ばってん少女隊 4th Album

『九祭(CUE-SAI)』


2022.10.19 Release
BATTEN Records


ばってん少女隊
(BATTEN GIRLS)
希山愛
上田理子
春乃きいな
瀬田さくら
蒼井りるあ(2021年4月2日加入〜)
柳美舞(2021年4月2日加入〜)


01.OiSa (2021 ver.)
02.わたし、恋始めたってよ!
03.YOIMIYA
04.御祭sawagi
05.さがしもの
06.和・華・蘭
07.沸く星
08.Bright & Breezy
09.南風音頭
10.禊 the MUSIC
11.OiSa PARKGOLF REMIX


※2022年度アイドル楽曲大賞・アルバム部門第1位受賞作品!※




 2021年4月2日にばってん少女隊You Tube配信ライブ「新学期deshite」(現在もYou Tube公式チャンネルにアーカイブあり)で、蒼井りるあさんと柳美舞さんの2名が加入してから1年半。2022年10月19日に6人新体制=現体制下で初めて完成させたオリジナル・アルバムがこの『九祭(CUE-SAI)』だ。
 現体制後、話題となった楽曲の数々「OiSa (2021 ver.)」「わたし、恋始めたってよ!」(第10回アイドル楽曲大賞受賞曲)「YOIMIYA」「虹ノ湊」の4大ヒット曲が網羅されたこのアルバムは、さらに、ばってん少女隊が活動拠点とする九州七県の祭りをイメージした楽曲で構成されている超大作となっている。
 だが、私は思うのだ。
 ばってん少女隊はどうしたらより多くの人に注目してもらえるのだろう?、と試行錯誤してきたのは確かだが、スターダストプラネットに所属するアイドルとしての彼女たちのスタイルが一変した訳ではない、と。むしろ、今、彼女たちばってん少女隊の試行錯誤がたわわに実を結んだ結果なるべくして成ったのだ、と。それは一言で言って、彼女たちの執念に他ならない。その結果、2020年の自主レコードレーベル設立を決定的区切りとして、本作『九祭』で完成させた、彼女たちばってん少女隊の現下の基本路線としてとらえ返しうる<和製(HAKATA) Lady Soul>の深化を勝ちとった。

 その意味で、ばってん少女隊 4th album『九祭(CUE-SAI)』は、和製グレイスランドとでも形容するしかない九州発MATSURI(祭)ワールドミュージックアルバムとして完成した。
 ポール・サイモン『Graceland』(グレイスランド)とダフト・パンク『Random Access Memories』(ランダム・アクセス・メモリーズ)を足してニで割ったかのようなご機嫌な作品で、いよいよ<九州から全世界へ>のアドバルーンをぶち上げた!
 九州七県の祭祀と自然遺産と人気観光スポットや名産品、果ては懐かしい街並と風景をめぐる全12曲の巡礼(たび)。この旅路の果てに、未だ見たこともない音楽世界が開示される。これこそ、<九州発ばってんMATSURIワールドミュージック>に他ならない。
 オリエンタルでアジアンでアイリッシュで旧ユーゴスラビア的とも言える九州発の和製<多国籍ダンスミュージック>
 九州各県の祭りをモチーフに、ルーツとコンテンポラリーとオルタナティブとユニバーサリティが一体となり、聴き応えしかないアルバムが完成した。
 この意味で、ばってん少女隊 4th album『九祭(CUE-SAI)』は、COVID-19で様変わりし・ロシア皇帝プーチン政権によるウクライナ侵略戦争で風雲急を告げる現代世界の異相と真っ向から対峙し・暗黒に覆われた日常に目映いばかりの希望の光りを放つかのような、のちのちまで語り継がれるガールズポップユニットの金字塔を樹ち立てたのだ。
 今日も何処かで悲しみと哀しみの声がする2020年代を代表するアイドルのオリジナルアルバム名盤は、ばってん少女隊『九祭(CUE-SAI)』をおいて他に、ない!
 水声社刊行のラテン・アメリカ文学シリーズ《フィクションのエル・ドラード》の言葉を借りるなら、ばってん少女隊ミュージックは《ポップスのエル・ドラード》だ。
 解散の危機を軽やかにどんでん返したばかりか、今、彼女たちばってん少女隊はひときわ輝きを増し、われわれの日常を照らし出してくれている。
 <『九祭』以後>のばってん少女隊をゆめゆめ見逃すことなかれ!

 以下、収録曲全曲をみてゆきたい。


 


01.OiSa (2021 ver.)

