『WOWOW presents
サザンオールスターズ LIVE TOUR 2015
「おいしい葡萄の旅」』
2015年4月11日~8月18日
全国11ヶ所23公演
50万人動員
1️⃣
【Set list】
02.ミス・ブランニュー・デイ(MISS BRAND-NEW DAY)
03.ロックンロール・スーパーマン~Rock'n Roll Superman~
MC
04.青春番外地
05.イヤな事だらけの世の中で
06.バラ色の人生
07.Missing Persons
08.平和の鐘が鳴る
09.彼氏になりたくて
10.はっぴいえんど
11.黄昏のビギン(水原弘、ちあきあおみ)~天井桟敷の怪人
12.ワイングラスに消えた恋(リードヴォーカル:原由子)
MC
01.Tarako
⇒サザンのライヴで過去3回しか披露されなかった全編英語詞の“伝家の宝刀”で幕開け。
イントロが演奏された瞬間に、“サザン狂”の間でどよめきがおこったほど、ストイックかつスピリチュアルな、最高のオープニングとなった。
マイナーのビート・ロックをライヴのど頭にもってくる挑戦的なスピリッツは、まさにサザンオールスターズのロック・コンサートならでは。
84年10月に発表された21stシングル。9月にロサンゼルスでレコーディングが行われた直後に発売に至った。時はアメリカのヒットチャートを紹介するミュージック・ビデオ番組『MTV』日本版が全盛期。この只中で、ホール&オーツやポリスのスティング、ジェネシスのフィル・コリンズの線を狙った曲。
7月に7thアルバム『人気者で行こう』を発表したサザンは、最高傑作と評された前作『綺麗』の日本版ワールド・ミュージックから訣別し、本作でより濃密でゴツイサウンドを求め・最新鋭のデジタルサウンドと格闘し、コンピュータと生楽器を融合した究極の<和洋折衷>作を完成させた。
インディーズでもニューミュージックでもなく、まさに「産業ロック」のど真ん中で頂点を極めようとする宣言、<やっぱり俺らは『人気者で行こう』!>という訳なのだ。
この『Tarako』(たらこ)が、アルバムでは『人気者で行こう』と二枚組超大作『KAMAKURA』の間、シングルでは『ミス・ブランニュー・デイ』と『Bye Bye My Love(U are the one)』『メロディ(Melody)』の間にリリースされたのも、むべなるかな。
♪レインズ・フォーリン・ナゲイン/ヒア・カムズァ・ティァー/フォー・マイ・ディスタント・ラーヴァー
雨(レイン)をテーマとした失恋歌(トーチ・ソング)で、イントロからまさに雨が滴り落ちるかのようなストイックなロックチューンだ。雨と言えば、ブルースとロックとソウル・ミュージック。私はブルージィでブラックなこの曲や『おいしいね~傑作物語』、『EMANON』『朝方ムーンライト』が大好きだ。
この曲を桑田が冒頭にもってきたのは、ONE OK ROCKやロキノン系バンドを意識したから。彼らに対するサザンの回答である。俺たちはすでに30年前に全編英語詞のロックに挑戦していた、と。同時に、サザンのライプに試しにやって来た若いロックファンを意識している。今のロック(洋食)にはサウンド・メロディ・ハーモニィと“和風だし”が足りない、と。
年越しライブ2014に続いてロック・スピリットが炸裂する序盤となった。サザンは『葡萄』発表とともに完全によみがえった!
余談だが、オープニングに桑田は『YOU 』をダブルスタンバイしていたらしい。だが、『YOU 』ド頭なら、ツアーの印象はまるで変わっていただろう。
タラコがありなら、次回のオープニングは、『EMANON』なんて、どうだろうか?(笑)。シビれるぞ。
▼2023茅ヶ崎ライブ(たぶん)披露候補曲
02.ミス・ブランニュー・デイ(MISS BRAND-NEW DAY)
⇒続いて、サザン初期最高傑作、果敢なデジタル・ビート・ロック、<ミス・ブラ>でたたみかける!
