⑤のつづき。
55thシングル 『東京VICTORY』で４作連続通算16作目の１位を獲得した一か月後の10月18日に、サザンオールスターズはデビュー36周年記念日に予告したとおり、年末の年越しライブの概要を発表した。
12月27日・28日・30日・31日の４日間、神奈川県・横浜アリーナにて開催されるこのコンサートのタイトルは、『サザンオールスターズ年越しライブ2014「ひつじだよ！全員集合！」』に決定した。
さらに、12月４日には、全国39都道府県91の映画館でライブビューイングを行うと発表。
こうして、「進撃のサザン！2014」のフィナーレを飾る一大メインイベントに向けて、事態は急展開していった。
その最中、11月２日、桑田佳祐が学問・研究や芸術・芸能などの分野で功績を残した人物に贈られる紫綬褒章を受章（11月３日発令）したニュースが、全国を駆けめぐった。
桑田はコメントで「たくさんのファンの方々と、大衆芸能を導いてこられた幾多の偉大な先輩たちのおかげ」と感謝の意を表明した。そして、ますます旺盛に音楽活動を進める意欲をもって、「これからも皆さまに喜んでいただける音楽を作り続けていけるよう、日々励んでいく所存です。日本が、そして世界が平和でありますように」、と結んだのであった。
このことはサザンオールスターズとそのリーダーである桑田佳祐が、音楽の分野にとどまらず、36年間にわたり日本の文化の一端を牽引してきたことを意味する事態であった。
それから二週間後の11月20日、『東京VICTORY』が『第56回 輝く！日本レコード大賞』の優秀賞にノミネートされたことが発表された。同時に、竹内まりやが今年度最大のロングセラー『TRAD』で、最優秀アルバム賞を受賞したことが発表された。竹内まりやは12月30日のレコ大授賞式には欠席したものの、当日電話でインタビューに答えた。さらに、最新ライヴ映像からアルバム収録曲の『静かな伝説（レジェンド）』が放送された。
つづく12月17日０時をもって、アップルが全世界１１１の国と地域で運営する音楽配信サービス「iTunes Store」にて、サザンオールスターズが37年にわたり発表してきた主要２６６曲の有料配信サービス（1曲250円）を提供する旨が電撃的に解禁されたのだ。
実際、解禁日当日､『東京VICTORY』やサザンのアルバムがチャートの過半数を征す、強大なインパクトをもたらした。
＜内在即超越＞－サザンは音楽流通形態の転換を無視してCDの売上げを守ろうと自己保身をはかることはせず、各種の音楽配信サービスに進んで参入することで、その内側から食い破ろうと試みた。むしろ、最新の配信サービスを積極的に活用することで、サザンが生産してきた歴代楽曲を大衆的な規模で物質化することに成功したのだった。CDシングルやCDアルバムの売上げが仮に半減しようとも、サザンは一歩も引かずに時代（と流行）の最先端に立ち否定的な現実の変革をめざす、まさに＜否定のサザン＞の真髄を貫き“大衆音楽”のもつ可能性を無限に推し拡げたのだ。
それと同時に、この頃から『第65回紅白歌合戦』にサザンオールスターズが31年ぶりに出演することが「内定」＝承諾した旨が話題となった。
しかし、サザンはニュー・アルバムのレコーディングを一時中断し、12月から年越しライブのリハーサルを続けるだけで、事態を静観し続けた。だが、９年ぶりの年越しライブ開催と10年ぶりのニューアルバム発表を控えた今、サザンが紅白に出演する機は熟していたのである。
すなわち、ニュー・アルバムをひっさげ、10年ぶりにして、バンド活動再開後初の、本格的な全国ツアーに打って出る方針を、全国のお茶の間に直接、口頭で発表する必要があったのだ。それはサザンにとって、二年前のステージ上でファンに誓った“全国に逢いに行く”という＜約束＞を果たすことを意味していた。
