口述再現 一日目刑事 | 我が道を生く

我が道を生く

この道を行けば いかなるものか
危ぶむなかれ 危ぶめば道はなし
踏み出せば その一足が道となり その一足が道となる
迷わず行けよ 行けばわかるさ


司法試験合格までの軌跡

1日目刑事の口述再現です。


→失礼します。○室4番です。よろしくお願いします。


では、これから事案を読み上げます。聞き逃したところは遠慮なく聞き直してください。いいですか?

→はい。


Aはホテルに宿泊しましたが、ホテルを出る段になり支払を免れようと考えるに至りました。そこでフロントに、「少しトイレに行ってきます」と言ってトイレに行き、そのまま裏口から逃げました。いいですか?

→はい。


では、Aにはなんらかの犯罪が成立しますか?

→犯罪は成立しないと思います。


そうですね。では、少し事案を変えます。Aはフロントに「街に買い物に行く」と伝えてホテルを出て、そのままホテルに戻りませんでした。Aには犯罪が成立しますか?

→はい、詐欺罪が成立すると思います。


先ほどは成立せず、今回は成立するのはなぜですか?

→はい、最初の事案ではAはフロントの横にトイレ行くことを伝え、フロント係もそれを認めています。ただ、フロントのすぐ横のトイレに行くことを認めただけで、請求ができなくなるような状況に至ることを認めているわけではないと思います。そのためそもそも欺罔行為がないと考えます。一方、後者の事例では、Aは街に出かける旨をフロントに伝えています。フロント係としては、そのまま帰ってこない可能性もある以上、そのような場合には請求権を行使できなくなるような状況を認識したうえで、支配領域の外に出ていくことを認めていますので、詐欺罪が成立するんだと思います。


、、、ん?支配領域の外に出ていくことを認めていたら、なんで成立するんだろう?

→もう戻ってこないかもしれないことを認識したうえで外出を認めているわけで、、、


でもどっちの事例でもホテルとしては請求する気はまんまんなわけだよね?請求できなくなってもいいや、なんて思ってないよね?

→そうですね、、、そうですよね!おかしいですよね!


フロントとしては何を与えているのかなぁ、、、

→あっ、猶予です!一時的な猶予を与えています!


そうだよね!

→はい、そうです!


では、事案を少し変えますね。Aはもともと支払う意思なく、宿泊して飲食もしました。そして支払いをしませんでした。この場合はどうかな?

→はい、飲食の提供を受けた点に1項詐欺が成立します。


うん、じゃあ宿泊したことはどう?

→はい、そちらは利益を得ていることになるので2項詐欺が成立します。


二罪成立したけど、これらの罪数ってどうなるんだろう。

→えっ?!罪数、、、、えーと、、、法益同じですし、包括で処理すればいいんだと思います。


そうだね。では、事案を追加しますね。後者の事案、つまり最初から支払意思がなかった場合で、Aが逃げた後、支配人がAを発見したんですよ。そして、金を払えと。それに対してAは持っていた果物ナイフで支配人の腕を切り付けて逃走しました。Aに何罪が成立するかな?

→はい、、、強盗致傷です。


そうだよね、でも、財産の二重評価にならないかな。詐欺と強盗を成立させちゃうと。

→少なくとも1項詐欺との関係では二重評価にならないと思います。財物と、請求を免れるっていう利益は別物だと思います。


そうだよね。じゃあ、2項の方は?

→んー、、、どっちも利益っちゃあ利益な気がして、こっちは一つなのかもしれないとも思うんですが、、、、


でもまぁ、さっき君が言った理屈で行くと、こっちも二重評価にはならないかもしれないよね。

→そうですね、確かに。二重評価にならないと考えられますね。


じゃあ、罪数関係はどうなるかな。犯罪が3つ成立してるわけだけど。

→、、、これも包括にしたらいいと思います、、、


なるほどね。そうかもしれないね。

→はい。


では、事案をつかしますね。支配人はAに切り付けられた後、たまたま5キロ離れた駅のホームでAを発見しました。そこで支配人は110番通報して、臨場した警察官に事情を話しました。Aの服には血液とわかる赤い液体が2,3滴付着していたので、警察官はAに任意同行を求めたのですが、Aはこれを拒否しました。このような場合、Aを無令状で逮捕することができますか?

