童話を漫画にするという文化というのはあまり知られていないのかもしれませんが、結構多く存在しています。事実、僕自身ここ最近になって初めて、そう言ったジャンルの漫画もあるという事を知りました。例えば石ノ森章太郎先生の「ごいっしょに白鳥の湖を聴きません?」だったり水木先生がコミカライズされた『今昔物語』だったり…。絵本や小説、古文の授業で読むのとはまた違った味わいが楽しめるかと思います。

 

 というわけでサンコミックにて出版され絶賛プレミア中の短編集『星のファンタジー』に収録されている水野英子先生の「ある雪の夜の物語」ですが、これはO・ヘンリーの「賢者の贈り物」というお話が原作となっています。美しい髪の少女が、その髪を売って恋人の時計につける金の鎖を購入しますが、その恋人は時計を売って少女にために髪飾りを買っていたというお話です。聞いた事のない方からすると、悲しいお話のように聞こえるかもしれませんが、2人は驚きこそすれ、この行き違いを笑い飛ばし互いのプレゼントを喜んで受け取るのです。

 もともと凄まじく温かいうえに、ロマンティックなお話で大好きでしたが、そこに可愛らしい水野先生の絵が加わるとなるともう最強です。二人まとめて抱きしめたくなるいじらしさを憶えます。懸命に生きながらも貧乏な二人は寂しいですが、それでも互いを思い合う気持ちのおかげで幸せです。必ずと言っていいほど、売れない漫画家と喫茶店でアルバイトしている女の子の貧乏カップルをベースに日常物を連載する山川直人先生のマンガを読んでいても思いますが、どれだけ困窮した生活でも、それを共有し、分かち合える人が僅かでも傍に居れば、貧乏や不景気だって吹き飛ばせるのかもしれません。逆に、片方だけが極端に貧乏だったり、片方だけが無神経だったり、片方だけがこだわったり、片方だけが愚痴を言ったりしているようでは、貧乏に踏みつぶされるのかもしれませんね。綺麗ごとが言いたいわけではありませんが、綺麗すぎる2人の心を見ていると、そんなありふれすぎていて逆に見落としているような理論に行きついてしまうものです。

 

 最後になりましたが、この二人は幸せだけど貧乏ということで、本作はちくま文庫の『貧乏漫画』にも収録されています。文庫本の向きを90度変えなければ読めませんが、これも味だと思って逆に楽しんでみてください。登場人物のタッチが少女漫画×手塚治虫といった感じで可愛らしいのは言うまでもないことですが、何より人物の動きに不思議な躍動感があります。集中線を用いていないのに今にも動き出しそうな迫力です。効果音がとても少なく、雪の夜の静かな雰囲気も巧みに醸せていますが、反対に聖夜ならではのにぎやかさも通行人を所狭しと書き込むことで演出できています。何から何まで見事な短編漫画です。目に見えた派手さや話題性こそありませんが、ぜひとも味わってみて欲しい傑作です。

 

出典:『貧乏まんが』山田英生:編 ちくま文庫 2018年5月

初出は1960年『ゆりかご』(日文社)