何の脈略もありませんが、今日から1週間の間手塚治虫大先生の短編を集中的に取り扱いたいと思います。理由はいい加減作者を小出しにできる程の短編漫画ストックが無くなりつつあるからです。手塚治虫、藤子・F・不二雄、つげ義春、そして以前一週間通しを行った伊藤潤二(敬称略)などを続かせられるならば、もう後2年間は弾数に困らない自信があるのですが…なんて私の事なんて書いたところで意味がないですよね。失礼しました。

 

 「バイパスの夜」は数ある治虫短篇の中でも特に大好きな漫画です。先生の代表的なホラー漫画として名高い一方で、世にも奇妙な物語でドラマ化された作品でもあります。主演は寺田農さんと阿藤快さん。

 どちらも個人的に大好きなタレントさんで、特に寺田さんは超演技派俳優です。そんな2人が演じるのは深夜のバイパスを走るタクシー運転手とその乗客、嫌がおうにも2人を縛り付けるタクシーという狭い空間が織りなす緊張感が本作の醍醐味です。と、何故たかだか深夜のタクシーなんかに緊張感が走るのかの説明をしなくてはいけませんね。

 

 ドラマと漫画では微妙なデティールや重きを置くポイントが異なり、それによってラストシーンに大きな変更がされています。しかしそれに至る過程や大筋は同じです。

 細部は実際に読んで楽しんでいただきたいため、ざっくばらんにあらすじを記しますが、夜遅くにタクシーに乗り込んだ男(阿藤快)はつい先ほど、強盗殺人を行ったのです。

 本当に彼が犯罪者か否かは定かではありませんが、同時に犯罪者でないという証拠もありません。少なくとも男と所持しているケースの出す物々しい雰囲気は本物です。芸能界一芸能人にかかわっていそうなタモさんから、芸能界一いい人と言わしめた阿藤快さんですが、本作では何とも恐ろしい男になっています。さてそんなモンスター乗客を乗せてしまったタクシー運転手(寺田農)でしたが、突然自分も不倫をした妻をアイロンで殺害してしまったと衝撃の事実を吐き出します。乗客は犯罪者だからと、自分の罪を打ち明ける気になったようです。言いようのない空気が2人を包み込んだ瞬間どちらとも知れず2人は大笑いをします。どうやらどちらも作り話だったようです。

 

 さて、ここまではドラマ版も漫画版も同じなのですが、ここらで展開が変わってきます。ドラマ版はこのまま車に乗っている最中、ラジオが流れ、銀行強盗に関するニュースを読み上げます。そしてトランクから血が滴り、タクシーが立ち入り禁止の山中に入って終了します。おっかないラストですが、少なくともタクシーの運ちゃんはこのまま乗客ごと心中しようと決めているようです。

 一方の漫画は何と、一度ドライブインで休憩をはさみます。そこで乗客は不自然なほどアタッシュケースを肌身離さず持っていて、トランクからは何やら液体が滴っています。本当に二人が殺人をしてないとは言い切れなさすぎる描写は同じですが、その後、モブの説明で2人が乗る個人タクシーは回収された不良車の取りこぼしで、ブレーキが利かない不具合が起こるという説明がなされ、案の定タクシーはブレーキが利かなくなります。事故の描写はありませんがまず間違いなく2人は明るくない未来を歩むことでしょう。

 

 二人が殺人をまず間違いなく起こしている事、真相が分からないまま二人が死亡するであろうことは確定していますが、故意か否かが変わる本作。個人的には原作の事故死が相応しいと思うのですが、説明の為途中で車を降りてしまっているのは、ちょびっと残念です。

 その点、ドラマ版は最後まで緊迫感ある狭い車中空間のみで展開されています。どちらの作品もたまらなく優れている点はやっぱり語りの場面です。役者お二方の演技もさることながら、紙のセリフでここまで雰囲気を出すのは手塚先生の世界観構成が抜群だからです。どちらも甲乙つけがたい名作!ドラマ版は視聴が難しいでしょうが、どちらも是非見てみて欲しい作品です。