→えーと、、、212条2項の準現行犯逮捕ができるかと思います。


なるほどね。要件言える?

→はい、212条2項各号のいずれかに該当すること、犯罪を行い終わってから間がないと明らかに認められること、逮捕の必要性があること、です。


今回は何号にあたる?

→はい、3号にあたると思います。


なんで?

→はい、今回は果物ナイフで切り付けて腕から出血しているとのことですが、そのような場合犯人が返り血を浴びるという事は十分に想像できることで、Aの衣服に付着した血液が犯罪の顕著な証跡と言えるからです。


そうだよね。で、他の要件は充たすかな?

→すみませんが、切り付け行為があった時間と警察官が臨場した時間、切り付け行為の場所とホームの距離を改めて教えていただけますか?


はい。時間は5時間、距離は5キロ離れています。

→それだと、罪を行い終わってから間がないとは言えないので、準現行犯逮捕は無理だと思います。


じゃあどうしようか。

→210条の緊急逮捕が考えられます。


なるほどね。要件言える?

→はい、死刑・無期または長期3年以上の犯罪であること、犯罪をしたと疑うに足りる十分な理由があること、すぐに逮捕しなければならない緊急性があること、あとは逮捕後直ちに令状請求すること、です。


あとは、逮捕の必要性は今回も必要でよね?

→あ、忘れてました。必要です。


じゃあ、今回、嫌疑は十分っていえる?

→今回はAの衣服に血液が付着していること、被害者たる支配人の供述の具体性などから、嫌疑は充分と言えると思います。


では、事案を追加します。司法警察員からAを送致された検察官は、Aに対して準現行犯逮捕がされていたことに気付きました。検察官はこの後どうすればいいかな?

→はい、一度釈放して、その令状によって通常逮捕します。


令状逮捕するの?いつ令状請求するの?

→はい、、、逮捕している間に、令状請求しておけばいいのではないでしょうか、、、


じゃあ、違法な逮捕をとりあえず継続するわけ?

→あ、それはだめですね。釈放して、すぐに緊急逮捕します。


そうだよね。でも、同じ被疑事実で二回逮捕することになるけど、何か問題はない?

→はい、再逮捕再勾留が問題となります。


じゃあ、緊急逮捕はだめかな?

→いや、問題ないと思います。身柄拘束の時間制約の趣旨から問題となると思うんですが、今回は最初から緊急逮捕していれば良かったのに逮捕手続を誤っただけという点で違法が軽微ですので、トータルの時間がオーバーしてなければ大丈夫だと思います。


そうだよね。でも、そういうのを許す規定ってあるのかな?

→はい、刑訴199条3項は、再逮捕の存在が前提になっていると思います。


そうだね。じゃあ少し事案を加えますね。検察はAを強盗致傷で起訴して、その後公判前整理手続に付されました。弁護人がAと接見したところ、Aは無銭飲食があったとされる当日は恋人の家に泊まっていたと言っています。そこで弁護人は恋人の供述書を使ってアリバイを証明しようと考えました。主張関連証拠として恋人の供述書を請求しようと思うんだけど、要件わかる?

→はい、えーと、、、まず弁護側の主張と関連性があること、弁護側の主張のために必要があること、開示した場合の弊害の程度が大きくないこと、、、だと思います。


あとは開示請求する証拠の特定も当然行うと。

→はい、はい、もちろんです。


弁護側が、Aは無罪だ、としか主張していない場合、検察は恋人さんの供述書を開示しないとだめかな?

→いや、関連性があるかないかわからないので、開示しなくていいと思います。


そうだよね。では、私からは以上です。

(副査に向かって)なにかありますか?


副査:はい、では私から一点。今回は主張関連証拠でいったけど、実務では通常どうすると思う?

→はい、類型証拠として開示請求するんだと思います。


副査:そうだね。今回は何号にあたるかな?

→え、、、?!何号?供述書なので、、、5号から8号だというのは記憶しているのですが、、、


副査:うん

→、、、すみません。わかりません。


副査:そっか。今回なら検察の立証に関するものとして開示請求するんだろうね。

→そうなんですね。


副査:私からも以上です。

主査:では、終わります。お疲れ様でした。

→ありがとうございました。失礼します。