③のつづき。





【10年】

2010年は歌謡界がドラスティックに変貌を遂げたが、桑田佳祐にとっても波瀾万丈な1年となった。

1月と2月、ソロアルバムの制作に向けたバンド合宿で、セッションが行われ、次々と新曲のリズム録りが進行した。


3月13日には


『サザンオールスターズ応援団 presents 「桑田佳祐の音楽寅さんDVD発売記念~DVD未収録映像炎上! これぞ蔵出し "巨大上映会" @武道館~」 supported by SPACE SHOWER TV 20th Anniversary』


が開催された。

要するに、『桑田佳祐の音楽寅さん』のDVDボックス発売記念イベントが、武道館で行われたのである。


4月17日にスペースシャワーTVで放送された限定イベントで以下、告知された。



①10月20日桑田佳祐名義のニュー・アルバム発売


②ニュー・アルバムをひっさげた5大ドームツアー

『桑田佳祐 LIVE TOUR 2010 全国への階段 ~Stairway to Nippon~』

開催



桑田佳祐8年ぶり4枚目のソロアルバム発表と、3年ぶりの5大ドームツアー開催は、大きな話題となった。



次いで5月3日にはFMラジオ番組『桑田佳祐のやさしい夜遊び』で4時間36曲の生歌ライヴが生放送された。

スタジオに原由子・斎藤誠・片山敦夫・金原千恵子が駆けつけた。


この場で原由子の新曲

『京都物語』

が初オンエアされると、原はA-Studio、Mステなどの音楽番組に出演した。







鴨川流る 京はふるさと
春は花灯路の東山でした


祇園囃子が響く夏にも
送り火に揺られて
永遠(とわ)にあなたは眠る


二人で歩いた小路や石畳
月夜にまぎれて隠れた恋の街







昨日と明日を結んで帯にして
桜の花咲く頃また
京都へ







この『京都物語』を収録した原由子2枚目のベスト盤

『ハラッド』

は週間3位、6月月間7位のスマッシュ・ヒットを記録した。


サザンの『私はピアノ』でリード・ヴォーカル曲を歌ってから30年(ソロデビュー29年)の音楽活動を記念し、発表された。


主要な曲がほぼ網羅された素晴らしい作品集だ。またも繰り返しになるがこの『ハラッド』を聴いた者は、30曲もの全く異なる表情をもつ女性シンガーに驚きを禁じえないだろう。原由子とは繊細で細やかな歌心をもつ稀有な歌手なのである。



初回限定盤には、彼女が責任編集した、ベスト盤収録30曲にちなんだエッセイ、「はらぼん」が特典につけられた。

『少女時代』
という曲の所で彼女は、友達が少なくて暗かったとし、「今は気づいてないでしょうけど、これから沢山の人に出会って、自分でもびっくりの面白い事がいっぱいあるんだよ。いじけてばっかりで、夢も希望も持てない! な~んて思ってるみたいだけど、人生そんなに捨てたもんじゃない」と "少女時代の自分自身" に向けて書いているうちに、感極まったそうだ。




7月4日、原由子は鎌倉芸術館大ホールで19年ぶりにソロコンサートを開催した。2千人限定無料招待の


『原由子スペシャル「はらばん」鎌倉ライブ』


である。





【Set List】

01.あじさいのうた
02.鎌倉物語
03.少女時代
04.シャボン
05.花咲く旅路
06.潮風のエトランゼ
07.ポカンポカンと雨が降る(レイニー ナイト イン ブルー)
08.いちょう並木のセレナーデ
09.唐人物語(ラシャメンのうた)
10.私はピアノ
11.京都物語
12.ハートせつなく
13.恋は、ご多忙申し上げます
14.じんじん
15.夢をアリガトウ


【ENCORE】

EN1.そんなヒロシに騙されて
EN2.いつでも夢を(橋幸夫・吉永小百合)feat.桑田
EN3.想い出のリボン




「そして迎えたライブ当日。私のために全国からいらして下さった皆さんに会えると思ったら緊張より喜びの方が勝っていました。ステージに出て行った時のお客様の温かい声援、とっても嬉しかったです。」


