サザンオールスターズ11th album 
『世に万葉の花が咲くなり』

('92.9.26)



4週連続1位
年間チャート7位
162万3千枚ミリオンセラー




M1.BOON BOON BOON ~ OUR LOVE[MEDLEY]
M2.GUITAR MAN'S RAG(君に奏でるギター)
M3.せつない胸に風が吹いてた
M4.シュラバ★ラ★バンバ SHULABA-LA-BAMBA
M5.慕情
M6.ニッポンのヒール
M7.ポカンポカンと雨が降る(レイニー ナイト イン ブルー)
M8.HAIR



M9.君だけに夢をもう一度
M10.DING DONG(僕だけのアイドル)
M11.涙のキッス
M12.ブリブリボーダーライン
M13.亀が泳ぐ街
M14.ホリデイ~スリラー「魔の休日」より
M15.IF I EVER HEAR YOU KNOCKING ON MY DOOR
M16.CHRISTMAS TIME FOREVER







 90年、91年をステップとし92年、サザンはメガヒットの時代に突入する。

 桑田佳祐・小林武史・藤井丈司のトロイカ体制は堅固であったが、ベーシストの関口和之が健康上の理由で活動を休止する(91年~93年)のもこの時期だった。

 こうした試行錯誤の過程である92年に完成した作品『世に万葉の花が咲くなり』は、サザンオールスターズの全アルバム中、最も豊饒で面白い作品となった。

 オーティス・レディングが『ソウル大辞典』なら、サザンは〈言の葉大全集〉、すなわち〈ポピュラー・ミュージックの万葉集〉を完成させたのであった。









【91年】

 『稲村ジェーン』の興行的成功によりサザンはモンスター・バンドに成長した。良くも悪くも叩かれるようになる。それと同時に音楽の分野で頼られるバンドになった。
 こんな時こそ、楽曲クオリティーが求められることは熟知していた。




 まず、91年3月27日原由子が11枚目のシングル

『ハートせつなく』

を、次いで5月29日に

『じんじん』

をアルバムに先がけてリリースした。



 すなわち、原由子は実に8年ぶり3枚目のソロアルバムを、なんと2枚組のヴォリュームで発表したのである。6月1日に発売した

『MOTHER』

だ。




週間4位、CTチャート3位を獲得。年間20位、61万5千枚を売上げた。

 日本大衆音楽史上、バンドの一メンバーであるにもかかわらず、ソロで2枚組オリジナル・アルバムを発表したのは、後にも先にも原坊だけである。しかも、この作品には原の純粋な音楽愛が刻みこまれている。



 出産後、一時音楽を断念しようとした彼女はスタッフに支えられこのアルバムを完成した。

 育児と並行して、自宅の「猫に小判スタジオ」で歌入れをした『MOTHER』は、女性シンガーのポップアルバムとしては魅力にあふれた歴史的名盤である。一度聴けばびっくりするだろう。一つとして似通った歌曲がなく、20種類もの顔をもつ女性シンガーのアルバムが完成したことは驚くべきことである。

原由子 3rd ソロアルバム『MOTHER』
〈DISC 1〉
01.ハートせつなく
02.東京ラブコール
03.少女時代
04.星のハーモニー
05.じんじん
06.使い古された諺を信じて
07.Good Luck, Lovers!
08.かいじゅうのうた
09.UFO(僕らの銀河系)
10.花咲く旅路

〈DISC 2〉
01.お涙ちょうだい
02.イロイロのパー
03.あじさいのうた
04.夜空を見上げれば
05.Anneの街
06.終幕(フィナーレ)
07.春待ちロマン
08.ためいきのベルが鳴るとき
09.キューピーはきっと来る
10.想い出のリボン


