素晴らしいLIVEだった。

 12月17日(日)に、自身最大規模のライブステージ──東京・TOKYO DOME CITY HALL(東京ドームシティホール、略称TDC)で開催された

『ばってん少女隊年末公演

〜今宵はヒナタのジングルベル〜』

で、彼女たちばってん少女隊は従来のアイドルの概念を塗り変える異次元ライブを魅せてくれた。DJとして招聘されたPARKGOLFとGuruConnectがばっしょーのレパートリーを重曹的かつ立体的にアレンジし、楽曲がリニューアルされた事で、彼女たちばってん少女隊は新たに自分たちの楽曲と向き合い、ライブそのものにおいてパフォーマンスを深化させた。彼女たちはミュージシャンの力を借りつつも、彼らとがっぷり四つに組んでBATTENダンスミュージックとそのパフォーマンスを新たな次元で創造した。驚くべきことに、彼女たちはライブの前提・過程・結果を通じて成長した姿を満場のオーディエンスと配信視聴者の胸に刻みつけた。それは劇的な光景だった。

 僕は冒頭の1曲目から心を射抜かれ、ライブ終了後に改めて確信した。これは彼女たち<和製(HAKATA) レディ・ソウル>ばってん少女隊にとって、プライドをかけたステージ、言いかえれば魂をこめたライブだったのだ、と。素晴らしいライブに立ち会えたことが心から嬉しかった。


 たしかに、バンドセットやDJに支えられたアイドルのライブ、という限りでは、なにも真新しいことじゃない。問題はどんな音楽を届けるか、それにふさわしくどんなパフォーマンスをみせるか、なのだ。

 僕はこれまでのアイドルのライブで、最も素晴らしかったバンドセットやDJスタイルのライブは、今から10年前の東京女子流の武道館とその翌年の武道館、さらに極めつけは2014年6月15日の『CONCERT*04 ~野音Again~ with 土方隆行バンド』日比谷野音公演、で間違いないと思う。

 〘ところで、来年2024年2月12日には、東京女子流×フィロソフィーのダンスのツーマン「東京のダンス」第3回が、東京・新宿BLAZEで(DJに新井俊也、ゲストにマイナマインドを迎えて)開催される。〙



 だが、この東京女子流のバンドセットのLIVEに比肩しうるのが、今回のばってん少女隊『今宵はヒナタのジングルベル』公演だった。これには僕は驚いた。

 OiSa以後エレクトロニック・ダンス・ミュージックをベースとして楽曲・パフォーマンスを脱構築(デコンストラクシオン(仏語)/ディコンストラクション(英語))してきた彼女たちばってん少女隊のチームは、まさに今回のライブで<不断に古い構造を止揚(アウフヘーベン)し、新たな構造を生成してゆく>その頂点を極めたからだ。端的に言って、ばってん少女隊の新旧楽曲の全てがオリジナル音源の形式を残しながらも、その内実においてまったく新たな次元の楽曲へと生まれ変わっていた。それは僕の予想を遥かにこえるライブだった。

 一方で、electronicを得意とするPARKGOLF(パークゴルフ)は、間をたっぷり取った空間の中で、奇抜なフックや音が次々に連動し、図形が展開していくようにカラフルなポップミュージックが耳へとなだれ込む。DJ・PARKGOLFのリミックスで、ばってん少女隊の楽曲は最先端のポップスへと生まれ変わった。

 他方、HipHopを得意とするGuruConnect(グルコネクト)は、漆黒のグルーヴと呼ぶべき、キラー・サウンドの数々で全く予測不能な角度から切り込み、完全オリジナルな音像を叩き出す。気付けばその「音」が支配する空間の中で、ただただ身を委ねてしまっている。GuruConnectリミックスでばってん少女隊の楽曲は重厚でグルーヴの効いた重低音のR&Bとして生まれ変わった。

 こうして、PARKGOLFとGuruConnectというまったくタイプの異なるミュージシャンのサウンドで(しかも両者が相手を意識し互いに化学反応を起こすことで)、ばってん少女隊のナンバーは<陰と陽>が見事に分かち難く結びついた。しかも、PARKGOLFとGuruConnectのサウンド、リズム、ビート、グルーヴに支えられつつも、彼女たちばってん少女隊みずから音楽パフォーマンスを深化させた。こうして彼女たちはライブ会場そのものにおいて、(<今、ここで>すなわち場所的現在において)、成長してゆく姿をタイムリーに魅せてくれた。要するに、アイドルナメんな!━━こんなライブはこれまで一度も観た事がなかった。来たる2024年に向けて、ばってん少女隊は根底からアイドルライブの概念を塗り変えた。


