サザンオールスターズ15th album 
『葡萄』
(2015.03.31)



週間1位
年間7位



アナログ盤A面

M1.アロエ
M2.青春番外地
M3.はっぴいえんど
M4.Missing Persons
M5.ピースとハイライト
M6.イヤな事だらけの世の中で
M7.天井桟敷の怪人
M8.彼氏になりたくて









①アロエ

 桑田曰く、日本の歌謡曲的伝統に螺旋的に回帰した、と明言する『葡萄』のオープニングを飾る曲は、なんとコンテンポラリーもの。

 バスドラ4つ打ちのビート・ロックならびにハイパー・ディスコ・ビート・ナンバーだ。実に逆説的で痛快なオープニングではないか。

 ここで桑田はテクノ・ポップとラテン歌謡の要素をさりげなくまぶし遊び放題遊んでさえいる。プリンス『Kiss』のギター・フレーズまで飛び出す始末。


 「ワイルドで行こう!!」とでも呼ぶべきこの曲におけるサザンオールスターズのドゥ・ワップとラップをもじったかのようなコーラスは実に素晴らしい。

 EDMサウンドに引導を突きつけるこの曲は、実はサザン版『上を向いて歩こう』『見上げてごらん夜の星を』(坂本九)でもある。

 仮想空間と現実が逆転したネット社会・SNSの世界を一喝するかのような♪「この世の中で 生きる限り/ひとりひとりは みんな違っていいよ」の歌詞は素晴らしい。

 『アナログ人生』(『バラ色の人生』の仮タイトル)ではなく、『アロエ』をド頭にもってくる決断を下したことで、サザンオールスターズもまた勝負に出る!決意を成立させた。

実に黒っぽくも痛快なオープニング・ナンバーだ。
まさに『葡萄』がサザン初の全編R&B(リズム&ブルース)アルバムたるゆえんである。

 ライヴステージに登場するこの曲のダンサーズ「アロエマン」は、まさに三代目 J SOUL BROTHERS狙い。


 そして、WOWOWのテーマソングとなった『アロエ』に次ぐ、開局25周年のテーマソングがソロ名義で発表する『ヨシ子さん』とは、おそれ入谷の鬼子母神だ!









②青春番外地

 一曲目のハイパー・ディスコ・ビートから一転して、ブルージィな歌謡曲&ブルースへ転回する見事な構成。

 桑田佳祐が高倉健に追悼を捧げ、ツービートでポール・マッカートニーやメリー・ホプキンを意識した、というこの曲は、安保闘争前後の時代の雰囲気を醸し出しながらも、なんとも異国情緒漂う摩訶不思議な“スゲェ面白れぇ曲”。


 異国情緒漂う秘密は、この曲のイントロ、メロディラインが、赤ワイン「サントリー・レッド」市川崑と大原麗子のCM曲(デューク・エイセス作曲?)が桑田の残像にあったからだろう。

 音楽ファンから言えば、まさにボブ・ディランの名盤『ブロンド・オン・ブロンド』二曲目の『プレッジング・マイ・タイム』のようなブルーズだ!



 自分より上の世代のバンカラな青春期の色恋を遊び心たっぷりで歌う桑田の<言葉遊び>が全編にわたって炸裂している、この楽しさはまさに<音楽的自由の冒険>。実にレイド・バックした傑作だ。

 この曲と桑田の生命力みなぎるヴォーカルには驚嘆するばかりだ。




「色っぽくて/気も強えし/啖呵切りは/ハンパねぇし/こんな坊っちゃんで良ければ/遊ばないかな?」

「ディスコティーク/泡姫/葉っぱスイスイ/川下る/トンだギッチョンと/仲間に呼ばれた俺」yeah!






 悔しかったら、こんな歌詞書いて、こんな歌いかたで歌ってみろ!、と言わんばかりの、桑田佳祐のヴォーカリストとしての天才性は健在!
驚くべきことに、歌詞によって桑田はすべて歌い方を変えている!


 そして、この曲のイントロは衝撃的だ。

 アル・クーパーのハモンド・オルガン、マイク・ブルームフィールドのブルース・ギターと見紛うかのような絶妙なサウンド。ヒロシのツービートのドラムに被さるように、原坊が考案したとされるピアノ(キーボード)、ムクちゃん(原曲ではクワタ)のベースと誠っちゃんの必殺のサイドギターは、さながら私にはボブ・ディランの『やせっぽちのバラッド』や『プレッジング・マイ・タイム』を連想させる最高にいかした曲。




 さらに、桑田は、ボブ・ディラン、ポール・マッカートニーに加え、自身が『ひとり紅白歌合戦』でカヴァーした中島みゆきの『わかれうた』からもインスビレーションを得たように思うと語っているが、なるほど『わかれうた』ほか『あばよ』『かもめはかもめ』『しあわせ芝居』っぽくもある。

余談だが、『東京VICTORY 』は中島みゆき『時代』のアンサーソングの側面もあるのだろう。


 桑田は2015年9月25日にデビュー40周年を迎えた中島みゆきのストイックな音楽性を敬愛している。人間的<自由>の歌姫・中島みゆきに、桑田は心から共鳴しているのだと思う。

 かくして、『東京VICTORY 』とともに中島みゆきへの敬慕が詞と曲、歌唱から溢れる!


