⑥⑦のつづき。
最終章。




2014年年越しライヴ『ひつじだよ!全員集合!』と『第65回NHK紅白歌合戦』に生中継でサザンオールスターズが出演したインパクトは絶大だった。2014年末の“今”を歌い抜いたサザンに圧倒的な共感の声がわき起こった。こうして、大晦日に発表した、3・31サザンニューアルバム発売とそれに続く全国ツアー開催のアドバルーンは全社会的に浸透していったと言える。

この只中で、1月15日に「年越しライブに関するお詫び」が発表されるとともに、1月17日放送のTOKYO FM『桑田佳祐のやさしい夜遊び』で、桑田佳祐が件の声明について補足的にコメントしたのだった。


紫綬褒章の取り扱いについてファンに釈明すると共に、今後も「日本を愛する者」として「平和を願う」「メッセージ」も「発信して」ゆく意志を鮮明にしたのだった。そして、「反日!」などとうそぶくデマゴギッシュな政治利用に対しては、これを真っ向から否定すると共に「大衆芸能に携わる者として腹は括っている!」といっさい与しない毅然とした姿勢を示した。

この桑田の真摯な態度に、一時ネットゴロの主張にのっかっていた右派系タレントらも潮が引くように悪宣伝を引っ込めた。今、歌いたい歌を歌う、と主張した桑田の覚悟に一言も反論できず、むしろ反動性の化けの皮が剥がされ・姑息にも尻尾を巻いて逃亡したのだった。

しかも、その後、サザンのニューアルバム『葡萄』の全貌が明らかになるにつれ、ごく一部の政治的非難を一網打尽にする称賛の声がまず音楽界から湧き上がった。


1月18日にはアルバムに収録される『イヤな事だらけの世の中で』をテーマソングとする、日曜劇場『流星ワゴン』が放送を開始。直後に、この曲とアルバムオープニングナンバー『アロエ』がオンエア。まったくカラーの異なる作品に、世論は驚きを禁じ得なかった。


ついで2月17日、満を持してアルバム・タイトルと収録曲が発表された。



『葡萄』(ぶどう)




である。





サザンオールスターズ
『葡萄』


1.アロエ
(WOWOW 2015 CMソング)


2.青春番外地


3.はっぴいえんど
(JTB CMソング)


4.Missing Persons


5.ピースとハイライト
(フォルクスワーゲン「New Golf」CMソング)


6.イヤな事だらけの世の中で
(TBS日曜劇場「流星ワゴン」主題歌)


7.天井桟敷の怪人


8.彼氏になりたくて




9.東京VICTORY
(三井住友銀行 CMソング / TBS系列「2014 アジア世界大会&世界バレー」テーマ曲)


10.ワイングラスに消えた恋


11.栄光の男
(三井住友銀行 CMソング)


12.平和の鐘が鳴る
(NHK 放送90年 イメージソング)


13.天国オン・ザ・ビーチ


14.道


15.バラ色の人生


16.蛍
(映画「永遠の0」主題歌)






「今回のアルバムは、デビューから37年間の様々な活動、経験を通し学び得たものに加え、音楽人として出し得る限りのエネルギーを注いで制作を進めて来ました。今日も世界中のいろいろな場所で争い事が絶えませんし、その他にも現代社会はさまざまな問題を抱えています。
そんな今だからこそ、皆さんと共に、明るく楽しく、その力を信じて、私は音楽を続けていきたいと思っております。


アルバムタイトルは『葡萄』としました。
「葡萄」の花言葉のひとつに「陶酔」があるそうです。今回は、音楽性は元より、ある種の「読物」としての在り方に拘り、ひとつひとつの楽曲を仕上げましたが、そんな16もの曲が、たわわな実となり、ワインのような豊かな陶酔を味わっていただける作品が出来上がると思います。
完成まで、もう少しだけお待ちください!
そして、4月からの全国ツアーでお逢い出来ることを心より楽しみにしております。


