大友克洋先生の作品はどうしてここまでカッコいいのか?これは恐らく多くの漫画家あるいは漫画マニアたちが一度は直面する問題だと思います。元々のセンスが爆発的に優れていることは勿論ですが、分かりやすい大きな要因と言えば読者に見られている体で描いていない所でしょうか。勿論、岸部露伴が言っていたように漫画というのは読んでもらうために描いているものです。それなのに読まれていない体というのは、一体全体どういうわけなのかと思うかもしれませんが、難しい話ではなく単純な構成での違いです。いざ実践するのは高度な技術でしょうが、例えば大はモノローグを入れないこと。キャラクターの顔や心理描写、ストーリーは絵とセリフのみで読者に理解させます。小は性器を不自然に隠すとか、不自然な状況説明じみたセリフだとかを排斥してることですね。共通して言えることは、映画みたいな漫画という事です。これらの配慮に卓越したカメラワークを混ぜて単巻完結漫画でも類を見ない程の傑作、『童夢』が誕生したわけです。

 

 とある集合団地を舞台に次々起こる怪事件。その犯人は痴呆により幼児退行した中国系の老人、チョウ。チョウは無邪気な残忍さに加え、強力な超能力を持っており、警察や団地住民を惨殺します。そこに偶然越してきた同じく超能力使いの少女とチョウの誰にも知られることのない、けれども周囲の人間を大いに巻き込んだ戦いが物語の大筋です。子ども同士の喧嘩ですが、携えた力が強力すぎてたくさんの人間を巻き込む、その大スケールさが本作の大きな魅力です。昨今、いわゆる超能力使いが戦う漫画が増えましたが、壁ズンを初めて描写し、その走りともいわれている本作は未だ十二分に第一線です。

 

 たった一巻ですが、名シーンだらけでベストシーンが選べません。通ぶって真夜中の団地の上を滑空するシーンをチョイスしたいところですが、やっぱりラストは外せません。全集版の表紙にもなっているチョウの驚愕顔からの展開は本当に最高です。

 

(出典:『童夢』大友克洋 双葉社 1983年8月)