 ライブ冒頭で、新曲『でんでらりゅーば!』のイントロが始まると、まずは<りるみゆ>が登場、続いてオリジナルメンバーの<愛リコきいなサクラ>が暗闇から合流。ここでなんとイントロが終わるや否や、歌謡ラテン・ロックおよび和製ディスコビート『Killer Killer Smile』を披露。一瞬で聴衆を虜にし落とす無敵のキラースマイルと、最高にキラキラのスマイルを掛けたこの曲は、あこがれを目指すつもりも、立ちどまるつもりもない、そのどちらでもなく新しい道を切り拓いてやる!、そういう現状への不満と攻めの姿勢が描かれている。

 続いて、『崇シ増シ×××物語』(タカシマシものがたり)。元JUDY AND MARYのTAKUYAが提供した和製ラテン・ロックは、今この瞬間の情熱が溢れる。

 さらにオープニングのトドメは、昨年来、現下のばってん少女隊のシンボル『さがしもの』。『YOIMIYA』に続いて、水曜日のカンパネラのケンモチヒデフミ提供のサウンドは、アイリッシュとアジアンと北欧などのケルト音楽と、和の祭囃子が交差する。バルーンから地上をのぞみ、自分にとって本当に大切なものを自分自身に問いかける

 つまり、この冒頭3曲は、彼女たちばってん少女隊がこの日のライブにかける情熱を歌っていると共に、彼女たちの魂の遍歴を表現してもいる。まさに、彼女たちはばってん少女隊のプライドをかけて、冒頭でライブのトーンを決めたのだ。



 続く、第2ブロックでは、DJ・PARKGOLFのきらびやかなリミックス、さらに第3ブロックはDJ・GuruConnectの圧巻の重低音リミックス。極めつけは、第4ブロックでPARKGOLFがジングル・ベルズやサンタクロース・イズ・カミング・トゥ・タウン、サイレント・ナイトをミックスしたクリスマス・アレンジ。賛美歌やゴスペルを随所に盛り込みながら、ばってん少女隊の見事なコーラス、ハミングも印象的だった。


 中でも、特筆すべきは『Dancer in the night』『無敵のビーナス』の歌唱パフォーマンス。Dancer in the night』は聖夜にステージを終える哀愁とあたたかみに溢れていた。『無敵のビーナス』はまるでサザンオールスターズの『いとしのエリー』や『TSUNAMI』のようなスロー・バラードへと生まれ変わった。

 想起するのは、宇多田ヒカルの『FINAL DISTANCE』。もともと、2ndアルバムに収録した『DISTANCE』はポップなアレンジだが、当初バラードをイメージしておりこれが心残りだった彼女は、バラードにアレンジし返し、シングルを切った。波、水中をイメージしながら二人の距離感を歌う切ないこの曲は、だが、どこかとても明るく優しい。折から事件の犠牲となって夭折された(自分のファンであった)少女にも捧げたこの曲『FINAL DISTANCE』は、『Blue』と並んで、<ウタダ・ブルー>を代表する傑作に違いない。自由への意志にかられる切なさに、愛と哀しみ、かてて加えてさらに、あたたかみと優しさがそなわったこと。ヒッキーがこの独自性<ウタダ・ブルー>を武器に全キャリアを通し、苦闘しつつ切り開いてきた画期的地平──それは<音楽的感動>である。 この事を想起するほど、今回の『無敵のビーナス』のXmasバラードアレンジ、ならびに、ばってん少女隊の歌唱パフォーマンスは素晴らしかった。自分を「無敵のビーナス」と勇気づける女子の切ない恋心を歌っていながら、男子の手の届かない距離感を掛けた見事な歌詞。同時に、この曲の肝となる、恋するゆえの迷いや戸惑いなどの哀しみがゆっくりと溢れ出すように歌唱されていた。2022年7月の『ばってん少女隊 7周年記念ライブ』で6人新体制転換後に初披露してくれた歌唱曲『Over』で切り拓いた地平をさらに発展深化した歌唱パフォーマンスは、感無量だった。『無敵のビーナス』の終盤には、この歌の主人公が決意を成立させ一歩踏み出す様子が描かれており、この瞬間この曲に燦然と光が射す。あたたかみのある優しさが溢れだし、やがてまた同時に、やすらぎさえ滲む歌唱が胸を打つ。そうだ、そうなのだ、僕が今回の『無敵のビーナス』で感動したのは、原曲の本来の意味と形を彼女たちばってん少女隊が鮮明に浮かび上がらせてくれたからなのだ。これぞ本来の『無敵のビーナス』なのだ。