桑田佳祐(サザンオールスターズ)」

との公式発表も話題を呼んだ。



しかも、来たる3月15日(日)に、『葡萄』プレミア視聴会が開催されることが発表された。全国47都道府県の映画館限定で、この視聴会に抽選で無料招待されるというのだ。こうして、サザンオールスターズ『葡萄』フィーバーが醸成されるのと機を一にして、2月17日、Amazon予約ランキングでは『葡萄』がいきなり1位。
「iTunes Store」でも、『葡萄』の予約が開始され、これも1位を獲得する事態が現出した。

3月1日に、WOWOWで放送された「サザンオールスターズ『葡萄』スペシャル~プロローグ~」での『アロエ』ミュージック・ビデオ解禁が話題性に拍車をかけた。




加えて、2月28日『ROCKIN'ON JAPAN』4月号でサザンオールスターズ表紙巻頭特集が掲載。
渋谷陽一の桑田佳祐インタビューが大いに話題を呼んだ。

続く3月20日には『SWITCH』が「VOL.33 NO.4」で、「Southern All Stars 我が名はサザン」のタイトルで表紙巻頭特集を掲載。
今回の『葡萄』に込めたバンドの絆と覚悟が浮きぼりとなる内容だった。これら両誌は瞬く間に書棚から消えた。



この只中、3月11日「iTunes Store」で『イヤな事だらけの世の中で』と『アロエ』が配信スタートと同時に1位2位を独占。13日にサザンは、テレ朝系『MUSIC STATION』に生出演し右の2曲を緩急抜群に披露。15日に『葡萄』プレミア視聴会が開催されると絶賛の声が高まった。翌16日朝の『めざましテレビ』で軽部アナの視聴会取材の模様がオンエアされると、『葡萄』を待望する声が全社会的に拡がっていったのである。

同時に、『葡萄』リリースを盛り上げる一助として、「Yahoo!検索」と特定アーティストとの史上初の期間限定コラボレーション企画、『Yahoo!検索×サザンオールスターズ<特別企画>』も、15日より開始された。




こうして、関係者・マスコミのみならず、コアなファンの間にも、『葡萄』収録全16曲が発売前に周知徹底されていった。

サザンオールスターズ LIVE TOUR 2015『おいしい葡萄の旅』のチケットも、注目される地域の公演については入手がかなり難しい事態が生み出された。アルバム発売とツアーへの注目は、案の定、2013年のサザン復活野外ライブツアーや桑田佳祐緊急生歌ライブ、そして2014年のサザン年越しライブを凌駕したのだった。



なにゆえ、こうした事態がもたらされたのか?



たしかに、サザンオールスターズが37年にわたって、日本のポップシーンを切り拓いてきたがゆえに、新作アルバム『葡萄』をめぐる論争は宿命的に過熱を極めた。


その場合に、時代的背景やその時々のサザンの葛藤に迫る弱さゆえ、過去の作品と単純に比較解釈する存在論主義的な傾向、さらには今、チャートを賑わせている楽曲と平板な比較解釈をする傾向もまた発生することは、不世出のモンスターバンドたるサザンオールスターズにとって、かえって必然ですらあった。


しかし、視聴会で老若男女が思い思いに涙ぐんだ、世代をこえたこの事実。


すなわち、サザンオールスターズは『葡萄』で、<3・11>以後の今を生きる人、今奏でるべき音楽を一枚のスタジオ・アルバムに凝縮したのである。


それは歌謡曲であり、ロックであり、ポップスであり、ブルースであり……否、音楽ジャンルをこえて永遠に人の心に残る音楽として昇華したのだ。

愚かにもひたむきに生きる我とわれにこだわった『葡萄』は、まさにサザンオールスターズと桑田佳祐が過去のどの作品ともまったく異なる、今を生きるヨイトマケの詩(うた)として編んだ喜怒哀楽のブルースなのだからである。まさに『愛と哀しみのボレロ』。これこそが、この『葡萄』の全てなのである。
サザン37年間の音楽的追求は、ついに<和洋と生死の自己矛盾的自己同一>として、革命的に止揚された!