この曲はまったく色あせない。一生ライブで歌い続けてほしい、和製ロック&テクノ・ビート・ポップの国宝級の名曲。
「夢に見る姿の良さと美形の Blue Jean」
「体と欲でエリ好みのラプソディー」
から始まり
「終わらない彼と寝てる Night Time」
「濡れたムードを買い占めて」
「割りとよくあるタイプの君よ」
「慣れない場所で背伸び All Night」
「粋な努力をただで売る」
「街でよく見るタイプの君よ」
こんな歌詞を書けるミュージシャンはもう二度と現れないのだろう。
03.ロックンロール・スーパーマン~Rock'n Roll Superman~
⇒今までで一番、この曲がカッコイイと思った。サザン恒例、MCに入って一息つく前の序盤3曲目にチョイス。
ポップ感覚に溢れたグラム・ロック・ナンバー。曲のテーマは、桑田が高校時代を振り返りつつ現在の“僕”に葉っぱをかける桑田版『くよくよするなよ』(ボブ・ディラン)。
今回のこの3曲目は、バンドにちょうど一体感があらわれ、実にグルーヴィなのだ。
『葡萄』で完成された、フィクションの形式をとった桑田の“自分語り”が、会場を切り裂くかのように響き渡る。
リスナーも一勢に腕を左右に振って、会場全体が一体となる。
なんと力強いステージ・プレイなのだろう。今回の<ロックンロール・スーパーマン>は300点。屈指の出来となった。
04.青春番外地
⇒MC後のここから『葡萄』収録曲が連打される。
まずは、ツービート。
バンカラでアンティークな昭和歌謡とだけ思われがちなこの曲だが、たしかに市川崑×大原麗子がタッグを組んだ赤ワイン「サントリー・レッド」に挿入されるデューク・エイシスのCMソングっぽくはある。
だが、この曲のイントロは衝撃的だ。
アル・クーパーのハモンド・オルガン、マイク・ブルームフィールドのブルース・ギターと見紛うかのような絶妙なサウンド。ヒロシのツービートのドラムに被さるように、原坊が考案したとされるピアノ(キーボード)、ムクちゃん(原曲ではクワタ)のベースと誠っちゃんの必殺のサイドギターは、さながら私にはボブ・ディランの『やせっぽっちのバラッド』や『プレッジング・マイ・タイム』を連想させる最高にいかした曲。
桑田は、ポール・マッカートニーに加え、自身が『ひとり紅白歌合戦』でカヴァーした中島みゆきの『わかれうた』からもインスビレーションを得たように思うと語っているが、なるほど『わかれうた』ほか『あばよ』『かもめはかもめ』『しあわせ芝居』っぽくもある。
余談だが、『東京VICTORY 』は中島みゆき『時代』のアンサーソングの側面もあるのだろう。
桑田は2015年9月25日にデビュー40周年を迎えた中島みゆきのストイックな音楽性を敬愛している。人間的<自由>の歌姫・中島みゆきに、桑田は心から共鳴しているのだと思う。
(さらに、中島みゆきオマージュもの第二弾として、桑田ソロ名義『大河の一滴』がこの曲から発酵していった。)
バンカラで言葉遊びも巧みなこの曲『青春番外地』は、ライブで聴いても、やっぱり“すんげぇオモシれぇ”!
05.イヤな事だらけの世の中で
⇒いったん照明が落ち絶妙な間が入ると同時に世にも美しいメロディがこだまする。16ビートが刻まれるほのかなレゲエ風味がこの曲の隠し味。故・柳ジョージと相互浸透するような歌謡ブルース+テレサ・テン『つぐない』や石川さゆり『天城ごえ』の歌謡曲(演歌)の世界。
『ゴースト・オブ・トム・ジョード』でブルース・スプリングスティーンがアメリカの陰をよりシンプルに歌ったように、桑田佳祐もまた歌謡曲にルーツをもつ日本的叙情の世界をしっとりと歌いこんだ。
哀しみの果てに情念が宿り、無常観の後に温もりが滲む古都の曲。
バンドの一体感、そして桑田のサビの低音シャウトが会場を震わせる。
聴きようによってはこの曲、ネヴィル・ブラザーズの『イエロー・ムーン』の世界と言えなくもない。
そして、2016年に桑田は、驚くべきことにここ日本の地において、ネヴィル・ブラザーズ『マイ・ブラッド』を蘇らせたかのような、『ヨシ子さん』を発表した。
06.バラ色の人生
⇒一転して、トラヴェリング・ウィルベリーズ『ハンドル・ウィズ・ケア』やポール・サイモン『グレイスランド』の世界。
予想どおり、この曲、軽快なカントリー・タッチから、サビでメロディアスに爆発し、会場を熱狂の嵐にたたきこんだ。
SNSの架空の広場に対してアナログな人間的自由を対置する桑田だが、さながらコンピュータ・マニュピュレーションの最前線で格闘しつつ生楽器に拘ってきた彼の音楽人生を象徴しているかのようだ。まさにこの曲の本質的なテーマは、実存的自由の冒険なのである。手拍子から、サビの最後のフレーズで思わず桑田を指差してしまうのは私だけではないはず。
この曲は二年後、桑田佳祐名義で放った『ヨシ子さん』へと転回した!
