②のつづき。




 2013年サザン復活ツアーが終了し一ヶ月が経った10月23日、原由子がヴォーカリストとして参加した、冨田ラボの4枚目のアルバム『Joyous』(SPEEDSTAR RECORDS)が発売された。

冨田恵一が「冨田ラボ」名義で発表するアルバムでは、楽曲本位でアーティストが選ばれるが、今回のゲスト・ヴォーカリストには原由子(サザンオールスターズ)、横山剣(クレイジーケンバンド)、椎名林檎、さかいゆうが参加した。また、作詞では椎名林檎、高橋幸宏(サディスティック・ミカ・バンド、YMO)、坂本慎太郎(ex.ゆらゆら帝国)、中納良恵(EGO-WRAPPIN'エゴラッピン)、堀込高樹(キリンジKIRINJI)、青山陽一が依頼された。
原由子はソロヴォーカル曲『私の夢の夢』に加え、『この世は不思議』、『都会の夜 わたしの街』でヴォーカルを披露している。

さらに、原由子が書き下ろした『ヘヴン』が主題歌である映画『人生、いろどり』(御法川修監督作品)のDVDも12月25日に発売された。
サザンの『人生の散歩道』も含め原由子は2012年から等身大の音楽活動を再開したのだった。






翌日24日、桑田佳祐が電撃的にソロ活動を発表した。




4年ぶりにAct Against AIDS(AAA)コンサートを恒例のパシフィコ横浜国立大ホールで開催する、というのだ。11月30日-12月1日、12月3日-12月4日と初の4デイズ開催で、しかも4日の最終公演は、全国映画館で生中継されると共に8日にWOWOWで放送されると発表された。


Act Against AIDS 2013 桑田佳祐

『昭和八十八年度!第二回ひとり紅白歌合戦』


である。
サザンが活動休止した2009年以来4年ぶりのチャリティ・コンサート開催だ。



サザンのスタジアム・ツアー最終公演より、わずか2ヶ月。9月8日の豊田公演で、折から決定した「2020年東京五輪」開催のニュースに触れた桑田佳祐は、オリンピックがそうであったように、かつて歌謡曲も人々の人生に希望の明かりを灯してきたはずだ、と考えた。桑田は迷わず“ひとり紅白歌合戦”を取捨選択した。



当初、東京にまつわる歌を中心にしようとしていたが、どうもしんみりしてしまう、かつ20代から10代の若者にも刺さる最近の曲もレパートリーに加えたい。こう桑田は考えた。

その結果、桑田は「禁断のひとり紅白」に踏みきる決断をする。



リストアップ200曲から100曲、そして60曲にしぼりこんだのは、なんと11月に入ってからであった。




「禁断の紅白」──桑田佳祐の「ひとり紅白歌合戦」は元々、桑田が紅組と白組と交互に分かれ全60曲近くもの歌謡曲coverを4時間弱ひとりで歌い上げるという企画だ。ここから派生したのがAKB48の「紅白対抗歌合戦」であり、要するに桑田はこれをたったひとり(バンドセット)でやってのける訳だ。実際、2008年の第一回開催時、桑田は(サザンのヒロシと原坊の歌った『3年目の浮気』)1曲をのぞいて、60曲ほぼフルver.で歌い上げた。





今回の『昭和八十八年度!第二回ひとり紅白歌合戦』最大の焦点は、言うまでもなくサザンのツアーを終え2ヶ月しか経ていない状態の中、果たして2010年術後の桑田が一体何曲歌い上げるか?、だった。




だが、還暦間近の桑田は1公演につき60曲(メドレーを1曲と換算すれば、公称55曲)約4時間を歌い切った。

しかも中1日あけて4日間! 240曲❗


われわれは驚きを禁じえなかった!





しかも、この音楽家の情熱たるや凄まじかった。桑田が生まれる20年前1936年の藤山一郎『東京ラプソディ』に、1949年の高峰秀子『銀座カンカン娘』から始まり、槇原敬之・aiko・奥田民生・いきものがかり・斉藤和義、美空ひばり・(2013年に紅白引退を発表した)北島三郎まで、歌謡曲・演歌・クラシック・ラテン・ジャズ・GS・フォーク・ポップス・ロック・リズム&ブルースまで日本ポピュラー・ミュージック史を総なめにしてしまったのである。