作詞作曲:渡邊 忍(ASPARAGUS)


■福岡をイメージ

 現在の6人体制で再録した代表作がオープニングを飾る。その真意は、<これが我らばってん少女隊からの回答だ!>。

 和製ファンクっぽいテクノポップもしくはビートポップだが、この曲の根底にはBLUESが貫かれている。デビューシングル「おっしょい」が「おいさ」へとヒートアップしたとか、祭祀・祭礼をイメージしたダンス・ミュージックと説明されがちだが、この曲の核心は、肩の力を抜いて生きちゃえば?だ。元々は当時プライベートレーベルを起ち上げたばってん少女隊への渡邊忍的なエールだった。ひるがえって、ちょうどCOVID-19下で生きるすべての人々に寄り添う曲としての意義を持った。だから、この曲はダンス・ミュージックの仮面を被ったばってん少女隊<和製(HAKATA) Lady Soul>のブルース(リズム・アンド・ブルーズ)だ。


 なお、オリジナルの『OiSa』ミュージックビデオは、2023年8月現在、ばってん少女隊歴代最高、You Tube視聴回数490万回を突破している!





02.わたし、恋始めたってよ!

作詞作曲:渡邊 忍


 2021年度アイドル楽曲大賞のインディーズ部門受賞曲。マイナー調の名曲「OiSa」に対して、ドラムンベースを基調としたミドルテンポのダンスバラード。渡邊忍の提供曲は毎度、まったくタイプの異なる曲だが、このアルバム二曲目で『九祭(CUE-SAI)』は深まり、光を放つ。「OiSa」「YOIMIYA」「虹ノ湊」と同様に、おそらくアルバムver.は新たにサウンドと歌唱をクリアーにしバランスを変えた事で、より洗練され立体的な音となった。あえて好きと言わない恋の戸惑いと孤独と切なさと潔さ。深みのある素晴らしいラブ・ソングだ。

 アイドルのアルバムで二曲目にバラード三曲目にミドルナンバーを持って来れるのは、今のばってん少女隊<和製(HAKATA) レディ・ソウル>だけだ。








03.YOIMIYA
作詞作曲:ケンモチヒデフミ(水曜日のカンパネラ)

 ここで宵宮。祭り前夜の眠れないときめき感やノスタルジックな風情。ケンモチヒデフミは、ラテンやソウルのエッセンスを取り入れた・色気のある和製ブラックミュージック(重低音の<祭りビート>)を生み出した。アルバム用に音圧と歌唱のVolumeを上げた事でますます輝きを放っている。
 本来、マジックリアリズム(魔術的リアリズム)というと、日常的な事柄に超常的な物事が融合される事をさすが、『OiSa』以降のばってん少女隊は神懸っている。
 それを証明するかのように、2023年7月28日に配信リリースした「あんたがたどこさ〜甘口しょうゆ仕立て〜」と「BAIKA」の両極の破壊力ときたら!

 この曲「YOIMIYA」に私は(リズム・アンド・ブルース寄りの)BLUESを感じる。特にライブ会場でこのイントロが鳴ったときの、胸かきむしられる黒っぽいGrooveは圧倒的だ。全く似ている訳ではないが、一言で言って、アトランティック時代のレイ・チャールズの曲を聴いているかの様な肌ざわり。今ばっしょーに演らせてみたい祝祭前夜の厳かなムードとトキメキについて、杉本音楽ディレクターとケンモチヒデフミが何度か話し合った結果、偶然レイ・チャールズっぽいリズム・アンド・ブルース(ブラック・ミュージック)っぽく転化したのだろう。
 <和製(HAKATA) レディ・ソウル>ばってん少女隊オールタイムベストの最高傑作は、現時点、私にとってはこの曲以外ない★★★★★★
 この曲の最後に、腕を組んで円形に踊る「かごめかごめ」とは逆に、表向きにしかも座り込むパフォーマンスはなんとも幻想的で艷やか! この曲のすべてのパフォーマンスも、楽曲も、願わくばこの世のすべての得点を献上したい。タイミングがすべて重なった奇跡の一曲だ。




04.御祭sawagi

作詞:ASOBOiSM 作曲:PARKGOLF, ASOBOiSM


🟦熊本をイメージ

(担当メンバー:柳美舞)

 ASOBOiSMとPARKGOLFによる熊本の「八代妙見祭」をテーマにしたこの曲は、MVも公開された祭り和製テクノポップ&ユーロビート。ソリッドなビートと祭囃子をイメージしたサウンドおよびラップがワクワクさせる。エルトン・ジョン『Saturday Night's Alright for Fighting』(土曜の夜は僕の生きがい、ファンダンゴ)や 『Crocodile Rock』(クロコダイル・ロック)」 のような、ライブのキラーソングとなるだろう。