 これがBluesだ!








③はっぴいえんど

 ビート・ロック、ラテン・ブルースと来て、三曲目はサザンのアルバム三曲目恒例(お家芸)のバラッド。ダブル・テンポのボサノヴァだ。


 エルトン・ジョンの『ユア・ソング』や『キャンドル・イン・ザ・ウィンド』、さらにビリー・ジョエルの『素顔のままで(ジャスト・ザ・ウェイ・ユー・アー)』や『マイ・ライフ』を想起させられる。加山雄三テイストも見え隠れする逸品。


 桑田のヴォーカルには優しさが滲む。

決してひとりで生きて来れた訳じゃない/歌うことしかない/人生だけど/イカす仲間が奏でるはLove Song(「愛の歌」)


 桑田はこの歌の登場人物に我が身を重ね、原由子やバンドメンバー、そして出逢ったすべての人びとに感謝を捧げている。まさにこの曲は桑田の『素顔のままで』なのだ。



 一番では術後復帰を、さらに二番ではサザンが復活した日を歌っているかのようだ。
♪「夢と希望を五線譜に書き込んだら/新しいふたりの出発(たびだち)の日に/燃える太陽がロックンロールを踊っている

という歌詞は素晴らしい。
 楽曲そのものに明確な接点はないが、はっぴいえんどの大瀧詠一の意志を桑田が受け継ごうとしているかのような決意成立の場面が描かれている。



 優しくもなんと魂のこもった歌唱なのだろう。






④Missing Persons

 アルバムの構成はさらに転回する。桑田曰く、クリーム、フリー、ディープ・パープル、さらにはジミ・ヘンドリックス『ヘイ・ジョー』も意識した、とするダイナミックなハード・ロック・ナンバー。
 斎藤誠のダブル・ギター・プレイがうねる。

 個人的には、伝説のロックトリオ、クリームの『ホワイト・ルーム』や『サンシャイン・オブ・ユア・ラブ』、ザ・ローリング・ストーンズの『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』、ジミヘンがカヴァーしたディランの『見張り塔からずっと(オール・アロング・ザ・ウォッチ・タワー)』を想起する。



 ミサ曲のようなイントロから始まるこの曲は、やはり私にはハードなリズム&ブルーズであり、70年代ブルース・ロックなのだ。いい曲に新しいも旧いもない。

 そして、歌詞は「北朝鮮による日本人拉致問題」第二弾。サザン・桑田にとって2005年当時発表した『キラーストリート』収録の『Mr.ブラック・ジャック ~裸の王様~』以来だ。

 個人的には、「北朝鮮の脅威」を口実とした新日米安保同盟の強化を不問に付してスローガン的に、ナショナルに「拉致弾劾!」とは思わない。


 とはいえ、桑田佳祐は歌詞が曖昧に聞こえるハード・ロックの曲調に被せ、「日本人拉致問題」を風化させまいと歌う。


♪「どこかで同じ星を/きっと君も見ている」

の歌詞に明らかなように、桑田の怒りと哀しみは堰を切ったように溢れ出す。<3・11>以後の今を生きる我=吾に対して、人間的な叫びをあげ希望を歌うのだ。

 たとえ、この曲で桑田と私の価値意識は真逆なのだとしても、クリームに託した桑田の人間的な叫びを、音楽家としての決意成立を私は受けとめたい。







⑤ピースとハイライト


 立て続けにメッセージソングが連打されるこの迫力。だが、<サザン復活の狼煙>と言うべきサザン活動再開後の第一弾シングル・カットされたこの曲は、優れてゴージャスだ。

 ここで『葡萄』は、一気に世界を拡げる。

 シングル・カットされた曲はすべて、サウンドとボーカルのバランスを変えたことで、大袈裟なブラスが調整されヴォーカルが強調されたことでしっくりと聴かすようになった。それがこのアルバムが成功した要因の一つでもある、と断言したい。




せつない波音の響きかと思いきや、一気に、ドライヴ感あふれるイントロから始まるワクワクするような曲。サザン・サウンドの幕開けだ。

前半は明らかにフィル・スペクターがプロデュースしたザ・ロケッツの『ビー・マイ・ベイビー』。気迫にみなぎったサビが素晴らしく、一転して黒っぽいモータウン・サウンドが爆発するあたりが実に心地好い。ザ・ビーチボーイズや山下達郎風と言うべき90年代以降のサザンお得意のコーラスもサウンドに艶をもたらしている。

