名作しか生まないIKKIコミックスで連載していた名作『ディエンビエンフー』の作者で知られる西島大介先生の短編から「おりんとこりん」です。

 個人的に魔法少女をはじめ、メルヘンな雰囲気の作品を書かれる方というイメージがありましたが、本作は時代劇です。『ディエンビエンフー』で西島先生が浮かばない方も、ヒット作『陽だまりの彼女』の表紙を描かれた方と聞けば、絵柄だけでもイメージできるのではないでしょうか。『日常』のあらゐけいいち先生と東川篤哉先生しかり須藤真澄先生と有川浩先生しかり、小説の表紙が好きな漫画家さんだとついつい手に取って見たくなるものです。その点では集英社文庫はいい仕事しています。森鴎外の『舞姫』の表紙を河下水希先生に任せる采配は喝采ものです。


 いつにも増して大幅に話がそれましたが、「おりんとこりん」はダークな時代劇物として非常によくある話です。夫が一揆の首謀者として処刑され、遺された妻おりんと娘こりん。おりんは夫を殺されたショックで、痴呆になってしまいますが、実は敵を欺く演技でした。まんまと敵の懐に潜り込んだおりんはにっくき、高持百姓のナベ蔵に斬りかかります。相手はおりんをアホだと思い込んでいる上、彼女を抱こうと意気揚々と油断しまくりで近づいている状況です。普通に考えれば負けるわけがないシチュレーションですが、悲しいことにナベ蔵の片目を奪う事しかできずおりんまでも殺されてしまいます。

 それまでずっとしかめっ面で母含む周囲の人間を見下していたこりんがここで初めてアクションを起こします。何と自らが刀を握り、両親の敵を討ちに行くのです。少々今のテレビでは流せなさそうな場面もありましたが、時代劇映画の冒頭のような王道シチュです。

 実はこりんは父親から剣術を教わっていたようで、ナベ蔵とその手下多数VSこりん一人という普通に考えればまず勝ち目のない状況でもバッタバッタと切り殺していきます。筆ペンで描かれた剣劇は作者がハリウッド映画を参考にしたというだけあって、ド迫力です。刀を使ったアクションはカッコいいという事を再認識させてくれます。


(出典:『夏の彗星 西島大介コミックス未収録作品集』西島大介 角川書店 2014年3月)