『ドラゴンヘッド』や『座敷女』などの名作たちでホラー漫画ファンの心をガッシリ掴んでいる望月先生ですが、デビュー作は『バタアシ金魚』というスポーツコメディです。と言っても私が読んでいるのが極端にホラーサイドばかりなだけで、『万祝』とか『鮫肌男と桃尻女』とか名をカタカナに変更されてからの『東京怪童』とか多方面なジャンルをあでやかに描かれる漫画家さんなので、デビュー作どうこうに限った話ではないのですが。

 

 スポーツコメディと聞くと全然テニスをしない『てーきゅう』とか全然卓球をしない『行け!稲中卓球部』とかを連想しがちですが、本作は滅茶苦茶真摯に水泳に打ち込みます。そのくせ、主人公及び作品の方向性は全くスポコン風味でなく、主人公は大会に出ることもめったになければ、仮に出ても成績を収めることすら少ないです。じゃあ、何故主人公は頑張るのか。それは絶賛片思い中の少女、ソノコに良いところを見せるためです。では、ソノコは部活に一生懸命な男が好きなのかと言われるとそれも違います。ソノコはとりあえず痩せたくて適当に運動部に入っただけです。猛烈アピールしてくる主人公(カオル)は幼馴染なので何かと括られますが、鬱陶しくて嫌いなようです。となるといよいよ何故カオルが水泳を頑張る必要があるのか不思議に思う事でしょう。

 

 その理由は単にカオルがはやとちりやその場の思い付きだけで行動しているおバカさんだからです。馬鹿というよりは野生児。傍から見ているだけで痛々しいを通り越して怖くなってくるくらいです。『ONEPICE』のルフィが制服着て誰の監視もなく好き勝手やっているようなもんです。

 

 そんな主人公に多くの読者はきっと、置いてけぼりを食らうと思います。私も食らいました。「この漫画面白いのか」とすら感じます。しかし読み進めてくるうちにコイツの良さや魅力のようなものが滲み出るように伝わってくると思います。そこまで読むのは苦痛じゃという方もいるかもしれませんが、デビュー作とは思えない程、奇抜でダイナミックな望月先生の水中描写はそれだけで見る価値十分なくらい凄いのでとにかく読んで欲しいです。あと、ヒロインのソノコは簡単なデザインのはずなのに妙に艶めかしくって可愛いです。艶めかしいのは常に濡れているからですかね。

 

 部活に打ち込むタイプの作品は、とにかく部活に視野を絞ってしまってキャラクターの世界観が部活のみで構成されている気がしてきます。勿論、それだけ熱中しているという事なんでしょうが、現実問題、そこまで暑くならずにサボったり、試合の時だけ青春スイッチ入れたり、練習よりもその後どっかで遊んだりする方が楽しかったりする学生たちも大多数、存在していると思います。中高ソフトテニス部でしたが、少なくとも私や友人たちはそうでした。部活を今の俺の全てとして描く、所謂スポコン漫画が多い中でこういう部活を青春の一舞台として、適度に頑張り、適度にふざける作品も青春スポーツものとして乙なのではないでしょうか。

 

 個人的なベストシーンはやっぱり飛び込みです。カオル単体の飛び込みも良いですが、ソノコとの夫婦ジャンプは爽やかすぎて真冬なのに汗をかいてしまいました。

 

(出典:『バタアシ金魚』全6巻 望月峯太郎 講談社 1986~1988年)