05.さがしもの
作詞作曲:ケンモチヒデフミ

💟佐賀をイメージ
(担当メンバー:蒼井りるあ)
 佐賀で行われるバルーンフェスタこと「熱気球競技大会」がテーマ。アイリッシュとアジアン(チャイナ音階)と北欧などのケルト音楽と、和の祭囃子が交差する「さがしもの」。ほっこりするリズムからユニバーサルなマイナー調のメロディをはさみビートが爆発する楽曲構成は抜群。バルーンから地上をのぞみ、自分にとって本当に大切なものを自分自身に問いかける歌詞は実に奥深い。
 楽しいダンスパフォーマンスにふと忘れがちだが、メロディラインは限りなく美しい。





06.和・華・蘭
作詞:Daoko 作曲:GuruConnect, Daoko

🟨長崎をイメージ
(担当メンバー:春乃きいな)
 タイトルの読み方は、わ・か・らん。
 ラテンとファンクの要素を取り入れた異国情緒溢れるテクノポップ。長崎の真昼の情景と世界的にも有名な夜景を対比させながら、パラレルな世界観を浮き彫りにさせつつ、やがてまた同時に一体化させる歌詞は見事だ。マドンナの『La Isla Bonita』(ラ・イスラ・ボニータ〜美しき島)や『Live to Tell』(リヴ・トゥ・テル)のように、スパニッシュなラテンの官能性やエキゾチックなムード。そこにオリエンタルな風情が重なり合う。

求め合った
祈り明かした

愛の営み、さらには「平和」への祈りすら込められている。







07.沸く星
作詞:没 a.k.a NGS(Dos Monos), uami 作曲:没 a.k.a NGS, uami

🟥大分をイメージ
(担当メンバー:上田理子)
 タイトルの読み方は、わくせい。
 地獄谷別府温泉と宇宙開発を掛けた曲。ドリフのちょっとだけよ(タブー)と、エミール・クストリッツァ監督『アンダーグラウンド』に代表される旧ユーゴスラビア民族音楽を彷彿とさせるイントロ。
 喘ぎ声かと思いきや、宇宙人の温泉ラプソディー?! ヒップホップっぽいラップパート。重なり合いコラージュするハーモニィ。ゆったりとためのあるビートのシューゲイザー。
デヴィッド・ボウイの
『Space Oddity』(スペース・オディティ)、
『The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars』(ジギー・スターダスト)、
さらには、
ザ・ビートルズの『Across the Universe』(アクロス・ザ・ユニバース)
を想起させる、無重力下で浮遊感漂う宇宙の音、かてて加えて悠久のシンフォニーを作り上げるのに成功している。しかも、この曲、終盤になるにつれてサウンドがどんどんヒートアップしてゆき、全く異なる印象を与えられつつ、最後にまた冒頭に戻って摩訶不思議な幻想的なムードの中、宇宙人ばってん少女隊が整って温泉♨から上がる構成。
 つまり、本当のテーマは悲しみをこえて、地獄谷温泉に入るのは至福のひととき。
 ばってん少女隊版『ジギー・スターダスト』『スターマン』。EDMか、 グラムロックか、アートポップスか。
 『九祭』にこの曲が無いと画竜点睛を欠くというもの、それくらいキラリと光るサイケデリックな曲。






08.Bright & Breezy
作詞:YonYon 作曲:YonYon, DÉ DÉ MOUSE

🟪宮崎をイメージ
(担当メンバー:瀬田さくら)
 竹内まりや(山下達郎)と原由子(桑田佳祐)ばりのフィリー・ソウル。ソリッドなビートながらポップで美しいメロディラインは秀逸。ツインボーカルを幾重にも重ね合わせ美しいコーラスを作り上げる。まさに、ウォール・オブ・サウンド! 宮崎の風景にノスタルジックなムードたっぷりのロマンスを重ね合わせたかのようなブルー・アイド・ソウルは無敵だ。とりわけ、竹内まりや『夢の続き』『元気を出して』調のシティ・ポップ感覚に溢れたAORに仕上がった。






09.南風音頭
作詞:村里 杏, サトウ ショウゴ 作曲:サトウ ショウゴ

🟩鹿児島をイメージ
(担当メンバー:希山愛)
 日本の民謡とチャイナ音階と奄美大島の民謡&沖縄民謡がご機嫌なグルーヴを奏でる。ゆったりとした元ちとせやサザンオールスターズ「ナチカサヌ恋唄」っぽい曲で、穏やかで多幸感あふれる祭りサウンドだ。
 楽しさの中に優しさと温かみ溢れる。






