伊藤潤二先生だとか楳図かずお先生だとか、御茶漬海苔先生だとかのクラシックホラーばかりを取り扱ってきましたが、ここらへんで最近のホラー漫画にも触れておこうと2022年に発売された最新のホラー短編集『怖習』の中から一片を取り扱いたいと思います。いわゆる都市伝説的ホラーにWEB漫画に適応したような表現を駆使していてかなり怖いです。インパクト抜群のあのおっかなさは中学時代に見た韓国のWEB漫画「ボンチョンドンおばけ」に似ている気がします。

 

 ですが、今回はインパクト抜群というよりは都市伝説、噂話の肝を捕えた王道怪談的作品を取り扱いたいと思います。やたらと説明的なタイトルもインターネット上にある無題のホラー体験談のような詳細不明の恐ろしさを醸している気がします。同時にとても端的にお話の概要も掴んでいます。

 その概要というモノが、オーナーが自殺したという廃墟に肝試しに行った女子大生が、そこで投身自殺する霊を見たことで祟られてしまうという本当に王道なパターン怪談です。ちなみに祟られて起こる怪奇というのが身の回りのものが勝手に落ちるという迷惑な現象です。スーパーの商品とか、家具だとかが一人でにポコポコ落ちます。怖いと言えば怖いし、困ると言えば困りますが、若干地味ですよね。同じ投身自殺した霊からの祟りで言うと、『恐之本』に収録されている「墜落」(一日一短編No.123)の方がおっかないです。

 

 ところが、この怪現象の正体を掴むため録画した映像では何と、女子大生自身が自ら物を落っことしているのです。そうなってくると急に怖く感じますね。女子大生も慌てて友達に「お祓い行った方がいいかな?」と電話します。その問いに対するアンサーが「まず病院行け」でした。いいお友達に恵まれましたね。

 さてそんなわけで病院に向かい対話形式の診断を行う女子大生ですが、何というか病院にしては不衛生でボロッちい内観です。って…そこ例の心霊スポットやないかーい!……と、ツッコむくらいの余裕が女子大生にあればよかったのですが、残念。もうそこが病院で、目の前の明らかに人外な存在を医者だと認識するくらいには霊障にやられているようです。そんなわけで女子大生はお医者様に示された治療を実行し、お靴揃えて落っこちてしまいました。悲しきタイトル回収です。

 

 さて、結果的に女子大生の命を奪う方向に持っていってしまった友人ですが、彼女が女子大生の相談を軽んじた事には訳がありました。それは例の廃墟のオーナーは自殺こそしましたが、方法は首吊りによるもので身投げではなかったという事です。その為、女子大生に憑りついてるという霊など端から存在していないものだと思ったわけですね。

 ただ、我々読者は女子大生の身に起きた顛末を知っています。それでは女子大生を襲った怪異とは何だったのでしょう。僕個人の考察、というか都市伝説モノの定番としては、噂による言霊が怪奇現象を生み出したと捉えるべきでしょうか。診察()のシーンで背景の不謹慎な落書きが、その説の裏付けをしてくれているような気がします。面白半分に霊と付き合えばどうなるのか、都市伝説を愛する者ならば、知っておいてしかるべきですね。

 

出典:『怖習』茸谷きの子 エンターブレイン(ビームコミックス) 2022年8月