junaida氏の絵本で『Michi』というものがあります。迷路のように複雑でヨーロッパのように鮮やかな色彩の道を見えない主人公が歩くというテイストの名著で眺めているだけで香りのいいブランデーか何かを飲んでいる気分に浸れます。ブランデー飲んだことないですけど。

 私個人向け、ひいては子ども向けに言い換えるなら銀杏のきれいな公園で無印良品のメロンソーダでも飲む感覚。お洒落で楽しくて、ウキウキする感覚を味わえます。今回紹介する逆柱いみり先生の短編「箱の男」もざっくりというならそんな作品です。ただ、年齢層及び読む層は一部ズレが生じるかもしれません。少なくともアダルトな場面があるので子ども向けではありません。お洒落でもなければブランデーでもないですね。ただ、楽しくって、ウキウキします。初めて渋谷のシーシャバーに入るみたいな感覚に近いかもしれないです。シーシャバー行ったこと無いですけど。

 

 所謂ガロ系に分類されるサブカル満載な本作ですが、作品の雰囲気は耽美でもなく、社会性もなく、何というか夢想的な雰囲気をまとっていて私がまだ向き合ったことが無かった愉しみに導いてくれます。

 つげ義春先生の作品に触れたとき、やたらとその意味について推測を走らせていましたが、本作はそんな推測などせずに単純に「変」を楽しむことができると思います。妙な言い回しになってしまいますが、美術館でルネ・マグリットの絵画を一つ一つ眺める感覚と香港のタイガーバームガーデンを練り歩く感覚の違いとでも言いましょうか。猛烈に面白かったですね。


 『Michi』は書店の絵本コーナーに100%の確率で置いてありますが、いみりさんの本作が収録されている『赤タイツ男』はあまり強気な確率では置いてないかもしれません。ただヴィレヴァンだとかだと、急速に率が向上しますのでそっち系の本屋を渡って見るのをお勧めします。

 

 ひたすらバイクで街を走るのも面白いですが、見開き連続で女性が化け物たちに官能チックに責められている様子を延々続けるシーンは中毒になりそうな程素敵です。化け物×美女、そしてそれを嬉しそうに眺める奇妙な風体の男という構成が連なっているようで、女性の逆転があったり、今まで傍観を決め込んでいた男の方が責めたりだとかちょっとした展開の変化もあって楽しみも増します。テンダラーの天丼漫才見てるみたいです。

 

(出典:『赤タイツ男 増訂版』逆柱いみり 青林工藝社 2019年8月)