この一月の新刊ラインナップは私個人的に非常においしい作品ばかりでした。まず『レッツゴー怪奇組』がこれからも単行本で出続けるという事実が嬉しくて仕方ありません。オモコロ掲載というイレギュラーな環境だけに、不安が募りますね。唐突に五分アニメとかになって、爆発的にヒットしてくれないでしょうか。

 もう一つ嬉しいニュース、このブログで大体11月上旬くらいに取り上げた短編「訪問」の金風呂タロウ先生がリイド社から初単行本を出されました。取り上げた「訪問」は既にちくま文庫から書籍化されているのですが、アンソロジーではなく作者オリジナルの単行本が出たのは万々歳です。

 特に作者に何の貢献もしていませんが、勝手に我がことのように喜んでいる自分がいます。リイドカフェは本当に良い仕事しますね。


 そんな初単行本『SUBURBAN HELL 郊外地獄』は令和の日常に起こったホラーというテイストで、様々な怪奇を描いています。VR、マッチングアプリ、デリバリーサービスなどの今時トレンドが次から次へと惨劇の出汁にされちゃっています。ほぼ全ての話で性行為が出てくるあたりが、金風呂タロウ先生の作家性というか、個性でしょうか。今回は冒頭を飾る短編「VR地獄」を取り上げます。

 VRのアダルトビデオを愉しむ男性が、唐突にスナップフィルムを踏んでしまいインポテンツになるという下劣に下劣を重ねて、下劣にした内容です。スナップフィルムというのは殺人する瞬間をカメラに収めた映像の事です。一時期、検索してはいけない言葉というくくりになって、都市伝説的な感じでネットでも広まってましたよね。私も高校生くらいの時にイスラム国の処刑動画を踏んでしまい、えらい目に遭いました。(清純ぶるわけではないですが別にエロサイトを見ていたわけではありません)


 海外の違法サイトなんか見てる主人公の自業自得ですが、男である以上、あまり石は投げられません。しかも主人公の不幸はインポテンツでは収まらず、整体師という女性に触れることが多い職業も相まって、幻覚にまで悩まされます。

 VRによる臨場感と整体という触角が相乗効果になって主人公のトラウマを刺激する描写は、作者最大の特徴である点描によって凄まじい迫力で描かれています。VR映像ではなく、VR映像を見ている男を見る映像という特殊過ぎるカメラワークを完璧にこなす技量に感服です。

 本書では他にも様々な地獄が待ち受けています。かなりショッキングというかトラウマ必死の、久しぶりに真っ当に怖いホラー漫画に出会ったという感じです。「訪問」で味わった描写しすぎない気味の悪さは本作でも大いに健在です。マスクをして突っ立っているだけなのめちゃくちゃ怖いおじさんが目印の単行本。是非手に取って見てください。


(出典:『SUBURBAN HELL 郊外地獄』金風呂タロウ リイド社 2022年1月)