『死人の声をきくがよい』でお馴染みのホラーの新星、うぐいす祥子先生の短編から「死体と暮らすな子供たち」です。タイトルの由来は大昔の米ホラー映画『死体と遊ぶな子供たち』からでしょうか。それとも自身のデビュー作『闇夜に遊ぶな子供たち』からでしょうか。女性ホラー漫画家の大先輩にあたる犬木加奈子先生の『霊と遊ぶな子供たち』という線もひょっとすると存在します。
由来はともかく、本作はスタンダートかつテンポのいい展開でなじみやすく、その上で作者の持ち味である血なまぐさい感覚やどこか倫理観が欠如している恐ろしい無垢を味わうことができる良作です。マンガ『刻刻』の真くんを見ていても分かるように子どもという存在は私たちが暮らしている日常そのものが新しいことの連続で、異世界みたいなものですから、ちょっとやそっと非現実的な世界になったところで大して動揺もしなければ抵抗もないのです。そしてもう一つ、子どもにとって親は全てという事も抑えなければいけません。
あらすじも聞かされる前からこんな前説を語られても、意味が分からないと思うので、本題に入りますが、本作はゾンビが大量発生し混乱した世界で、ゾンビになってしまった両親と生活する幼い姉弟を描いた作品です。一応ゾンビである両親を危険視したり、自分たちがやっていることがおかしいことにはある程度気づいていたりと最低限の常識は備えている子どもたちですが、それでもいつか両親が元通りになり、再び暮らすことができると信じ、無理ある生活を続けています。そんな二人のもとに心優しくて強くて頼もしいお姉さんとお兄さんが現れます。二人はゾンビに襲われる姉弟を助けるため、2人の家の中を蠢く二体のゾンビを…。
うぐいす作品特有のあまりにも呆気なく人が死に、そっけなく展開が進んでいく様子はこちらに情感を抱かせる暇すら与えてくれません。この後姉弟がどのような行動に出るのか、まずハッピーな展開は考えられないでしょう。
(出典:『悪い夢のそのさき…』うぐいす祥子 集英社 2018年7月)