 原は続いて初のソロコンサートツアー

『花咲く旅路』

を開催する。6月3日大阪フェスティバル、4日名古屋市民会館、7日日本武道館で20曲以上を披露した。


 そして、11月1日、アニメ『YAWARA!』の主題歌である13thシングル

『負けるな女の子!』

(C/Wは『少女時代』)を発表。

 年末の第42回紅白歌合戦に、ソロで単独「出場」を果たし、歴史的名曲

『花咲く旅路』

を披露したのであった。







 この只中で、桑田佳祐はこの年、まず3月24日~26日に、現在は閉館した新宿の日清パワーステーションでアンプラグド・ライブ

アコースティック・レボリューション

を開催した。


 エリック・クラプトンをはじめ世界的にアンプラグド・ライブがブームとなっている中で、桑田佳祐の原点である洋楽を全編カバー。なお、サポート・メンバーとして参加した佐橋佳幸と小倉博和がバンド「山弦」を結成するきっかけともなった。

※※アンプラグド・ライブ──プラグ🔌を通さないライブ。アコースティックライブ。




 さらに桑田は6月に、小林武史・小倉博和・今野多久郎と共に中国の北京旅行をかねて現地でゲリラライブを開催。この経験をもとに桑田は、コバタケ・小倉・佐藤・そして角谷仁宣とシングル発売限定ユニット

SUPER CHIMPANZEE

を結成した。



9月26日には

クリといつまでも

(C/WはEDMの傑作『北京のお嬢さん』)を、
11月21日には桑田佳祐最初で最後のカラオケトラックCD

『クリといつまでもカラオケ付き』

をリリースした。




 この経験が翌92年、サザンが天安門事件以後「民主化」が進む中国で北京ライブを開催する契機となったのである。



こうした中、7月10日に発売した

ネオ・ブラボー!!

は41.3万枚を売上、『さよならベイビー』以来、サザン2度目のシングル週間1位に輝いたのであった。


 1991年当時、アメリカ同盟軍による対イラク軍事侵略・占領が強行された。日本の愛知県・小牧基地からはC130Hが出撃し・のちに自衛隊の掃海部隊も出兵することで、日本政府もまた(ソ連・中国の屈服によって許された)「国連決議」を錦の御旗としたアメリカ同盟軍主導の帝国主義戦争に全面的に協力・加担したのである。


 このような状況下、サザンはウエストコースト・ロックを基調とした『ネオ・ブラボー!!』を発表!



 PVにも湾岸戦争の映像が取り入れられたこの曲でサザンオールスターズは、(核兵器の)「永遠の最終形はZERO」「最大の放物線はZERO」と、反戦・反核を謳ったのであった。

(TBS系報道番組『筑紫哲也NEWS23』エンディングテーマ。)






愛の夏来れば皆“高温万歳(ブラボー)”

病める時代(とき)を忘れて


太陽待ち焦がれた“浪漫人種(ピープル)”

闇が流れる現代(きょう)だから



熱い放射で揺れる影より

明日(あした)の空は暗い

嘆きの風を肉体(からだ)に受けて

君と夢を見ていたね



情熱の相対性はNEO

終わり無き世のBlues (OH, My Baby)


永遠の最終形はZERO

X(エックス)同然、さらばLove

Woo. You hit me.





愛の夏来れば皆“高温万歳(ブラボー)”

迫る雲に怯えて

眠れない夜の“浪漫人種(ピープル)”

夢が壊れた現代(きょう)だから



地上の果てでまた逢える日を

願う心は暗い

無情の雨に濡れた木の葉は

冬を待たずに散るだけ



最愛の進行形はNEO

落ちる涙のBlues (OH, My Baby)


最大の放物線はZERO

X(エックス)同然、巡るLove

Woo. You touch me.





割れた魔法の鏡は……Woo

冷酷な運命(さだめ)を曲げて見せる




情熱の相対性はNEO

終わり無き世のBlues (OH, My Baby)


永遠の最終形はZERO

X(エックス)同然、さらばLove


Woo. You hit me.








