今まで触れられるけど触れてこなかった作家さん、浅野いにお先生の漫画短篇です。大分前に取り扱った太田垣康男先生の「ロング・ピース」と同じシガレットアンソロジーシリーズの一作です。勝手な偏見ですが、浅野先生はこういったアンソロジー特集に毎度毎度顔を出しているような気がします。


 何故触れてこなかったのかというのは、単純な好き嫌いの話です。イヤ~なテーマをイヤ~な感じに描いています。ACのCMのような危機感を煽られる怖さとスタバで足組みながらPCしてる奴みたいなキザな感じが同居した世界観が刺さるひとには刺さり、刺さらない人には軽く摂取しただけでも胸焼けです。しかし、漫画力は高く読みごたえもあります。だから、本作のような予めテーマを課すタイプの作品だと滅茶苦茶輝きます。本作は大好きです。色々と失礼なことを描きましたが、どの作品も一見の価値はあると思います。刺さったなら全部読んでみなさい。ホント、読みごたえはあるから。

 

 さて「としのせ」です。意味は普通に「年の瀬」ですが、本作にはどこか「年のせい」のようなミームもあると思います。

 年の瀬、親戚たちの大集合。そんな中に高校3年生のセッちゃんとセッちゃんの叔父さんもいます。二人が主人公です。叔父さんはすこぶる忙しいらしく大晦日から元旦までの一日しかいられないようです。年齢的には明らかに目上の叔父さんですが、どうもセッちゃんは気を持っているらしく、「彼氏が出来たけど責任感が強くてHとかしないから、ちょっと退屈」なんて言っちゃって、さりげなく叔父にパンツを見せつけます。並大抵の男なら紅白もガキ使もRAIJINも何も見れなくなってしまいそうな事案ですが、紳士な叔父は目を逸らしてこれをスルーします。

 誘いを蹴られたセッちゃん。おまけに「彼女に時間の無駄だって止められたからタバコをやめた」なんて「世界一つまらない話」を聞かされてしまいます。

 

 さて次の日、新年。仕事で海外に渡らなければいけない叔父ですが、スマホを失くしてしまったようで慌てて探しています。セッちゃんも手伝っていますが、その様子はどこか嬉しそう。叔父との時間が増えたから喜んでいるのです。しかしそんなセッちゃんの真意に気づいていた叔父は、スマホを返すよう優しくセッちゃんに告げます。どうやら叔父とのボーナスタイムはセッちゃんが意図的に盗んだものだったようです。すっかり叔父に完封負けをしてしまったセッちゃん。子どもと大人の壁はでかいというより、この叔父さんは相当なやり手です。そら惚れるわ。

 

 何てったってシガレットアンソロジーですから、この後、喫煙シーンがあるのですが、禁煙の叔父がタバコを吸った意味を踏まえてみると物凄い良いシーンです。最高です。シガレットアンソロジーで堪能するのも良いですが、短編集『ばけものれっちゃん/きのこたけのこ』にも収録されているのでそちらもおすすめです。前述したようにイヤ~な、胸を締め付けてくる話もありますが、読み応え十分です。

 

(出典:『ばけもれっちゃん/きのこたけのこ』浅野いにお 小学館 2018年11月)