1️⃣サザンオールスターズ40周年
2018年10月9日付け拙稿



 デビュー40周年を向かえたサザンオールスターズのプレミアムアルバム『海のOh, Yeah!!』(産みの親ァー)が、8月13日付けオリコン週間アルバムチャートで32万5473枚を売り上げ、初登場首位に輝いた。既に報じられているように、初回出荷枚数60万枚以上のこのプレミアムアルバムでサザンオールスターズは、「国内グループ最長キャリアによるアルバム1位」獲得の記録を更新すると共に、2015年に発表し・やすやすと50万枚の売り上げを突破した15枚目のオリジナルアルバム『葡萄』で達成した1980年代以来2010年代まで4年代連続でのアルバム首位獲得の記録をも更新した。

 サザンオールスターズが一大ブームとなっているとは言い難いこのタイミングで発売されたアルバムの売り上げはたしかに伸び悩んでいるとも言えなくもない。だが、むしろサザンオールスターズは新曲4曲を盛り込んだこの『海のOh, Yeah!!』をリリースすることで、大衆音楽のど真ん中に返り咲く橋頭堡をうち固めたのだった。ボップミュージックの楽しさ、素晴らしさ、奥深さ、喜びも希望も悲しみも怒りも端的にすべて一枚に詰め込んだのがこのアルバム『海のOh, Yeah!!』だった。

 まったくの私見だが、CD全盛期である20年前に発売され歴史的なメガヒットを記録した夏の企画アルバム『海のYeah!!』(海の家ェー)は、オリジナルアルバムには収録されていない貴重な音源も集められているものの、夏だ!海だ!サザンだ!をキャッチフレーズとしたヒット曲集というイメージが強かった。"ファイブ・ロック・ショー"と銘打たれた記憶に残るシングルや傑作バラードも選曲されていない。むしろ『バラッド '77~'82』のいぶし銀のような選曲クオリティーの高さには比べるべくもない。入門編としては完璧だが、サザンオールスターズの音楽世界を果たして伝え切れているか? B'zもMr.Childrenも素晴らしい、だが1970年代末に大学音研サークル仲間を中心にキャリアをスタートさせ最初にロックバンドの道を切り拓いたサザンにしかなし得ない一点があるとしたら、それは古今東西のポップミュージックを料理してありとあらゆるテーマ・ジャンルで、誰もがいつしか口ずさむ〈言い訳のきかない〉作品=〈ポップス〉へと昇華する、この一点だ。

 これに対して、あらゆるサザンオールスターズファンを敵に回したとしても、今回のプレミアムアルバム『海のOh, Yeah!!』はサザンオールスターズの音楽世界を端的に表現していると思うのだ

 この作品を一聴して感じたのはまさにアルバムの濃密さだった。実際には1997年にシングルカットされた作品が盛り込まれたこのアルバムは、ヒット曲を集めた入門編というよりも、ここ21年間にサザンオールスターズがその時々の時代状況や時代的雰囲気と格闘しながら創造した〈日本ボップミュージック〉20年の歩みなのだ。ただのジョークではない〈生みの親〉、否、ここには時代と向き合うサザンオールスターズと桑田佳祐の〈産みの苦しみ〉から発酵した〈音楽の楽しさ〉のすべてが詰まっている。それを証拠にこの『海のOh, Yeah!!』はアップテンポの曲やバラードも含めて一つとして似たような曲調の曲を順番に並べていない。とりわけ、原由子リードボーカル曲『北鎌倉の思い出』の文学性の高い、魂に静かに響き渡る懐の深さと音楽的到達点。-おそらく若いリスナーはサザンオールスターズの楽曲世界の多彩さに驚きと感動を禁じえないのではないだろうか。もっとオリジナルアルバムを聴いてみたい、ライブを観てみたい、と。
 今回の『海のOh, Yeah!!』をスタッフと選曲した桑田佳祐はおそらく、今回のプレミアムアルバムは音源として残したい比較的納得がいったここ20年の作品だけを集めたのではないか。そして、ささやかに世間一般のサザン像をもひっくり返そうとしているように思う。真夏をテーマとしつつも春夏秋冬四季折々の曲が盛り込まれていると共にポップスのありとあらゆるジャンル、ありとあらゆるテーマ、様々な人生、喜怒哀楽を詰め込んでいる。

