いまいち煮え切らなかったり、整合性のないエピソードが多めの短編集『砂のテレビジョン』から「最期の放課後」を取り扱います。「いきなりディスりから入る奴があるか」と思われるかもしれませんが御茶漬海苔先生はこれでいいのです。フォローになっていないかもしれませんが、事実先生の漫画には「妖しさ」と「怪しさ」と「気味の悪さ」しか求めていない節が僕にはあります。整合性の取れていないストーリーと、異様にか細いキャラクターたちで綴られる漫画の不気味さや得体の知れなさは御茶漬海苔先生特有のものです。他の作品で出しているような評価は与えにくい漫画ですが、けっして嫌いなわけでも、駄作とこけ下したいわけでもありません。くどいようですが、僕にとっての御茶漬海苔先生はこれでいいのです。ただ、以前取り扱った御茶漬海苔作品「バスルーム」(一日一短編No.77)を始め、秀作だと僕個人が感じている作品も多数あります

 

 ただ今回は煮え切らない作品です。おまけに持ち味であるホラーやスプラッター要素は薄く、読切という形式ながら、女子高生のエージェントが校内の悪を始末するという連載作品のようなストーリーを展開しています。何故この読切を書こうと思ったのか知りたいところですが、こういう時に限って作者によるあとがきはエッセイのような内容で解説は無しです。アシスタントしてくれてる奥さんへの感謝くらい口でお伝えなさい。

 さて冒頭に書いた通り、ある高校の教師が悪事を働いているのですが、何と校長や教頭までもがその一派のようです。自校の女生徒に媚薬を注入し、イケナイことをするという大犯罪をやってのけていました。それをそこに通う女子高生スパイが打破するべく動くのですが、あっという間に正体が嗅ぎつけられ、教員との対決の末に敗北。ルックスの良い彼女は、他の生徒にも使用している媚薬を分量大目で注入されてしまいます。ちなみに女子高生スパイちゃんは冒頭に教室で夢を見るのですが、その内容がまさに敗北した自分が置かれている現状を映したものでした。予知夢の能力でもあるのでしょうか?その是非は言及されていませんが、いずれにしろ敵地で眠るなんて図太い根性しています。その結果、敗北してお薬打たれてしまったのですから世話ありません。

 

 さてさて、お楽しみショーが幕を開けてしまいます。教師共は全裸にしたスパイを密室に入れ、悶える様子をマジックミラー越しに観察します。以前御茶漬海苔先生のホラーには官能的な雰囲気がある的なことを書きましたが、本作は雰囲気どころか完璧に官能的です。連載作品のようなストーリーというより、エロ漫画雑誌の読切とみるべきだったかもしれません。実際、悶える彼女は悩ましく、クチュクチュと響く水音は何とも煽情的です。窓の外の鬼畜教師でなくても、手を擦ってしまいそうな下賤な場面です。

 ここで本当にエロ漫画ならそういう行為がおっぱじまるのでしょうが、そうではないのでお楽しみはここまでです。手首をかみ切ったり、歯に仕込んだ解毒薬を呑んだりと手を尽くして、誘惑を断ち切り、スパイは何とかマジックミラーをぶっ壊します。そして、冒頭の負けっぷりは何だったのかと言いたくなるほど、教師たちを圧倒します。あれだけ苦しんだ媚薬の効果はどこに行ってしまったのでしょうか。女スパイが凄いというより、マジックミラーの強度を甘んじた教師サイドに問題があります。何をやってんだ!この役立たず共!

 

 ツッコミどころの多さもそうですが、何より読み終わっての印象が媚薬に耐える少女のみという変わった作品です。しかも負けることなく、完膚なきまでに媚薬を打ちのめしてしまいます。要領を得ない方法の為、読者の気はモヤモヤしますが、不思議と読みごたえはあります。

 

出典:『砂のテレビジョン』御茶漬海苔 久保書店(WORLDコミックス) 1985年7月