「こうして振り返ると、いつも誰かに励まされ、背中を押してもらいながら、なんとか歩んでいる私。『ハラッド』のおかげで、とっても大事な事を思い出させて頂きましたし、これからも音楽の素晴らしさをお伝え出来るよう頑張ろう! と思いました。」

(原由子著『同上』83頁)



「30年分の感謝の気持ちを込めたライブでしたが、お客様の温かい声援に元気を一杯頂いてしまいました。全ての曲に人生を重ね合わせて歌い、喜びに満たされて、ライブは無事終了。ところが、この約1週間後に桑田の病気が分かり……。白状しますと、その後、連載休止直前に書いた文章はうわの空でした。」




「今年はサザンがデビューして35年。現在は活動休止中ですが、メンバー全員「いつでも集まれるようにしておきたい」という気持ちは同じ。私もサザンのキーボードプレイヤーという意識を常に持ちつつ、ソロとしても、あんまりのんびりペースにならないようにしながら、心に響く音楽を求めて歌っていきたいと思っています。」

(『同上』89頁)






右のように、7月12日、桑田佳祐が初期の食道がんであることが判明。2週間後の7月28日、休養が発表された。もちろん、10月20日予定のアルバムは発売延期となり5大ドームツアーも中止となった。




しかしながら、公表から4日後、手術は無事成功。桑田は驚異的な回復力をみせ、8月22日退院となった。


その2日後24日、桑田佳祐回復の話題が全国を駆け巡ったのである。それはまさに『偉大なる復活』(ボブ・ディラン with ザ・バンド)であった。




続く8月25日、桑田佳祐13thシングル

『本当は怖い愛とロマンス』

が発売。


ポール・マッカートニーばりの軽快なロックンロールのこの曲は2位を獲得。4年ぶりにソロ名義で発表したシングルの初動売上が10万枚をこえ、健在ぶりをアピールした。桑田佳祐復帰への世論の期待が嫌が応にも高まっていった。



10月8日から桑田は歌入れを再開した。
医師からの承諾も得たものの本当に声が出るか?


術後、最初に歌ったのは『SO WHAT?』だった。

その後、『狂った女』『月光の聖者達』と間隔を置いて歌入れは続いた。

『それ行けベイビー!!』では、アミューズとビクターのベイビーズも、コーラスで参加した。

12月3日アルバム楽曲のトラックダウンが行われた。完成が迫っていた。


8日~13日マスタリングが行なわれ、クリスマス・イヴの24日、ついにスタジオ・アルバムは完パケした……。



ソロワークスの集大成としたい-そう決意して桑田佳祐はバンドメンバー・スタッフとスクラムを組み、アルバム制作にのぞんできた。
「ふとした病」発覚で桑田はこの作品が未完の遺作となると思った瞬間もあるかも知れない。しかし、日本全国から桑田佳祐への支援と祈りのメッセージが集中した。医療スタッフ、家族、知人、山下達郎夫妻や吉田拓郎ら先輩同志たちも、桑田にエールを贈った。


これらの声援は桑田の音楽人生にとって衝撃的な事態だったのではないだろうか?



デビュー30年をこえ音楽により結ばれた絆と生かされていることへの自覚へ、と。


<死んで生きる>-
音楽家として生きる決意が成立した瞬間だった。術後、桑田は最高傑作を完成させる決心でアルバム制作を再開した。しかし当たり前のように、いつも通り、作品に魂を刻み込んだ。こうしてアルバムは完成した。どの曲から聴き始めても成立する未来を先取りしたトータル・アルバムとして。



完成直後の12月28日、全国に次のようなニュースが駆け巡った。



★桑田佳祐 大晦日「NHK紅白歌合戦」で活動再開!!
日本中に激震が走ったレコーディング中断を経て、ニューアルバムの完成も発表した桑田佳祐がついに復帰を果たします。その場に選んだのはなんと「NHK 紅白歌合戦」!2010年の締め括りに、桑田佳祐の歌声を是非お楽しみください!


