私事ですが、明日大学を卒業し、社会人になります。差し当たって学生時代バイトし続けていた某古本チェーンからもオサラバします。今ではどこの大手古本チェーンもトレーディングカードばっかりに力を入れていて、あまり張り合いがないのですが、事実カードはよく売れます。そしてトレカほどではないですが、同じくよく売れているのがアダルトなお品物です。AVとかエロ漫画とか中古でもいい値段しますが、けっこう平気に何枚もご購入されるお客様が多いのです。しかも、その客層の大半は60代以上の高齢者ばかり。若者やおっさんはサブスクだとか違法動画だとかを見るのでしょうが、それ以前にお年を召しても性欲に旺盛な姿はオトコとして尊敬します。

 と、いうわけで今回はそんな老人の性欲と家庭を主題にした不思議な短編漫画「家族の肖像」を取り上げます。不思議と言っても別段ファンタジックなことが起きるわけでも、不可解なシーンがあるわけでもありません。ただ、何やらいろいろと臭わせているような……そんな漫画です。作者は漫画界の吟遊詩人こと山川直人先生。名作短編集『あかい他人』の中の一作です。ちなみに山川先生の初の単行本です。その後、11年間全く本が出されていなかったことから唯一の初期作品集と言えるでしょう。

 

 老人が万引きをします。しかも、エロ雑誌をです。そんな老人を養っている義理の娘(老人の息子の嫁)はいい歳こいたおじいちゃんの犯行を恥じると共に、いい年こいて性欲ムンムンの男と日中二人きりになってしまう専業主婦の己の身を案じます。寝床で旦那に不安を打ち明けますが、その旦那は嫁のおっぱいを吸うのに夢中で大して親身になってくれません。自分の父が悪く言われているのに、今はそれよりも乳の方が大切なんでしょうね。

 さて翌日、怯えまくりの妻ですが、反面老人は別段変わったそぶりも見せません。むしろ孫と仲睦まじく「とんねるずのみなさんのおかげでした」を見ています。それでも被害妄想から老人を警戒しまくる義娘はまたしても寝床の中で旦那に相談します。ここ、話を持ち掛けられて「何だ今日もか?」と性行為の誘いだと思っている旦那に対し、「違うわよ!」とバッサリ切ったかと思いきや次のコマで滅茶苦茶抱かれている義娘がシュールです。連日だなんて性欲が旺盛なのは、どうもおじいちゃんだけではないようですね。……と、そんな二人を見つめる視線が。案の定というか、何というか、視線の正体は老人その人です。

 エロ雑誌を買わずに万引きするほどの男ですから、妻も襲わずにあくまで眺めて楽しむのが好きなようですね。と、そこに起きてしまった孫がやってきます。そんな孫に「シィー」と合図をして、老人は眼前の性行為を孫に見せてやるのです。「お父さんとお母さんだよ」

 

 何だこの話。と、読んで思いはしましたが、何故だか妙に好きな短編です。つい一昨日に取り扱った黒田硫黄先生の「勉強部屋」では性欲にかまけた齢をわきまえない行動がトコトン裏目に出てましたが、ここでは反対に齢相応の性の愉しみを、まざまざと奔放に見せつけられたような気がします。ただのスケベ爺のはずなのに、謎の逞しさすら感じます。

 あと、山川先生の作品の醍醐味として畳の細かい書き込みを本作でも楽しむことができます。この畳一枚で、それ以外の他の登場人物全ての労力に匹敵していそうです。

 

出典:『あかい他人』山川直人 エンターブレイン(ビームコミックス) 2010年5月

※初掲載は秋田書店(ヤングチャンピオン)-1989~1990年