松本洋子さんの少女漫画ホラー『魔物語』から「にんじん大好き!」です。本作は全4作からなるショートオムニバスで、王道ホラーから猟奇系、怨念系、SF系と豊かなバリエーションで楽しませてくれます。

 中でも第一話を飾る「にんじん大好き!」は群を抜いてそのインパクトが突き抜けています。ネットでもこのエピソードだけ知名度が異様に高く、気が付けば検索してはいけない言葉とまで言われてしまう始末です。

 何故ここまで話題になったかと言われれば、間違いなくそのトラウマ度からではないでしょうか。私も今まで数々の少女漫画ホラーを読んできましたが、最も読んでいて衝撃を受けたのはこのエピソードです。怖いもの見たさ効果で値段も高騰し、原価に比べ10倍近い値段がついてしまっていますが、何とか手に入れて読んでみてほしい作品です。私もメルカリで購入しました。

 

 今までオチが重要な作品はオチを言わないようにしてきましたが、本作は逆にオチを言わなければ話が進まない困った作品です。その原因はオチの瞬間まで頑なにホラー要素を入れない松本洋子さんのこだわりによるものが大きいと思います。インパクトまでの緩急が強ければ強い方が強烈なのはスポーツも物語も同じです。

 本作のトラウマ度数が高いのも偏にこの緩急によるものではないでしょうか。少女漫画風の絵のタッチも抜群に可愛いですからね。端から絵が怖すぎる犬木加奈子先生や日野日出志先生とは全く異なる旨味です。可愛い絵とにんじんが食べられなくて困っちゃうたかしちゃんのカワイイ様子が凄惨な悪夢に一瞬で変わり、そのまま一瞬で幕が閉じる様は圧巻です。


 幼い少年たかしちゃんが、嫌いなニンジンを食べられるよう神様にお願いしたことで、食べ物全てがにんじんに見えるようになってしまう奇妙な体質になります。常人ならこの時点で発狂ものですが、まだ幼いたかしちゃんは「当てっこゲームみたい」と状況を楽しみます。その結果気が付けば、本物のニンジンを食べられるようになっていました。神様に感謝するたかしちゃん。お母さんにも褒められて最高の展開です。

 この後、訪れる衝撃とそれに至るまでの展開を短いページ数でとても丁寧に描いています。オチが言えないのが本当にもどかしい。


(出典:『魔物語』松本洋子 講談社 1993年12月)