WOWOWが放送権をもち､ライブビューイングジャパンが全国劇場生中継を行う中、紅白歌合戦を放送するＮＨＫ側としては、サザン31年ぶり紅白出演を形式上、事前に“発表”することが出来なかった。記者会見ではサザンオールスターズと中森明菜の出演はないと明言した直後、「今のところ」は承諾されていないという意味だ、と訂正せざるを得なかった。その結果、ＮＨＫはサプライズ出演を演出するために混乱を招いている、と無い物ねだりの非難を受けることとなった。最初から、可能性が残されている以上当日まで粘り強く交渉を続けたい、と発表すればすむ話ではあった。
しかも、その直後、ＮＨＫは放送90年・戦後70周年のテーマソングが、サザンの（ニューアルバム新曲）『平和の鐘が鳴る』に決まったことをネット上で発表したのであった。この話題が取り沙汰された直後、HP上から消されたが、この事態はＮＨＫ放送90周年を記念する2015年のテーマソングをサザンが担当する以上、サザン紅白出演は既成事実であり、事前に発表は出来ないが話題づくりの一環であることを伺わせる事態であった。
この只中で、ついに、「進撃のサザン！2014」を総集約するサザン年越しライブ2014が開幕した。
12月27日、28日、30日、31日の横浜アリーナ４回公演
『サザンオールスターズ年越しライブ2014「ひつじだよ！全員集合！」』
である（観客動員数６万人）。
初日公演では､『東京VICTORY』と『ピースとハイライト』を軸に、サザンの伝家の宝刀、新旧ロックナンバーがズラリとならぶセットリストの話題でもちきりとなった。
社会的なメッセージが楽曲や映像にあまねく盛り込まれていること、サザンの新旧代表曲のオンパレードであること、さらには『天国オン・ザ・ビーチ』をはじめ全編にわたってビキニ姿のお色気・羊ダンサーズが出演すること－これらエンターテインメントの粋をきわめたサザン健在ぶりがマスメディアに大々的に取りあげられた。
なお、今回の年越しライブ2014にも相当数の各界のタレントが観覧した。
二日目公演には首相・安倍も観覧。今回のライブでは当時の小渕政権や国独資を揶揄した『爆笑アイランド』の歌詞の一部が「衆院解散なんて無茶を言う」に書き変えられているが、安倍晋三本人が驚いていた様子が伝えられた。なお、首相・安倍はライブ終了後、全体的には「楽しみました」とコメントしたことが報道された。
三日目の公演では、紅白出演順を桑田がうそぶいた。さらに、「数日後」全国ツアーの日程を発表する旨がささやかれた。
こうして、サザンオールスターズは全国お茶の間に向けて、ニュー・アルバムを引っ提げた全国ツアー開催のアドヴァルーンをぶちあげる準備を整えた。アルバムは「年内完成」出来なかったものの、それはレコーディングが充実している証しであった。サザンオールスターズがデビュー36周年の６月25日に発表した2014年度サザン活動方針をスローガンとして表した「進撃のサザン！2014」の核心中の核心をなすものこそ、＜サザン全国ツアー2015＞を大晦日の年越しライヴで発表することだったのである。そのために、WOWOW 独占生中継に全国ライヴビューイングと紅白生中継という舞台が整えられた。年越しライヴ会場の横浜アリーナに参加できた聴衆が極めて限られていた中、この場で日本全国のサザンシンパとお茶の間に向け、ステージを披露し全国ツアー開催を直接口頭で発表することが問われたのである。公式HPやファンクラブ「年賀」、新聞紙面で文字として発表する前に、サザンが全国に赴く旨を直接あいさつしたい、それが桑田佳祐にとって最大級のファンサービスの気持ちの表れであった。
大晦日の年越し公演でサザンはお茶の間、全国劇場に向け、円熟と健在ぶりを遺憾なく魅せつけた。カウントダウンは『勝手にシンドバッド』だと告知すると大歓声が湧きあがった。今回のサザンのライブはロックバンドたる原点を再確認するライブであったため、実は一般のお客さんがついてこれないのではないか？と桑田は苦慮していた。ところが、定番のキラーソングを極力外した今回のライブは緩急も抜群で、かえって異様な盛り上がりをみせた。ロックバンド・サザンオールスターズの底力を魅せつけた。
