唐突ですが皆さんはジョジョのスタンドで何がお好きですか?…なんて中学生の自習時間みたいな質問をかましてしまいましたが、僕は第七部のボス、ヴァレンタイン大統領のスタンド「D4C」が一番かもしれません。「ダーティ・ダース・ダン・ダート・チープ」という長い名前の語感も好きです。それを「いともたやすく行われるえげつない行為」と意訳する荒木先生のセンスも光っています。あまりスタンドとは関係ないですが、元ネタのAC/DCのアルバムも好きです。

 あとやっぱり中学生の僕に初めて並行世界というモノを教えてくれた存在であるというのも大きいですね。並行世界。何ともロマンのある存在です。何より面白いのは現実世界の僕と並行世界の僕がもしばったり出会ってしまうと、この二つは一つになり消滅するというところです。ドッペルゲンガー的恐ろしさと何だか上手い事出来ている世の摂理じみたものを感じます。根拠こそ分かりませんが。

 というわけで、今回はそんな並行世界をネタにした黄島点心先生の短編集表題作を取り上げたいと思います。こちらも本編内での行動一つ一つイマイチ根拠が分かりませんが、不思議な説得力と何より納得させられるだけの熱量があり、不思議面白い短編となっています。

 

 そもそもの話が短編の規模に収まらない長さなのに加えて、ありとあらゆる要素がてんこもりミクスチャーされている作品なのでバカ丁寧にあらすじを書くいつもの要領では文字数がカンストしてしまいます。細部をちょろまかそうにも全ての行動に意義があり、その後の展開を引っ張っていく骨太な作品の為、今一つ省略できません。

 ので、あえて説明不足に要点だけまとめますが、早い話地球上にレコードが降ってきてそれが土星のようにすっぽり地球を囲みます。何を言っているのか分からないかもしれませんが、早い話地球が円盤惑星のようになって、しかもその円盤が質量を持った本物のレコードなのです。赤道上にピッチリくっついているため出られませんし、謎のバリアが張ってあって攻撃しても壊せません。ちなみにこの事態にいち早くミサイルをぶっ放したのは某北の国です。こういった世界情勢を皮肉った滅茶苦茶ノリの軽い風刺的要素も本作の醍醐味の一つです。

 そんな北半球と南半球を二分したベルリンの壁のような巨大レコードですが、そもそも何盤なのでしょうか。せめてEPなら隙間から出られたというのに…。と思った矢先、何とどこからともなくナガオカ針が降ってきて、レコードが再生を始めます。

 してその内容というのは音楽ではなく、映像でした。地球全土の人間に今までの地球上の記憶が巡ってきます。そしてそれが現代に到達したとき、世の人々はもうレコードが終わりを迎えようとしていることに気が付き、今までの映像は地球の走馬灯だったことを知り絶望します。………はい。皆まで言うなです。どこからどう見ても劣化版「午後の恐竜」です。ただしそれもここまで!絶望する人類の前に突然、UFOに乗った老いぼれ学者とその知り合いのDJのクソガキがやってきます。「午後の恐竜」ではあくまで走馬灯であると知ることがオチでしたが、本作はそれを早い段階で気づいていたその学者が危機を脱するためある説を引っ提げて救世主にならんとします。本作で重要なのは、走馬灯であったことではなく、記憶の媒体がレコードとして目に見えている事です。

 

 突然出てきた学者とDJは誰だよと未読の方ならまず思われるでしょうが、説明を省いていただけでこのDJのガキンチョの方は一応本作の主人公です。学者もバッチリ序盤から登場しています。その学者が提唱していた説こそ、序盤にお話しした並行世界的な理論でした。この世には同じ宇宙が存在すると言う事です。学者はもう一つの地球(並行世界ということは起こっている事象も並行しているのでこちらも絶賛レコード再生中)を引っ張り出し、再生が終わる瞬間にレコードを入れ替え終末を回避しようと企むのです。そのためのDJ。どうやってそんな巨大なレコードを操るのかも分かりませんし、UFOを開発している原理もよく分かりませんが、どうにもこなしてみせそうな雰囲気を感じます。

 ところがどっこい、相反する二つの並行世界。それが混ざりあったらどうなるかはD4Cを履修済みの僕は知っています。ウェカピポはそれで死んじまったのです。ところがどっこいどっこい、そんな万人が思いつきそうなオチで終わるようじゃ、奇才漫画家とは呼ばれません。ありとあらゆるSFをごちゃ混ぜにして、その上にDJだとか世界情勢だとかを上乗せした作品はその質量からは想像もできない程、スッキリと終わります。地球は誰のために回っていたのか考えさせられるオチです。

 ブラックジョークで、人類の脳に神から地球上の生命から募集した願いで最も多かったものを叶えるというモノがありました。人類は争いを失くすため、何も願わないことを決め、世界の想いは一つになったと錯覚しますが、地球上の人類以外の生物の願いで、人類が滅亡するという皮肉な結末を迎えます。ですが、そう言った自分本位な考えはけっして種を跨いだだけの話ではなく、むしろ人類同士の方が色濃くあると言う事を思い知らされます。

 

出典:『黄色い円盤』黄島点心 リイド社(リイドカフェコミックス) 2018年7月