★2011年元旦、「桑田佳祐のやさしい夜遊び」の生放送復帰が決定!!
2011年1月1日のレギュラーラジオ「桑田佳祐のやさしい夜遊び」に生放送で復帰することが決定しました!!7月31日の放送以来となるレギュラーラジオへの出演!新年第一回目の生放送!お聞き逃し無く!!
□TOKYO FM系全国38局ネット 23:00~23:55






そして、12月31日、桑田佳祐は第61回紅白歌合戦にビクター401スタジオから特別出演した。


復帰挨拶を全国のお茶の間に向けて行ったのだ。

本邦初公開となる『それ行けベイビー!!』を弾き語り、ヒットシングル『本当は怖い愛とロマンス』を披露。紋付き袴にバニーガールを侍らせてのご挨拶となった。






【11年】

紅白歌合戦後、元日の新聞広告では2面全面ぶちぬきで新春挨拶が掲載された。



★桑田佳祐 待望のニューアルバム『MUSICMAN』2月23日発売決定!!

お待たせしました!!遂に桑田佳祐、約9年ぶりとなる待望のオリジナルソロアルバムが2月23日に発売することが決定しました!!ニューアルバムのタイトルは、その名も『MUSICMAN』!!

先行シングル「本当は怖い愛とロマンス」「EARLY IN THE MORNING ~旅立ちの朝~」「君にサヨナラを」を含めた全17曲を収録! さらに、アルバムに収録される新曲「月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)」が、三井住友フィナンシャルグループCMソングに決定しました!!
1月1日よりCMがスタート!!
この時代に日本に生きるということとは、音楽を奏でることの意味とは…

桑田佳祐が全力で音楽と向き合い、すべてを注ぎ込んだ“超大作”が遂に発売。ご期待ください。ニューアルバムの詳細は、http://sas-fan.net/をご覧ください。


★桑田佳祐 全国7都市での試聴会開催決定!!

お待たせしてしまった皆さんに、この待望の新作をどこよりも早く聴いていただきたい!!という想いを込めて、“4thアルバム『MUSICMAN』発売記念試聴会『プレミアム・リスニングパーティ2011』”と題したスペシャル試聴会の開催が決定しました!!




試聴会は全国のZeppが会場に選ばれた。

初日2月1日のZepp Fukuokaには桑田佳祐が登場、途中、風邪をこじらせたものの、ファイナルとなる2月19日には、11年ぶりに地元・茅ヶ崎の市民文化会館で、熱烈なパフォーマンスを披露した。


誕生日3日前、(桑田母の誕生日)2月23日に桑田佳祐は4枚目のアルバム

『MUSICMAN』

を発表。

2週連続1位、2月月間1位、年間8位(41.4万枚)を記録した。



桑田のキャリアが凝縮されたまさに現時点の最高傑作である。命を刻みながらも、作りこみすぎず、メロディー・ハーモニー・サウンドが溶け合う素晴らしいアルバムである。MUSICMANたちによる『熱い胸さわぎ』-これがこのアルバムには最もふさわしい言葉である。



「術後初めて声を出した、歩いた、ご飯を食べた、ついに歌ったとか、そんな事一つ一つが感動でした。まさに生まれ変わったようですね(笑)。大変な事もあるけど人生って素敵だなぁ。そして……音楽があって本当に良かった♪」

「桑田が手術に入る時のBGMはボズ・スキャッグス。私は、桑田の大好きなビートルズのアルバムを1枚目から順番に聴き、祈りながら手術が終わるのを待っていたのですが、心配がピークに達した頃に聴いた『レット・イット・ビー』には救われました。また、桑田がここまで順調に回復出来たのは、やはり「なんとしてもアルバムを完成させたい!」という強い思いがあったからこそとも思います。」



「退院後のアルバムレコーディングで一番最後に歌った曲は、ビートルズへのオマージュとも言える曲。今回の経験を経たからこそ出来た曲だと思っています。「現在(いま)がどんなにやるせなくても 明日(あす)は今日より素晴らしい」(月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)。桑田がまた歌ってくれた事、そして、音楽の神様に感謝します♪」

(原由子著『同上』91頁)




誕生日前日の2月25日桑田はMステに出演。

花束を贈呈された時に、桑田はaikoと嵐の松本潤からほっぺにチューの祝福を受け、満面に笑みを浮かべたのだった。





それから約2週間後、<3・11>東日本大震災・福島第一原発炉心溶融爆発事故が発生した……。






⑤につづく。










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