ついに、31年ぶりに出演に応じた『第65回ＮＨＫ紅白歌合戦』の生中継の時間となった。
中島みゆき、美輪明宏の感動的なステージに続き、“抜き打ちで”サザンオールスターズが横浜アリーナより生中継で出演。桑田佳祐はコントで定番の“つけ髭”でおどけて登場。「今年サザンとしてはレコーディング中心に充実していましたけど、来年はちょっと元気に外に出てってみようかななんて思ってます」と桑田らしい率直な物言いで、本格的な全国ツアー開催を発表した。
そればかりではない。
一転して、新作『ピースとハイライト』『東京VICTORY』を立て続けに披露｡ライブ最終日で決して喉は万全であった訳ではないはずだが、立ちこめる暗雲を吹き飛ばすメッセージを意気揚々と放った。
新東西冷戦下の今、全世界で国家間の国益ナショナリズム（権力政治の論理）が相互衝突し、ここ日本でも政府権力者が国家への忠誠心を労働者・人民に植えつけるネオ国家主義と民族排外主義のナショナリズム、レイシズムが煽動され、それを無批判に鵜呑みにし・ヒューマニズムが後景化する風潮が蔓延している。この只中で、サザンはこれに追随することなく一歩も引かなかった。サザンオールスターズは今、歌いたいことを声を大にして歌う、とばかりにみずからの独自性を鮮明にしたのだ。
不安に満ちた世の中でも希望の灯を消してはいけない、いつか来た道を二度とくりかえしてはいけない、サザンと共に2015年を駆け抜けよう！－歌は社会を変えることはできないが国境をこえる－このようにサザンは持ち前のヒューマニズム・人間主義を武器に、みずからの主体性を貫くことで、紅白という場をその内側から食い破ったのだった。あたかも映画『独裁者』のチャールズ・チャップリン、ラスト６分間の歴史的演説のように……。
こうしてサザンは、一部の的外れな非難もものかは、またしても透徹した知性で社会的な支持を獲得したのであった。
さらに、年越しライヴ本編ラストで、サザンは『勝手にシンドバッド』で新年を迎えると同時に、公式ホームページ上で、
「サザンオールスターズ 2015年 幕開け」
「遂に、10年ぶりのニューアルバム発表。そして全国へ」
と大々的に発表した。
続いて、サザン年越しライブのアンコールが始まった。
途中、スクリーンには
「待望のニューアルバム、３月31日(火)発売決定！」
「さらに、全国ツアーも開催決定！」
と告知され、全国ツアーの日程が華々しく発表された。
北は北海道から南は沖縄まで。５大ドームを含む全国10ヵ所21公演におよぶ10年ぶりのニューアルバムをひっさげたこのツアーは、北海道、東北、甲信越・北陸、東海、近畿、中国、四国、九州、沖縄の全国が網羅されたサザン史上最高55万人余を動員するツアーなのだ。
特筆すべきは、サザンが二年ぶりに「約束」の地・東北のステージに立つことと、社会的に焦点化している沖縄で12年ぶり４回目のコンサートを開催すること。中でも、沖縄は現時点、ツアーのファイナルを飾るのだ！
こうして、「進撃のサザン！2014」は大勝利をおさめた。
なお、元旦の『朝日新聞』朝刊では新アルバム収録曲歌詞つき４面ぶち抜き広告が、同じく『読売新聞』朝刊ではインタビューと全面広告（全２面）が掲載された！
そして、元旦に発送されるサザンのファンクラブ「サザンオールスターズ応援団」の毎年恒例の「年賀」封書でも、年賀ハガキ、オリジナル卓上カレンダーにくわえ、ニューアルバム全国ツアーの折り込みチラシが同封されていた。そこには、サザン全国ツアー先行受付（抽選）案内が、会員全員に２月上旬に発送されることが記されていた。
なお、１月３日に放送された TBSの番組『独占！長嶋茂雄の真実』で、桑田佳祐がコメントしたサザン『栄光の男』秘話も大いに話題を呼んだ。
⑦につづく。
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