今まで取り上げてきた少女漫画ホラーというと、グロテスクでとことんインパクト重視のホラーばかりでしたが、本当の女の恐怖というものを描いてくれるのも、これまた少女漫画ホラーの醍醐味です。というわけで少女漫画ホラーでも私が美内すずえ先生の『黒百合の系図』に並んで好きな作品、「生霊」です。「いきすだま」と読みます。あまり馴染みがないかもしれませんが特殊なルビ振りではなく正当な読み方で、意味も「生霊」と聞いて連想するものと同じです。

 作者のささやななえこ先生は王道ホラーストーリーの構成力の高さもですが、何より見開きの演出が見事です。本作もストーカー気質の女性を過激ホラーのモンスター顔負けのインパクトで描いています。


 「生霊」というタイトルの通り、本作では恋する少女、浅茅さんが生霊を用いて邪魔者を排除するストーリーです。自分そっくりの生霊は霊というよりかはドッペルゲンガーのようです。奇しくも主人公の良二くんは「浅茅さんにはドッペルゲンガーがいる」という噂の的になっているのをかばったが為に、浅茅さんに魅入られてしまいます。

 ちなみに浅茅さんの生霊は度々、良二くんや彼の彼女のもとに現れますが、浅茅さん本人が意識的に生霊を駆使しているという描写は本作にはありません。つまり無意識で彼女の思惑通りに生霊が行動している可能性があるのです。個人的にはこの設定の方がどうしようもない感が強くて、良いと思います。


 良二くんには彼女がいるのですが、浅茅さんはそんなことお構いなしに近づいてきます。気が付けばナチュラルに名前呼びになっていたり、用もないのに声をかけたり、挙句の果てには、生霊に彼女を殺された良二くんを慰めようと胸を触らせる始末です。たとえ生霊が無意識であろうが恐ろしいことは確かです。自分がこんなに好きなんだから相手も好きになってくれるはずであるという物凄い思考回路に加え、惚れっぽい性格の為いよいよ手が付けられません。


 本作の面白いところは、美人ともブスとも呼べない生々しい地味さがある浅茅さんの外見です。漫画のキャラクターであるという事は描こうと思えば、いくらでも不細工に描けるはずです。意識的に書いたであろう。あの絶妙な感じ、おまけに体付きはかなりいい方で、彼女もちの良二くんが軽く欲情するくらいです。扉絵でも恐ろしくも妖艶な姿を見せてくれます。


(出典:『生霊~ささやななえこ恐怖世界~』ささやななえこ 角川書店 1996年12月)