 1ヶ月後には、全10公演30万人を動員したスタジアムツアー


『 Southern All Stars THE 音楽祭 1991』


を開催。
ナゴヤ球場2デイズ、西武球場3デイズ、阪急西宮スタジアム2デイズ、ラストは横浜スタジアム3デイズでフィナーレを迎えた。


さらに12月29日~31日には


『闘魂! ブラッディ・ファイト年越しライブ at 横浜アリーナ』


を開催。横アリ3デイズで有終の美を飾った。








【92年】

 すでに前年10月からサザンは、ニューアルバムのレコーディングに突入していた。


 その合間をみはからって、6月27日、桑田佳祐名義でのコンピレーション・ソロ・ベストアルバム

『フロム イエスタデイ 』

をリリースした(週間2位、年間11位。111万2千枚)。



 そして、7月18日……

 デビュー14周年を迎えたサザンオールスターズは、ついに日本のモンスター・バンドたるの実を示した。
同時発売した2枚のシングルが爆発的な売上を記録したのである。





《同時発売》

◆30thシングル
シュ★ラバ★ラバンバ SHULABA-LA-BAMBA

⇒週間2位、年間13位(95.5万枚)



◆31stシングル
涙のキッス

7週連続1位!

CDTV年間3位、年間5位(152万2千枚)

シングルではサザン初のミリオンセラー



 なお、この2曲は週間1位2位を独占。藤圭子・松田聖子に次ぐ、史上3人目の栄誉に輝いた。
 さらに、<2週連続1位2位独占(1-2フィニッシュ)>は、当時、藤圭子に次ぐ史上2組目の記録であった。





 ついに9月26日に発売したSAS11thアルバム

『世に万葉の花が咲くなり』

は、4週連続1位を獲得。

年間7位(162万3千枚)でミリオンセラーに輝いた。




 こうして、サザンは名実ともにモンスター・バンドに成長したのである。ただし、ムクちゃんこと関口は健康上の理由で、93年まで「活動休止」する。代わって、美久月千晴がサポートした。




 その直前、9月12日と13日、中国の北京・首都体育館で、全2公演2万人を動員した


南天群星 北京で逢いましょう


公演を実現。

 初日は桑田が体調不良にみまわれながらもメンバーが即興でフォロー。2日目は万全の態勢で『ネオ・ブラボー!!』から『いとしのエリー』まで全26曲を披露した。




 自身過去最高売上を記録した11thアルバムを発売すると、10月14日から翌年2月5日にわたる長期越年ツアーに入った。



サザンオールスターズ
『歌う日本シリーズ 1992-1993』



は全40公演30万人を動員。開幕は代々木体育館4デイズだった。





 発表されたニュー・アルバムは、ブルース・ロックとファンクとポップスが次々と繰り出される電光石火の傑作である。まさに90年代「Jポップ」黎明期の基調を決めた、時代を代表する名盤である。









①『BOON BOON BOON ~ OUR LOVE[MEDLEY]』

 このアルバムが1番面白いアルバムであることに異論を唱える者は多くないだろう。サザンのアルバムど頭の予想だにしない毎度の充実っぷり。なんとホーンセクションが黒っぽく、いなたいのだろう。これはサザンにとっての『ツイスト&シャウト』である。

 ジョン・リー・フッカー『ブーン・ブーン』をアニマルズを経由し、ニール・ヤングが演ればこうなる、と言わんばかりの桑田の才能には驚かされる!







②『GUITAR MAN'S RAG(君に奏でるギター)』

 ブルースの連発!

 デレク&ドミノス時代のエリック・クラプトンを彷彿とさせる名曲だ。







『せつない胸に風が吹いてた』

 このアルバムはテンションが全く途切れない。特にこの曲のメロディーラインは完璧に美しい。青春の咆哮、痛み、傷がしっかりと表現されている。
完成度の最も高い曲。桑田の後にも先にも桑田なし。








『シュラバ★ラ★バンバ SHULABA-LA-BAMBA』

 出た! ニュージャックスウィングの傑作。別名テディー・ライリーもしくはスライ・ストーン。またはマイケル・ジャクソン『ジャム』&ユーロ・ビート!