このゆえにわれわれはサザン『葡萄』を愛しむ。したがって、このアルバム『葡萄』を引っさげたツアーチケットに注目が集まるのは故なき事ではないのである。




「ただ、それでもおかしいことはおかしいと思うものだし、たまたまそれがきっかけで音楽が生まれたのなら、それを歌えない空気も、そこで歌えない自分も僕は嫌なんです。『Missing Persons』みたいな歌がいまの日本にあって当たり前だと思うし、自分がこれまで書いてきた中でも屈指の曲になったと思っています」


((桑田佳祐談、『SWITCH』VOL.33 NO.4 Southern All Stars 「我が名はサザン」
026頁)






「“歌うたい”という言葉には自分なりのアイデンティティとロマンチシズムと、どこか自虐的な意味合いを込めているような気がします。ステージで歌って暴れる僕。スケベなことを言って喜んでいる僕。大仕掛けのライブの中で、最後は演出家になりきれなくてスタッフに助けてもらって、自分は結局ただの歌うたいでいたいのだと思い知らされる僕……そんないろんな僕が含まれているんだと思います」

(同上 027頁)






こうして、『葡萄』発売一週間前には驚くべき事態が生み出された。各種CDオンラインサイトで『葡萄』の完全生産限定盤が完売し始めるという事態が生起した。その頃、(3月22日現在)レコチョク着うたランキングでは、着うたフル(R)配信が開始されたばかりの『イヤな事だらけの世の中で』が連日デイリー1位に輝いたのである。


発売まで一週間を前に、3月22日、『イヤな事だらけの世の中で』をテーマ曲とした日曜劇場『流星ワゴン』も、主人公が再起を賭ける物語として、感動の最終回を迎えた。



かてて加えて、アルバム発売直前の3月25日、『葡萄』収録曲『はっぴいえんど』が、JTBの夏旅『旅を楽しむ大人の家族』篇のテレビCMに起用され、武井咲(たけいえみ)が華やぐ映像と共に解禁された。
こうして、サザン LIVE TOUR 2015 『おいしい葡萄の旅』とJTBがコラボレーションし、チケット付きの宿泊プランの販売も決定。サザン10年ぶりのツアー開幕に向けた気運が一気に高まっていった。



28日のTOKYO-FM『桑田佳祐のやさしい夜遊び』ではメイン・パーソナリティの桑田佳祐を始め『葡萄』制作ミュージシャンである中山佳敬(エンジニア)、大場清史(ディレクター)、曽我淳一(鍵盤&マニピュレーター)のトップ3が生出演し、発売直前の『葡萄』を熱く語った。さらに翌29日には、WOWOWでサザン『葡萄』と『おいしい葡萄の旅』ツアー特集も放送された!


さらに、4月3日、『MUSIC STATION』スペシャルにサザンは生出演し、『アロエ』『はっぴいえんど』『東京VICTORY 』の3曲を披露)した。翌日4月4日放送の『桑田佳祐のやさしい夜遊び』は2時間にもわたる生放送で、『葡萄』特集がオンエアされた。



「桑田佳祐のめでたい夜遊び

~サザン Newアルバム『葡萄』リリース!!&夜遊び20周年記念!!

『葡萄』 100%スペシャル~」

2時間生放送)である。


この渦中で、サザンオールスターズのツアー・リハーサルはいよいよ佳境を迎えた。



喜怒哀楽に溢れ血が通った2015年の<愛のうた>-これが日本音楽界へのサザンオールスターズの回答、『葡萄』のすべてだ!




われわれ聴衆(オーディエンス)は、37年ものキャリアの一切を賭け新たな挑戦を開始するサザンオールスターズのステージを、今まさに、心から待っている!










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