「“キミは見てくれが悪いんだから、アホ丸出しでマイクを握ってろ!!”だと!? ふざけるな!!」-成長し・深化し・完成を遂げたツアーだった。

 札幌ドーム二日間をはじめ全会場55万枚ものチケットは完売し当日券の発売もなし、特に関東圏は極めて狭き門だった中、私自身幸運にも会場に足を運べたことがどんなにありがたかったことだろうか。この只中で、もっと派手に騒いだセットリストにしてもいいはずの40周年ラストと来たる6月25日の41周年目前のちょうど節目に、サザンオールスターズはもちろんバランスをはかりながらだが、いつまで保つ(もつ)か危うかったプロデビュー直後から足かけ41年間の〈魂の音楽遍歴〉をセットリストにビルトインしつつ、今ここで現在進行形の現役宣言を発したのだった。「ほどよく大衆と寄りそいながら」(第三回ひとり紅白での桑田佳祐メッセージ)サザンオールスターズの世界観を魅せつけた。ついに今ツアーは東京ドームファイナルで頂点に達した。

 日本音楽史上初のメンバー全員が還暦をこえた、グループ=ロック・バンドによるアリーナ&6大ドームツアーの、ファイナル東京ドーム公演を観て、万感の思いが溢れた。これだけキャリアを重ね歴史を切り拓いてきたロックバンドが年輪を重ねつつ、全くデビュー当時と変わらないままなのだ。ストイックに演奏しつつも、何か新旧オーディエンスの前で演奏するサザンオールスターズは無性に楽しげなのだ。オーディエンスとのコミュニケーションを心ゆくまで楽しみつつ、選曲も演奏も歌唱も演出も、現在進行形で深化し続けるロックバンド・サザンオールスターズの颯爽とした姿。
 今回のステージに立ったサザン楽団を構成するメンバー・男女パフォーマー・スタッフ全員が素晴らしい。
 古戦場、赤い炎、特に桑田佳祐の最高傑作女神達の演奏は完璧だった。重量級のハードロックにしてブルースロック的アプローチが生きる万葉歌〈CRY 哀 CRY〉。そして極めつけは桑田のギターソロから始まる、ディランに影響を受けたレノンとも言うべき〈世に万葉〉収録のHAIR、この曲の桑田の歌唱は神がかったかのようにあまりにも完璧で桁違い。これぞROCKでBLUESだ。デビュー当時や初期の曲での、パーカッション全開のレパートリーは、そっくりそのまま、日本のロックの新しい夜明け。だが、デビュー当時と全く変わらぬサザン・ロックとラテンのサザンだ。
 〈人気者で行こう〉収録の二曲の、当時のMTVに挑戦した、斬新さ、圧倒的な完成度の高さ! 〈これまでの日本ロック史についにサザンが死の宣告を下した!〉、と驚嘆させられたあの日のサザン。日本大衆音楽の伝統を〈受け継ぎ・のりこえ・発展させる〉あの日のサザン。ところが、過去の名作という解釈にとどまらず、むしろ今の俺たちは【何一つ変わらず】でももっともっとここまで出来るんだぜ!と言わんばかりの、【現在的に深化し続けるサザンオールスターズ】の姿は粋だ。本当に息を飲んだ!
 「東京ドームで また逢おうね みんな元気で ありがとう」-ラストに流れるサザン渾身のロッカ・バラードは、ただただシンプルに、色々な事があったが、41年間音楽を続けられてきて本当に良かった、と〈我らサザンオールスターズ〉が自ら噛みしめているかのようなのだ。オーディエンスに、そしてスタッフに、最後オーラスに選曲した36年前のこの曲この音楽で、サザンは何としても深い感謝の念を伝えたかったのに違いない。そして、旅は続く、のだ。
 2020年代もサザンオールスターズは歌い演奏し続ける、こうしたサザンの本気が伝わってきた。
 41年間サザンと出会ったきっかけは人様々だと思うけれども、もう一度断言したい。われわれはこのサザンオールスターズと桑田佳祐の音楽的情熱にシビれて聴き続けてきたのだ!、と。離れてはまた帰ってこられる場所、これが〈永遠の今〉であるサザンオールスターズだった。
 ヒット曲を聴いたのはただのきっかけに過ぎない、温故知新とも言うべきサザンのアルバム・サザンの音楽世界に魅せられ今に至るのだ。
 41年間、第一線に立ち続け、ヒット曲を生み出すことを義務づけられながらも、自分が魅了され・恋焦がれてきた音楽に近づくことを夢見て何度も挑み試みてきた彼らサザンオールスターズの〈本質〉=〈否定のサザン〉で勝負してきた素晴らしい全国ツアーだった。
 すなわち、彼らは【2018年の40周年メモリアルイヤーに】栄光に輝いた次の瞬間から自らのスタイルを〈解体=再構築〉し・不断に現在直下の新曲【41年間の音楽的追求と試行錯誤の結果生み出された傑作群&昨年来の新曲群を核に据えた今全国ツアーのセットリスト】で勝負し続ける、デビュー当時から何ひとつ変わらぬ〈サザンの流儀〉、すなわち〈否定のサザン〉を貫いたのだった
 今回このサザンオールスターズが何度かこの目で観られたことに悔いはない! 逆に、2013年のライブを再び三度観られた今となっては、2020年代に突入する次のステージでも桑田佳祐が今納得のゆく曲・新曲ばかりを集めたライブが、また観たい! そしてもう一つ、誰だ一服タイムだと言ったのは?、原由子がリードボーカルをとる〈北鎌倉の思い出〉は絶唱・名演だぞ。中盤戦こそがサザンオールスターズの音楽世界の白眉だった★