 ラストの(レイ・パーカーJr.っぽい)ラップ・パートでの爆発力は圧巻である。これがサザンだ!

 驚きを禁じえないのはこのアルバムのモコモコした音。当時、サザンや山下達郎は、かつての音を今に、完璧に蘇らせた。







『慕情』

「水に投げた小石の跡がとめどなく輪を広げ」という歌詞など、一句で視覚・聴覚を表現する芭蕉の境地。『マイ・ラヴ』のポール・マッカートニーのように美しい。








『ニッポンのヒール』

 桑田佳祐初のストレートなボブ・ディラン。

 当時の小沢リモコン羽田政権の頃の小沢一郎へのクリティーク。さらに、エセ新興宗教から独占ブルジョアジーの森林伐採にまで反ヒールの暴露が拡大してゆく。そういう桑田の名悪役ぶりも浮き彫りとする手法はお見事。
 桑田は2年後のソロ2ndで、ついにもの凄いディラン・アルバムを完成させる!

 さらに、この手触りで、桑田は2016年、異端児『ヨシ子さん』を完成させた。






『ポカンポカンと雨が降る(レイニー ナイト イン ブルー)』

 ここで原坊のラテン歌謡が登場。リリシズム・ブルージー・せつなさと3拍子そろった鉄壁の完成度。







『HAIR』

 これはボブ・ディランに影響を受けたジョン・レノンという所だろう。個人的には『ゴッド』と呼んでいる。桑田佳祐のヴォーカルは素晴らしい。
 『HAIR』と『道』(2015年リリース15th album『葡萄』🍇収録曲)はほぼ桑田ソロに近いが、私はこの2曲はサザンオールスターズの十指に入る曲だと思うのだ。







⑨『君だけに夢をもう一度』

 ここでやっと(私には興味が薄い)万人受けのポップスが来る所がこのアルバムが歴史的名盤たるゆえん。ただし、良曲だ。







⑩『DING DONG(僕だけのアイドル)』

 これはウラジミール・ナボコフ『ロリータ』。この暗さもサザンの魅力の一つである。







『涙のキッス』

 トーンをガラッと変えてバラッドへ。初のミリオンを達成したシングル曲だが、一体、桑田はいくつバラードの名曲を発表したのだろう。







⑫『ブリブリボーダーライン』

 和洋折衷のイロモノ系90年代ダンス・ミュージック。

 2015年のサザン「おいしい葡萄の旅」ツアーで、いきなり選曲されたのには、たまげた。








⑬『亀が泳ぐ街』

 ジャズ・ブルースの傑作である。歌唱スタイルは前川清。
 のちに『SEA SIDE WOMAN BLUES』⇒『東京』⇒『おいしい秘密』へと核分裂させてゆく。ちなみに前川清も『SEA SIDE WOMAN BLUES 』や『TSUNAMI』をカヴァーしている。
 個人的にはマディ・ウォーターズⅣと呼んでいる。

 この成果は、『青春番外地』そして、『大河の一滴』へ。
 『大河の一滴』は、『東京』『現代東京奇譚』『ヨシ子さん』に匹敵する、桑田ソロワークスの傑作だ!







⑭『ホリデイ~スリラー「魔の休日」より』

 桑田お得意のミステリ活劇。と言っても、今回はサスペンス色が強く、ミステリ作家ウィリアム・アイリッシュ原作の『幻の女』『ポイズン』ばり。







⑮『IF I EVER HEAR YOU KNOCKING ON MY DOOR』

 ア・カペラ。
 テイク6+ボブ・ディラン『天国への扉』。







⑯『CHRISTMAS TIME FOREVER』

 ラスト2曲は山下達郎色がグッと強くなる。桑田作曲のクリスマス・ソングの名曲。おそらく桑田の最新ソロベスト盤『I LOVE YOU -now & forever-』に収録された『Kissin' Christmas(クリスマスだからじゃない)』(当時非売)をもう一度作り直したのだろう。荘厳な美しいメロディで終わるこのアルバムは、何度でもリピートしてしまいたくなる。












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