桑田佳祐曰く、ザ・ビーチボーイズのサイケデリックな名盤『ペット・サウンズ』のイメージが広がっていったというのも納得。

同時に、久々にストレートなザ・ビートルズを彷彿とさせる遊びがなされていて、終盤は『愛こそはすべて』や『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』のトーンとなる。



いつか来た道を二度と繰り返してはいけない-このことが桑田の言いたいすべてなのだ。


サザンオールスターズの演奏、桑田佳祐のヴォーカルが実にパワフルにうねりをあげる、新たな名曲の誕生!


そして、『ピースとハイライト』は本質的に、希望の〈ラブソング〉だ!








⑥イヤな事だらけの世の中で


『ピースとハイライト』のゴージャスなサウンドに負けないこの曲で、『葡萄』は圧倒的な深みを増す。

 サウンド・メロディ・ハーモニィの三拍子が揃った歌謡ブルースの名曲中の名曲。

 桑田曰く、1980年代のポリスやアート・オブ・ノイズを彷彿とさせるサウンドに和風だしを効かせたことで摩訶不思議なナンバーとなった、という。


 この曲は、全く力みなく、切なさや無常観が滲む。京都の四季折々を背景に近松門左衛門の世話物のような世界観を描き出した。だが、身を切るような哀しみの果てに聴き手の心の傷を癒すかのようなやさしさに溢れている。


 「イヤな事だらけの世の中で」と呟くうちは、まだ救いがあるような気がする、と桑田は語る。

 「夕焼け」「小雪」「風」が切なくも、何処か希望を抱かせるのだ。


 私はエリック・クラプトンの和風レゲエ・ブルースおよび石川さゆり『天城越え』、テレサ・テン『つぐない』(償還)が結びついた歌謡曲調のリズム&ブルースだと感じている。

 改めて言おう、こういう曲が書けるのは、桑田佳祐と故・柳ジョージの二人の日本のブルース・メンをおいていない、と。


 そして、聴きようによってはこの曲、ネヴィル・ブラザーズの『イエロー・ムーン』の世界観を醸し出している。
 2016年に桑田が発表した『ヨシ子さん』は驚くべきことに、ネヴィルズ『マイ・ブラッド』の世界観を今の日本に蘇らせた。







⑦天井桟敷の怪人

 別離と旅立ちのリズム&ブルースに続くは、なんとタンゴのリズムを基調にチャチャチャがまぶされたラテン・サウンドだ。

 ラジオ放送での試聴時に桑田がこの曲を生歌で披露したが、怪物ぶりが丸出しのド迫力なヴォーカルで、来たるツアーになんとも期待がもてるものだった。

 桑田曰く、キューバン・ラテン・バンド「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」っぽい雰囲気にしたかった、とか。

 出来上がった曲は、<酔いどれ詩人>トム・ウェイツの『トム・トラバーツ・ブルース』をも彷彿とさせる、最高に面白い曲となった。

 歌詞は寺山修司や唐十郎らをモデルとした架空の怪物的劇団座長というところ。

 桑田の言葉遊びが全開で、
♪「マジでチョットだけ/ムカついたオンナには」

♪「熟れたボディの/成り上がり女優には」

のあたりの歌詞とボーカルは抱腹絶倒の傑作。

 しまいには「チョットだけよ」なるドリフのコントすら飛び出す始末(笑)(加藤茶のストリップ小屋ネタ。『タブー』使用)。ラテンの源流の一つは、バンドとしてのザ・ドリフターズにあり、と確信する桑田の洒落っ気が全開だ。


 『暴動』のスライ&ザ・ファミリー・ストーンもびっくりの、和製ファンクに化けた曲とでも言っておきたい。


 一流のラテン・バンドたる顔もあわせもつサザンオールスターズの面目躍如!








⑧彼氏になりたくて

 すでに、一般的な女性サザン・ファンには、抜群に人気が高い曲となっている。最もサザンらしいミディアム・スロー・バラッド。

 この叶わぬ恋の唄は実はサザンの新境地であり、モータウン系ソウル・ミュージックやフィラデルフィアソウル(フィリー・ソウル)を感じさせる。


 マーヴィン・ゲイやカーティス・メイフィールドのように桑田はこの曲で決してしゃくりあげない。山下達郎の楽曲のように、バンドのコーラス、一人二重唱は水晶のように美しく気怠い。

桑田もまた、久しくこうしたシンプルなラブソングを書いていなかったので、新鮮な気持ちで歌うことが出来た、と言っている。


これがソウル・ミュージックだ。
アナログ盤のA面B面のラストを飾る。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━





③につづく。











.