 それぞれのメンバーの見せ所で私は一人一人のメンバーの演奏を堪能した。一曲一曲に精魂をこめるクワタさん、青学時代からクワタと同期で腐れ縁の・独創的なフレーズですらクールなムクちゃん、ボーカルを引き立たせつつサウンドをグイグイ牽引するヒロシ、男顔負けの鍵盤さばきでだがストイックなプレイヤー原坊さん、ヒロシと抜群の呼吸でリズムセクションに厚みをもたらせる毛ガニ。
 サポートメンバーも忘れられない。
 クワタの大学時代の後輩で必殺のギターリフが魅力の誠っちゃん。ヒロシと共にサザンサウンドの要として今回もハラボウと抜群のコンビネーションを発揮した片山くん敦夫ちゃん(ライブ再現不可能な曲のサウンドを眼前に甦らせてくれたのはすべて彼の功績)。山本拓夫・吉田治・スガちんこと菅坡雅彦のホーンセクションがサザンサウンドの粋をもたらす。ポップスの伝統と今様を巧みに演出してくれるChorusのTIGER&小田原 ODY 友洋。〈総力戦〉に欠かせないエンターテイメントの楽しさを引き立たせてくれるEBATOダンシングチーム(ファイナルのマンピーは昨年以来、路線転換した演出の完成形となった。もう男女逆転が何の違和感もないほど突き抜けていた!スゴかった!)。
 その瞬間その瞬間に彼らを観ていて心から楽しかった。メンバー紹介でハラさんが感謝を込めて紹介されたサポートスタッフさんや南谷さんらサポートスタッフオールスターズまで含め、オーラスの〈旅姿〉がこれほど心に響いたことはない。

 サザンオールスターズよ! サザンにしかなし得ない音楽世界をズラリとラインナップした素晴らしいポップミュージックを本当にありがとう♪ これらの曲と出会ったからこそ、私もサザンオールスターズを選んだ。そう再確認させてくれた、濃密で現在的意義のある素晴らしいライブだった★





⏹️今回のライブツアーでサザンは、ボップミュージックの楽しさ、素晴らしさ、奥深さ、喜びも希望も悲しみも怒りも、恋も愛も性愛もエロティックもロマンも社会風刺も、人間の愚かさもそれゆえの慈しみや愛しさも、そして人生を、端的にすべて一夜のライブに詰め込んだ。その時々の時代状況や時代的雰囲気と格闘しながら創造した、桑田佳祐が今日的に納得のゆく、真の傑作群や音楽的遊び心に富んだ作品群をズラリとラインナップしてきた。あたかもライブ自体がサザンオールスターズというタイトルの一つのオリジナル作品=長編小説でもあるかのように、音楽的情熱のいっさいを傾けてきた。
 桑田佳祐の音楽は、ちょっぴり格好をつけた時でさえも、常に“見栄をはらない”。そして『永遠の男』や『明日晴れるかな』『東京VICTORY』『闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて』『はっぴいえんど』に端的なように、人生の矛盾や懊悩も、世知辛い現実も、ことさらに隠そうともしない。
 格好わるいことも、みじめなことも、照れくさいことも、幸せも、哀しみも、憤りも、喜びも、実に率直で素直なのだ。桑田はフィクションの形式でさまざまな人生に光をあて歌に託してきた。だからこそ、サザンは41年間、その時々にたとえ売り上げに波があったのだとしても、過去の栄光にすがることなく、時代に負けなかった。
 こうして、サザンライブツアー2019は、サザンオールスターズ41年間の音楽的格闘と音楽世界のガイストを〈今日的に〉凝縮した、現在進行形のさらなる現役宣言のライブとして実現されてきた。
 すなわち、サザンオールスターズは、「夏だ!海だ!サザンだ!」なる卑俗な世間一般の〈サザン像〉なるものを木っ端微塵に打ち砕き、たとえバンドのオリジナルメンバー全員が還暦をこえた史上初のアリーナ&6大ドームツアーなのだとしても、自然体で変わらぬ現役宣言を謳いあげた。

 たとえ、サザンファン全員を敵に回したとしても、2020年へ向けた今だからこそ、私はこのサザンオールスターズが観たかった! 今回、なんとROCKなサザンなのだろう。〈陶酔のサザン〉-まさにサザンオールスターズ=〈永遠の今〉=ポップミュージックの極致を魅せつけられ、万感の思いが溢れる。

新しいふたりの出発(たびだち)の日に
燃える太陽がロックンロールを踊っている
『はっぴいえんど』

 まさに、サザンオールスターズとは〈永遠の今〉。それを証明した昭和・平成から令和をまたいだ現在的意義のある画歴史的なツアーだ。









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