そもそも、きゃりーぱみゅぱみゅとゴールデンボンバーもリストアップしていたようだが生バンドでの盛り上がりを考えて今回は見送った。

代わってドリフメドレーでサザンオールスターズが出演し会場を湧かせたのだった。

中盤から終盤にかけては一気に会場のボルテージがあがった。特に、2011年の世界的ヒット曲レディ・ガガの『ボーン・ディス・ウェイ』をジジイ・ガガと称しつつハチャメチャなコスプレとヅラで完全武装し、英詞と自作の日本語詞のチャンポンで披露。超ド級のエンターテイナーぶりを発揮した。途中、1964年の三波春夫版『東京五輪音頭』をサンドウィッチし熱狂的なメドレーを展開した。


そしてラストを飾ったのは和田アキ子1970年のヒット曲『笑って許して』。特別枠の大トリと称し「和田アキ男」ことジャンボ・アッコが、国立大ホール客席後方扉より乱入。登場を予見した「甘皮静夫」「マッタイラ・サダトモ」「黒乳首徹子」の3人が直前に失禁するという余興映像すら挟みつつ、桑田は『笑って許して』を熱唱しフィナーレを迎えたのだった。




余談だが、桑田の“ひとり紅白”に自身の歌が選曲されることを待望していたのが和田アキ子だった。和田にとって桑田は10年も下の後輩であるが、元祖「リズム&ブルーズの女王」の異名を取った彼女にとって、魂の叫びを誰よりも感じるのが桑田の音楽・歌唱だった。その桑田が企画し選曲する「ひとり紅白」の演目に自身の歌が2度にわたって加えられることは、時代をこえ音楽史に残る最高の栄誉なのだからである。北島三郎が2013年を区切りとし「紅白引退」を表明した中で、和田アキ子が歌手として今後も歌い次ぐ、何よりの気概にもなるのだろう。


同じく「ふとした病」から復帰し<生涯一音楽屋>として人生を全うしようとする桑田にとっても、音楽の前に頭を垂れる以外ない。一説によると桑田は今回のコンサートにラインナップした歌手に直筆の手紙を送ったらしい。便箋7枚もの手紙に、律儀な男だ、と和田アキ子は痛く感心した。


▲中西正樹は2019年より「45歳という異例の若さで」アミューズ代表取締役社長、2008年からはビクターの音楽レーベルSPEEDSTAR RECORDS内のサザンのプライベートレーベルタイシタレーベルの代表取締役社長も務めている。


こうして、桑田佳祐は音楽産業総体が空洞化しつつあった2013年末、サザン活動再開に連動して4年ぶりのAAAチャリティーコンサートに出演し、日本ポピュラー・ミュージックの伝統と現在(いま)を鮮明に提示し、見事今に受け継いだ。


同時に桑田にとって「ひとり紅白歌合戦」で追求したことは、お客さんに楽しんでもらうばかりでなく、日本の音楽をルネッサンスする営みであると共に自身の音楽的ルーツに立ち返りつつ日本歌謡曲を批判的に継承し、さらにみずからの音楽性をもう一度新たに追求し直し(反省し)・深め・掘り下げる、まさに現在的画期的意義をもった。



こうして、2013年を通し、音楽家としての桑田佳祐は“いつも通り”音楽に手を抜かなかった。


 核心的には再始動したばかりのサザンオールスターズの歴史をツアー終了と同時にまたしても否定し、来たるべき2014年~2015年に向けた<革命>を準備(止揚、アウフヘーベン)する道を選んだのである。






すなわち、サザンオールスターズは過去のベスト盤を発売せず、自身の口からデビュー以来の歴史を饒舌に語ることなく、現在直下リリースした新曲とライヴそのものだけで勝負した。しかも、同じやり方は通用しないとばかりに、もはや2013スタジアム・ツアーのくりかえしを勇気をもって拒否し、2014年越しライブ、2015ライブツアー「おいしい葡萄の旅」に撃って出た!



プロデビュー35周年、驚くべきことに、またしてもサザンオールスターズと桑田佳祐の底力を魅せつけられた1年となった。






Act Against AIDS 2013 桑田佳祐

『昭和八十八年度!第二回ひとり紅白歌合戦』

atパシフィコ横浜
11月30日、12月1日、12月3日、12月4日
20,000人動員4公演チャリティー

3h45min


座席に演出用サイリウム
映像友情出演:爆笑問題



【Set list】



<紅白ベテラン対決>

01.東京ラプソディ
藤山一郎

02.銀座カンカン娘
高峰秀子



〈GS・ビート歌謡対決!!〉

03.銀河のロマンス
ザ・タイガース

04.虹色の湖
中村晃子

05.スワンの涙
オックス

06.涙の季節
ピンキーとキラーズ

MC

07.小さなスナック
パープル・シャドウズ

08.涙のかわくまで
西田佐知子

09.エメラルドの伝説
ザ・テンプターズ

10.京都の恋
渚ゆうこ(ザ・ベンチャーズ)




