために業界から若干鼻をつままれてしまったという色々と話題に事欠かないバンドです。

 そんなバンドとアングラ界の帝王、丸尾末広先生の一番印象的なコラボと言えばスターリンの伝説的なアルバム『虫』のジャケットだと思います。黒頭巾を模したキャラクターがスタイリッシュにこちらにピストルを向ける姿はしびれるもんがありますが、何にせよレコード高すぎるということで、泣く泣くCDで購入した思い出があります。アルバム『虫』は作詞を担当している遠藤ミチロウさんが徹底的に歌詞をそぎ落としていることがとにかく魅力的で「天ぷら」という楽曲は「天ぷら おまえだ カラッポ!」しか歌詞がありません。具体的にはそれを連呼するのですが、パンクなシャウトと重厚な演奏によって大いなるメッセージ性を感じます。あと「15才」という楽曲は「遊びたい 遊ぶ女は嫌いだ」のみの歌詞です。これまた遊びたいを連呼して最後に遊ぶ女は~と叫ぶのですが、なんかこの曲が異様に好きな時期が僕にはありました。

 

 そんなスターリンが深く関係する短編漫画の「死よバンザイ」は少し前、取り扱った泉昌之さんの「デコはどこへ行った」みたく実在のミュージシャン(本作の場合はミチロウさん)を主人公にした架空の物語なのですが、構成が異様というか変わっている点として、本編の上部を遠藤ミチロウ氏の解説文が占めているという点です。しかも作品についてではなく、遠藤ミチロウさんが思う丸尾末広先生に対する解説でした。丸尾末広先生が隠れキリシタンである本当かウソか分からない情報を小出しして、現代の人間のヒューマニズムという宗教がうんたら…とか、丸尾氏にポスターのデザインを依頼したら実在の事件とそのイラストとが偶然にも一致したことで、絵が半分削られて遠藤ミチロウの目がえぐられてしまった云々とか様々なことが書かれています。(ミチロウ氏はデザインと事件の一致を丸尾氏による予知としている)

 言いたいこととか、意味は非常によく分かりますが、作者評に関しては結構難解です。その点、反対に丸尾氏の漫画の方は比較的取っつきやすく、日本兵の遠藤ミチロウが上官と共に爆死する内容でした。上で自分のことを絶賛してくれている人に(創作内とはいえ)無残な最期を負わせるなんて、やっぱり丸尾先生はパンクです。

 あと、言うタイミングがずれてしまいましたが、本作は『ビデオスターリンのチャンネル大戦争』という遠藤ミチロウ氏が発行した書籍に収録されています。どこまでもどっぷり、お二人の関係は続いています。ちなみにビデオスターリンは応募で新メンバーを呼び込んだスターリンとは別のバンドグループでもあります。アルバム一枚出して以降は活動していなかったはずです。

 

 漫画内で遠藤ミチロウは母親から手紙をもらっていましたが、当の本人(現実の遠藤ミチロウ氏)は「お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました」という歌をソロで発表していました。そのうえ、のちにそれを自身が監督を務めたドキュメンタリー映画のタイトルにもしています。そんなタイトルの曲を出したためか、作中の遠藤ミチロウは何もしていないのに「俺は親不孝者は嫌いだ!」と上官から折檻されてました。

 

 完璧に余談ですが、上記の「お母さん~」は『ベトナム伝説』というソロアルバムに収録されています。ソロと言ってもスターリンのメンバーが多く参加しており、キーボードでは何とあのP-MODELの平沢進さんが参加されています。……ジャケットはフツーに遠藤ミチロウ氏の写真で、丸尾先生のデザインではありませんでしたが。

 

出典:『丸尾地獄』丸尾末広 青林堂 2001.10(新装版)

※初出は『ビデオスターリンのチャンネル大戦争』(宝島社)1987.9