07.Missing Persons
⇒メッセージ性の強い歌を連発。
しかし、この曲、会場で聴くとクリームばりのサウンドがぐいぐいと引っ張ってゆく。
会場のムードを力づくで一変させる。
桑田の怒りと哀しみは叫びとなって堰を切ったように溢れだす。
この曲は“意志”の歌だ。
08.平和の鐘が鳴る
⇒コントラストを際だたせる実にサザンらしい曲順。
ハチロクのスローなロッカ・バラッド。コンサート序盤の白眉となった。
戦中の暗黒の時代を経て、戦後、美空ひばり『悲しき口笛』とともに起ち上がった、「♪悲しみの青空」に笑顔忘れず夢抱き・精一杯生きた先達たち。
<3・11>からちょうど半年後の9月10日-11日に宮城ライブ(術後リベンジ・コンサート)を開催した桑田佳祐。
かつてそして今も、連綿と受け継がれゆく
「再び歩き始めた日本(くに)」。
♪
ここにいるのは
私独りじゃない
過去と未来が
繋いだこの命
♪
映像を背景に「平和の鐘」を鳴らすサザンオールスターズ。桑田佳祐は空を仰いで、無性に夢と希望を歌う。
この国の過去・現在・未来が一曲の中にすべて盛り込まれた、命の尊さをかみしめる“伝承”と誓いの調べに乗せて……。
09.彼氏になりたくて
⇒一転ラヴソング。だが、ミディアム・テンポのフィリー・ソウルへ。
山下達郎、カーティス・メイフィールドやマーヴィン・ゲイ風味のメロウな響き。
この曲で桑田は決してしゃくりあげないし、力まない。しかし、心に刻まれる強さ。これがソウルミュージックだ。
そして、洋楽のオマージュとハワイアンが融合した力作『愛のプレリュード』を、2016年に桑田は完成させた。
10.はっぴいえんど
⇒続けざまにメロウでハートフルなスロー・バラードが連発される。
『素顔のままで』桑田佳祐が綴る感謝を捧げる歌。そしてこの曲もラヴソングだ。
ムク・ヒロシ・毛ガニ・原坊・桑田、そして青学の後輩シンガーソングライター誠と金原ストリングスら「イカす仲間」サザン楽団の呼吸がぴったりに。
「おいしい葡萄の旅」の終わりがハッピーエンドなら/いいのに。
この曲はサザン完全復活の狼煙(のろし)となった。
胸に熱いものがこみあげる。
11.黄昏のビギン(水原弘、ちあきあおみ)
~天井桟敷の怪人
⇒ここでワンクッション、ちあきなおみのカヴァーをはさむ。誰よりも、ちあきのステージをみたいと思っている桑田は、最高傑作と称されるちあきの世界観を完ぺきに再現する。微妙な感情表現は見事。
ド頭『Tarako』も雨なら、『黄昏のビギン』も雨。そして、サザン(の野外ライヴ)も「思い出はいつの日も雨」なのだ。
一番の歌唱が終わると同時に、ラテン&タンゴの世界が会場に広がる。『天井桟敷の怪人』だ。
桑田がスライやトム・ウェイツばりの怪物的歌唱を披露。ああ、このステージの風景は、桑田の『声に出して歌いたい日本文学』ライブver.の再現であり、ミュージカルを見せたかったのだろう。
これは天井桟敷“組曲”としてアレンジされたのだ。
そう思いつつ観ていると、だんだんラテン・バンドとしての顔ももつサザンオールスターズ一座こそが、『天井桟敷の怪人』に思えてくる。
そして、この曲が、次の曲への呼び水となる。
12.ワイングラスに消えた恋
ここで「マダムゆうこりん」こと原由子かハンドマイクでダンサーをしたがえて、ステージ中央へ。間奏ではダンスを披露する。
アリーナ・スタンドも総立ちに!
陰と艶のある歌を歌わせたら「マダムゆうこりん」の右に出る者はいない。
『横浜Lady Blues』とは、原由子のことである。
②へつづく。
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