 本編ラストの『壮年JUMP』が流れる時われわれは思う。桑田佳祐がラジオで紹介したモーニング娘。も私立恵比寿中学もももいろクローバーZも現に今、等しく誰かの支えになっているのだ、と。もちろん桑田佳祐はメンバーやファンに配慮して青い「海の色」がイメージカラーだった故・松野莉奈さんの思いを今に生かして前へ前へと活動する「スーパー・ヒーロー」ならぬ『スーパーヒーロー』を歌うエビ中(の報道に接して歌に託したこと)も、『壮年JUMP』が出来たきっかけでもある事を明言してはいない。震災前年の2010年に術後復帰した自分とも重なるのだろう。この曲がエビ中の『スーパーヒーロー』のアンサーソングでもあることを
🎵
I won & I lost 「人と比べずに」
敵はここだ 「自分の中 潜む」
Stand up! Stand up! エネルギーためて
……………………「まだまだ負けない」

泣けちゃう夜もあるヒーロー だれもいつも強くないけど
不安 孤独 そんな言葉ひっくり返して もう一度歩こう

All Right 僕らスーパーヒーロー
だれもが皆 秘めるtwinkle POWER
少し涙しても 強く信じたいな 

今ここ がスタートライン

-私立恵比寿中学『スーパーヒーロー』
🎵
『Hero』の安室奈美恵、デヴィッド・ボウイ、西城秀樹への敬意。いやそればかりかこの『壮年JUMP』は、アイドルのことも、親戚や知人のことも、故人への思いを胸に生きる人びとのことも、そして40周年を迎えた今現在のサザンオールスターズのことも歌っている。まさに「悲しい時こそ歌うんだ」「同じ思いで人が集まった時にこそ生まれるのが音楽」(桑田佳祐)であり、ビートルズやビーチ・ボーイズを代表とする60年代ボップスならびにロックンロールの憧憬とロマンチシズムに溢れた『壮年JUMP』なのだ。だからデビュー40周年を迎えたバンドの〈壮年JUMP〉!-俺も音楽を楽しんで頑張ろう-サザンオールスターズ及びメンバーと向き合った2018年現在の桑田佳祐のささやかな決意表明。誰もが口ずさめるアンセム。まさにこれこそが桑田佳祐にとっての大衆音楽なのだ。

 ただのヒット曲集にはとどまらないプレミアムアルバム『海のOh, Yeah!!』は40周年を迎えたサザンオールスターズの開幕を告げ知らせる、再び三度大衆音楽のど真ん中に飛び込むovertureなのだ★

 

『海のOh, Yeah!!』
2018.08.01

<収録内容> 

[DISC-1:“Daddy”side]

1.TSUNAMI
2.LOVE AFFAIR~秘密のデート~
3.BLUE HEAVEN
4.イエローマン~星の王子様~ *
5.SEA SIDE WOMAN BLUES
6.彩~Aja~
7.HOTEL PACIFIC *
8.唐人物語(ラシャメンのうた)
9.SAUDADE~真冬の蜃気楼~
10.涙の海で抱かれたい~SEA OF LOVE~
11.私の世紀末カルテ
12.OH!! SUMMER QUEEN~夏の女王様~ *
13.LONELY WOMAN
14.01MESSENGER~電子狂の詩(うた)~
15.限りなき永遠(とわ)の愛
16.素敵な夢を叶えましょう 


[DISC-2:“Mommy”side]

1.東京VICTORY
2.ロックンロール・スーパーマン~Rock’n Roll Superman~
3.愛と欲望の日々    
4.DIRTY OLD MAN~さらば夏よ~ *
5.I AM YOUR SINGER *
6.はっぴいえんど
7.北鎌倉の思い出 〈新曲〉
11月1日公開映画『ビブリア古書堂の事件手帖』主題歌
8.FRIENDS
9.ピースとハイライト
10.アロエ
11.神の島遥か国
12.栄光の男
13.BOHBO No.5
14.蛍
15.闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて 〈新曲〉
映画『空飛ぶタイヤ』主題歌
16.壮年JUMP 〈新曲〉
アサヒ飲料三ツ矢サイダー2018CMソング


《完全生産限定盤 Bonus Track》
弥蜜塌菜(やみつだーさい)のしらべ 〈初音源化〉
アサヒ飲料三ツ矢サイダー2017CMソング








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