10.禊 the MUSIC
作詞作曲:渡邊 忍

 ディスコやユーロビートも滲ませた、明る目の木村カエラやaiko『ロージー』っぽいポップなROCK'N'ROLL!  
 この曲だけはオートチューンが薄っすらとしか掛かっていない。アイドルでこの世のすべてを浄化するかのような輝きに満ちている。メジャーデビュー曲『おっしょい!』とそれに続く『OiSa』への続編的な回答だ。少女から女性と成長したばってん少女隊がこれまで救済されてきた恩返しとして、九州から世界へリスナーを救済する。
 テイストはザ・ビートルズ『ロックンロール・ミュージック』およびジョン・レノンのアルバム『ロックン・ロール』に代表されるブリティッシュ・サウンド(マージービート)、そして特にノルウェーのシンセポップバンドにしてニュー・ウェイヴを代表するa-ha「Take On Me」(テイク・オン・ミー)へのオマージュが捧げられている。中毒性のあるサビとキャッチーなメロディはパーフェクト!
 振り返れば、ばってん少女隊2ndアルバム『BGM』は少女から大人の女性への過渡を描いた作品集だった。そして、メジャーレーベルから自主制作をまたいで翌年完成させた3rdアルバム『ふぁん』は<レディ・ソウル>への輝かしい第一歩を踏み出した作品だった。
 渡邊忍は今回、レディになったばってん少女隊に、『御祭sawagi〜踊れ心騒げ〜』中野サンプラザ公演から始まる《未来》を捧げている。
 <和製(HAKATA) Lady Soul>へと昇華した彼女たちばってん少女隊が、今一度、アイドルナメんな!とばかりに初心を貫きつつ・わが歩みへの自負と誇りをかみしめながら、最高のエンターテインメントを目指してゆく。
 ステージに立つ喜びが溢れ出す、素晴らしい傑作だ。





11.虹ノ湊
作詞:Rin音 作曲:Rin音, Taro Ishida

 ばっしょーと同郷の福岡・宗像出身のラッパーRin音の提供曲。何度聴いても、何度観ても、意外に飽きないのはラップを挟んだヒップホップのこのトロピカルソングが、甘酸っぱい恋の味をしっかり描いているから。ホームタウンでのあの夏の、切なさや郷愁溢れる情感が絶妙な隠し味となっている(哀愁パートではこの楽曲発表時に中学生・現在は高校生の柳美舞嬢が、今回も女優ばりの良い味を出している。<プリンセスみゆゆ>のきめ細やかな表現力はまさにアンファン・テリブル!)。そしてとりわけサビの高揚感はズバ抜けている。
 アルバムでは南風音頭から一転、『禊 the MUSIC』とこの『虹ノ湊』と連続で、ダメ押し的なワクワク感の波が押し寄せる❗
 ナイショだが、最初の「自転車のペダルをこいで」のピグモンっぽくペダルをこぐ振りは、ピカ一のキュートさで毎回けっこうトキメく。最近、下手側前方へのアピールに夢中で、瀬田さくらさん(ちゃんちゃん)あんまりちゃんとやってくれないけど(笑)。甘酸っぱ切ない希山愛さんの透明感ダンスの華憐さと、ピグモンっぽくペダルこぐ瀬田さくらさんの透明感キュートの(5人のメンバーも!)最上級シーンは、こっそりMVでガン見しちゃってね!(笑)





12.OiSa PARKGOLF REMIX

 オリジナルがブルースおよびブラックミュージックのテイストだとしたら、 PARKGOLF REMIXはあえて言えばミドルなジャズブルースのテイスト。PARKGOLFのこのシンセ・ポップはラストへ向けていよいよ劇的に高まりゆく、そしてシステマティックなオーラスの余韻。九州をめぐる祭りの旅路の果てに、ばってん少女隊の未来が開示される。







 以上のことから、前作から2年──10月19日にリリースされたばってん少女隊 4th album 『九祭(CUE-SAI)』(きゅうさい)は、<和製(HAKATA) Lady Soul>ばってん少女隊が満を持して発表した、プロのアルバムに他ならない。ばってん少女隊は今、長年自問自答してきた九州愛を語りつつ世界をのぞむ。この世のすべてを幸せにしたい━━ばってん少女隊の『九祭(CUE-SAI)』には彼女たちのありったけの愛とヒューマニズムが込められている。
 なんと劇的(ドラマティック)なアルバムだろう。感動以外ない! 文句なし現下のばってん少女隊のアルバム中、断トツの最高傑作だ。 



ばってん少女隊、前代未聞のアルバム『九祭』を語る。
今日までの悔しさ、アイドルであることを背負って磨き上げる覚悟━━