〈フォーク・ソングからニュー・ミュージック対決〉

11.若者たち
ザ・ブロード・サイド・フォー

12.この広い野原いっぱい
森山良子

13.風
はんだのりひことシューベルツ

MC

14.なごり雪
イルカ

15.22才の別れ
風(伊勢正三)

16.わかれうた
中島みゆき




〈バブルからの贈り物…対決〉

17.I LOVE YOU
尾崎豊

18.恋におちて -Fall in Love-
小林明子

19.リバーサイドホテル
井上陽水

20.桃色吐息
高橋真梨子


MC
次の曲は日本の“エルトン・ジョン”と言っていい人の曲です



21.遠く遠く
槇原敬之

22.春よ、来い
松任谷由実




〈昭和歌謡大ヒットメドレー〉

23.グッド・ナイト・ベイビー
ザ・キング・トーンズ

24.小指の想い出
伊東ゆかり

25.星のフラメンコ
西郷輝彦

26.太陽がくれた季節
青い三角定規

27.傷だらけのローラ
西城秀樹

28.手紙
由紀さおり

29.港町ブルース
森進一

30.恋の奴隷
奥村チヨ

31.シクラメンのかほり
布施明

32.みずいろの手紙
あべ静江

33.東京砂漠
ヅラ山田洋とクール・ファイブ feat.桑田佳祐

34.~おいしい秘密
ヅラ山田洋とクール・ファイブ feat.桑田佳祐


35.北の宿から
都はるみ

36.見上げてごらん夜の星を
坂本九

37.喝采
ちあきなおみ




〈時空を超えた異色対決〉

38.~8時だヨ!全員集合大特集チョットだけヨ!全員集合
ザ・ドリフターズ(サザン)


MC
設定⇒いかりや(桑田)、加藤(松田)、高木(関口)、ブー(原※仲本はいない)、志村(毛ガニ)

⇒弘が編みタイツで加藤茶のギャグ「チョットだけヨ!」(ストリップ小屋もどきのコント)をやった


39.ドリフのズンドコ節
ザ・ドリフターズ(サザン)


MC


40.ドリフのビバノン音頭
ザ・ドリフターズ(サザン)


41.Jupiter
平原綾香




〈やっぱり現役も負けてられないよね!!コーナー〉

42.カブトムシ
aiko

43.ありがとう
いきものがかり

44.イージュー★ライダー
奥田民生

45.やさしくなりたい
斉藤和義




〈TOKIOロックスター対決〉

46.六本木心中
アン・ルイス

47.TOKIO
沢田研二




〈スーパーアイドル対決〉

48.なんてったってアイドル
小泉今日子

49.男の子女の子
郷ひろみ




〈R15指定! 愛と欲望の守護神対決!!〉

50.どうにもとまらない
山本リンダ

51.(Sing,Sing,Sing)
~(Stop! In The Name Of Love
ダイアナ・ロス&ザ・スプリームス)

52.Born This Way
ジジィ・ガガ(とある農村)

53.~(東京五輪音頭
三波春夫)
withサザン



【ENCORE】

54.SOMEDAY
佐野元春

55.ひだまりの詩
Le Couple


MC


56.アンパンマンのマーチ
ドリーミング

57.愛のさざなみ
島倉千代子

58. 帰ろかな
北島三郎

59.川の流れのように
美空ひばり

60.笑って許して
和田アキ男




桑田佳祐 Vocal & Guitar

斎藤誠 Guitar & Chorus
中重雄 Guitar
角田俊介 Bass
河村“カースケ”智康 Drums
はたけやま裕 Percussion
片山敦夫 Keyboards
深町栄 Keyboards
山本拓夫 Sax & Flute

吉田治 Sax
鍬田修一 Sax
佐々木はるか Sax
西村浩二 Trumpet
菅坡雅彦 Trumpet
横山均 Trumpet
村田陽一 Trombone
広原正典 Trombone
東條あづさ Trombone
朝里勝久 Bass Trombone
CHICA Violin
笠原あやの Cello
TIGER Chorus
田中雪子 Chorus
佐藤嘉風 Chorus
角谷仁宣 Synth & Programming

EBATO Choreographer

AAA“ひとり紅白”DANCERS
Dancer


AND
サザンオールスターズ


④につづく。

.








.