いつの時代も過度な過ちを犯したり、権力者の虫の居所をとことん悪くしてしまった人間はその命をもって罪を償わされます。厳重なシステムの下行われている我が国の死刑も、中世ヨーロッパだとかに王族がやっていたと言われている横暴で容赦のない処刑もその正当性だとかは違えど、共通する点は執行する人間がいるということです。

 それが仕事とはいえ、人の命を奪うという重い使命を課せられている人々。今回はそんな人間の悲劇を描いた古賀新一先生の時代劇ホラーを取り上げたいと思います。

 

 タイトルのカズラは主人公の名前から来ていますが、そもそもこの主人公の名前がホトケカズラという植物から来ています。ホトケカズラは死体を埋めた場所に咲くと言われている不気味な花で、処刑場にはつきものです。カズラが働かされている処刑場でも見せしめの後に埋められた死体の上に綺麗な白い花を咲かせています。まだ幼い少年であるカズラですが、飲んだくれの親父に虐待され、酒代を稼がせるためカズラに処刑人をやらせ続けます。この酷い父親は母親の再婚相手であり、カズラを自分の血がつながっていない継子であると決めつけ悪辣な態度を貫きます。母親はそんな息子をかばい、夫を責めますが、暴力の前に屈してしまいカズラの現状を変えることはできません。カズラが継子か否かは分かりませんが、どっちにしても親父の性格に問題があるのは言うまでもありません。継子であるという妄想を大義名分にして息子をこき使っているだけなのです。カズラは徐々に病んでいきます。

 

 確かに病んでいくカズラですが、何より彼が恐れているのは常に自分の間隣りにある死でした。そして自分が死ぬかもしれない戦を恐がり、狂ったふりをして徴兵を免れます。悲惨な自身の境遇を逆手に取った名案ですが、息子が狂ったとあっては面倒なのがその親です。母親は息子を憐れみ、父親は他人事のように働きでの消失を怒ります。ここで両親間の激しい言い争いが勃発。そしてかねてより自身の無力感と夫への憎しみに心震わせていた母親が父親を殺害します。そして殺人の罪に囚われた母親は、処刑されます。執行するのは………。

 

 とまあ、今まで取り上げた作品の中でも、中々群を抜いて後味の悪いお話です。古賀新一先生の作品と言えば、かなり前に「餓鬼」という作品も取り上げましたが、どちらも親からの残酷な仕打ちによって狂わされた子どもをとてつもなくショッキングに描いていて、強烈な作家性を感じることができます。余談ですが、本作では登場人物たちの目に重きを置いています。カズラの狂った目、カズラを見る父親や村人の侮蔑の目、母親の息子への慈愛の目と父親への怒りの目。特に基本的に口を利かないカズラの口ほどに物を言う目は物語の重いテーマをより重厚なものにしています。

 

(出典:『死霊の叫び~古賀新一恐怖傑作選~』古賀新一 1997年4月)