 以下は『なぜ日本の音楽はマーケティングを誤ったのか 弱虫のロック論2』(平山雄一著 KADOKAWA)106頁〜110頁より引用。


「ロックバンドが自分たちのレパートリーをアコースティックで披露するのは、別に珍しいことではない。だが、そのほとんどは何の工夫もない ”なんちゃってアンプラグド“で、目先を変えただけの内容にがっかりさせられることが多い。

 しかし『Howdy!! We are ACO Touches the Walls』はまるで違った。メンバーが自分たちの音楽を見つめ直し、その良さと音楽的仕組みを理解した上で再構築している。最初のレコーディングの時には気付かなかった裏のメロディラインや、無意識に書いた歌詞の隠された意味を探りあて、それらにふさわしい表現を選択する。また、楽器を替えることで音色も演奏のニュアンスも深まって、単なるセルフカバー以上のアルバムになっていた。」


 「それにしても、堂々たる演奏だ。指やピックが弦に触れる音までが鮮明に聴こえる素晴らしいPAサウンドが功を奏して、メンバーの成長がそのまま音楽性を押し上げているのがはっきりわかる。互いの音を聴いて反応する楽しみは、ライブならではだ。またオーディエンスを目の前にして演奏することで、バンド全体のグルーヴがCD以上に活き活きしている。」


そこにオーディエンスのハンドクラップが加わると、ビッグ・グルーヴが生まれる。楽しさでオーディエンスの心臓がバクバクいっている音が聴こえてきそうだ。そのワクワク感がメンバーに伝わって、演奏に熱がこもる。メンバー同士、バンド全体、オーディエンス、その熱が再びメンバーに還元される。この循環が、奇跡のライブの必須条件だ。ついに ”マジック“が起こったのだ。僕はこの瞬間が見たかった。その後もマジックは連鎖・循環し、ニコはライブの最中に以前とは違うバンドになっていった。」


「メンバー同士が互いの音を聴き、反応し合う。目の前のオーディエンスに歌を届ける意識が、表現に力強さと柔らかさを付け加える。何よりそうした音楽的行為を、4人が心から楽しんでいたのが印象的だった。」


「もちろん技術を習得する努力は必要である。しかしそうした技術や知識を使って、オーディエンスにどんな音楽を提供するのかが最大の価値なのである。ニコはビルボードで、そのビジョンをはっきりつかんだ。だから、僕は、これがバンドの運命を決定づけたライブだったと断言する。」


 数々の試行錯誤を繰り返し、今日という日を迎えた今のばってん少女隊。彼女たちは、いま一度、『無敵のビーナス』の本来の意味に立ち返って、この曲を現在的意義のある作品として再構築してくれた。それにふさわしく引き出してくれたPARKGOLFのXmasバラードリミックスの援護射撃を受けながら、6人が互いの歌唱パフォーマンスを味わい、ライブの終わりを名残惜しむ聴衆と意識を共有しながら、彼女たちは全身全霊を傾けて<私たちはあなたの『無敵のビーナス』でありたい>、と誓ってくれた。僕はこの『無敵のビーナス』こそが観たかった。だからこそ、僕は確信した、そして余りにもドラマティックなパフォーマンスに感動した。つまり、ばってん少女隊はこのライブの<前提・過程・結果>において(直接的生産過程そのものにおいて)みずから飛躍し成長を勝ち取った、こうした成長する瞬間そのものをライブで魅せてくれたのだ。

 続く本編最後は『ヒナタベル』。これぞばってん少女隊の最高傑作! クリスマスのジングルベルや祭囃子を想起させる民族音楽調クラブミュージックとラテンとフィラデルフィア・ソウルおよびテクノ・ビートを幾重にも絡み合わせた九州・宮崎県イメージのこの「ヒナタベル」は、じっくりと音楽を聴かせつつ・胸躍らせ・美しさで目を釘付けにさせる、ばってん少女隊の新境地を見事、切り拓いた傑作だ。この曲の美しい旋律と、胸に迫りくるラテンのビート。ばってん少女隊にしかなしえない、ばっしょー(Batten)で踊れる(Dance)音楽(Music)の到達点に違いない。これぞポップス★


 アンコールはPARKGOLFのSEに続けて『 ますとばい!』『おっしょい!』『 虹ノ湊』で盛大に幕を閉じた。

 今回のライブはばってん少女隊の記念碑的ライブであり、2023年、否、現6人体制以後の真価と深化を刻みつけた。PARKGOLFとGuruConnectのビートやグルーヴに支えられつつも、彼女たちばってん少女隊みずから音楽を作り出したのであり、真剣勝負でも彼女たちは負けなかった。

 私はこのライブを生涯忘れることはないだろう。この目で<和製(HAKATA) Lady Soul>ばってん少女隊の未来を観た!














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