⑥からのつづき。

【再始動の画期的意義】ならびに【収録曲解説】






サザンオールスターズ54th single
『ピースとハイライト』

(2013.08.07)






★週間1位
3作連続通算15作目

バンド初4世代で1位達成(1980年代・1990年代・2000年代・2010年代)


★年間17位(33.9万枚)



【共通収録曲】
M1.ピースとハイライト
M2.蛍
M3.栄光の男
M4.人生の散歩道

off vocalなし


■完全生産限定盤
"胸熱35"カートンBOX
CD+納涼サマーポンチョ付

■通常盤

■アナログ盤

■野外スタジアムツアー会場限定盤
納涼サマーポンチョ another ver.付






【サザンオールスターズ活動再開の画期的意義】

 以上のことから、2013年6月25日サザンオールスターズの復活★=再始動は、メンバー5人が時代の要請に応える決意を打ち固めたことを動機としている。




 たしかに2008年からの5年間で日本のポップミュージックシーンはがらっと様変わりした。

 楽曲ではなく、キャラクターが絶対的価値を有するアイコンとなった。いや、何よりも音楽的ルーツに根差しながら一世を風靡する流行歌も、骨太な音楽も、等しく風前のともしびなのだ!

 こうした状況だからこそ、今、サザンが待望されている。ならばこそ、サザン旋風を巻き起こそうと5人は決断したのである。正確に言うとムーヴメントとしてのサザンオールスターズを場所的に再興しようと奮い立った訳である。



 ただし、サザンは08年までのイメージでのぞむつもりはない。ゼロ年代がそうであったようにかつての曲をことさらにヘビーローテーションする気もさらさらない。



 これまで見てきたように、未だに「国民的バンド」と形容されるサザンの真の「歴史」とは、実は栄光に輝いた次の瞬間から自らのスタイルを容赦なくふるいにかけ、勇気をもって解体再構築する不断の<革命>の歴史であった

 <否定>こそサザンの魂であり、絶えず現在直下の姿すなわち、コンテンポラリーとトラディショナリーを融合した楽曲で勝負してきた。つまり、あくまで作品至上主義を貫くと共に昔に戻るつもりは更々ないのだ。


 したがって、<3・11>後2013年の今、時代から求められているリアリティー、すなわち、LOVE & PEACEを歌う百戦錬磨の新人バンドとしてサザンオールスターズは再始動するのである。このことは35周年を迎え革新的なサウンドをがむしゃらに求めるものでもないし、流行りの音楽に迎合するものでもない。2013年、2014年……と、今の時代と向き合いながら音楽に新たな命を吹き込むのである。こうしてサザンオールスターズは今、勇躍決起した!




 桑田佳祐が「サザンやるよ!」とトップダウンの専決事項としてメンバーに伝えた瞬間、5人の意志は一致していた。つまり、年明けから身構えていたのだ。

 とはいえ、妻の原由子は桑田の体調を心配していたが、むしろ活動が進むにつれ桑田の意欲が漲っていったことを感じとった。ついにサザンオールスターズは結束した。


 したがって、サザンはただ35周年だから復活する訳ではなく、今という時代的要請に応え前へ前へと進撃し、来るべき未来を切り拓くのである。

 世界に冠たる日本の、唯一無二の、〈円熟の大衆的ロック・バンド〉として。




先日、ライヴのリハーサルも始まった。聴衆は待っている!







【最終章-54th single『ピースとハイライト』


マスタリングは今回もテッド・ジェンセンに依頼した。



①『ピースとハイライト

せつない波音の響きかと思いきや、一気に、ドライヴ感あふれるイントロから始まるワクワクするような曲。サザン・サウンドの幕開けだ。前半は明らかにフィル・スペクターがプロデュースしたザ・ロケッツの『ビー・マイ・ベイビー』。 KUWATA BAND時代に桑田もカヴァーしていた名曲。サビが素晴らしく、一転して『心の愛』などに代表される後期スティーヴィー・ワンダーのテイストが強調され、ここにスカのリズムが被さってくるあたりが心地好い。ザ・ビーチボーイズや山下達郎風と言うべき90年代以降のサザンお得意のコーラスもサウンドに艶をもたらしている。


終盤の転調では、久々にストレートなザ・ビートルズを彷彿とさせる遊びがなされていて、『愛こそはすべて』や『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』のトーンとなる。



歌詞については、アジア情勢が語られ勝ちだが、明らかに核心は愛と希望をテーマとした優しい反(アンチ)ナショナリズムである。むしろ、賛否両論となり議論が白熱することは、サザンオールスターズののぞむ所なのである。


20世紀が<戦争と革命>の時代、なかんずく戦争の時代であった苦い教訓を若い世代に投げかける。

21世紀の異相が<米・欧・日 vs 中国・ロシア>の国家的対立を起動力とした新たな東西冷戦(New Cold War)の時代であればなおのことである。

新曲『ピースとハイライト』には、民族排外主義の鼓吹に対する桑田佳祐の人間的なヒューマニズムの発露が貫かれている。終盤の間奏で、戦乱の暗雲を吹き飛ばすイマジネーションに溢れるサイケデリック・ロック・サウンドが挿入される展開は名人芸の域。


したがって、タイトルはタバコの銘柄を当てて『ピースとハイライト』とした。ハイライトには(『栄光の男』のラストにも出てくる)陽の当たる場所や、歴史、明るい部分、さらに名場面、重要な部分などの意味があるが、桑田は明言せず受け手に解釈を委ねている。

しかし、私はこのタイトルをつけた桑田が言いたいことは、LOVE & PEACE、つまりジョン・レノンと吉田拓郎(ボブ・ディラン)を指しているのだと理解している。以前、桑田はハイライトの煙草を吸っていたが、それは元々、吉田拓郎に影響を受けたものであり、拓郎が影響を受けた人物は言うまでもなくボブ・ディランである。もう一つ、深読みするなら、このタイトルは桑田にとってサザン再開にあたってスタイルがブレてはいけない、と言いきかせる意味があるのだろう。あくまで己の音楽の原点であるジョンとディランの魂を忘れるな、と。

「同じ思いで人が集まった時にこそ生まれるのが音楽」なのだ、と。

この曲に「反日」を対置する反動的な輩こそが、亡国ロシア皇帝・プーチンと同様に、「希望の苗を植え」ようと欲する全世界の労働者・人民の敵!に他ならない。


そして、前述したようにクライマックスではザ・ビートルズ愛を感じさせてくれる。再始動にふさわしいサザンオールスターズの貫禄を感じさせてくれる珠玉の逸品である。ライブでは終盤に生きてくるボディー・ブローとなるだろう。これぞバンド音楽だ。



PVを観てみると、桑田佳祐は2013年の『平和を我等に』(プラスティック・オノ・バンド)をやりたかったのではないか。ご存知の方はぜひ、プラスティック・オノ・バンドの、トロント・ライヴでのバンド構成を思い出してほしい(アルバム『平和の祈りをこめて』)。


結果から言うと、復活★シングルとしては抜群にセンスの良い曲で、野外スタジアムツアーでは必ず成長してゆくことは、間違いない。


そして、『ピースとハイライト』は単純な反戦歌でもない。サザンオールスターズにとってこの曲は、希望のラブソングであり〈バラッド〉なのだ。これぞ「ポップス」だ★









②『蛍』

 バラードの大作のようには決してつくりこんでおらず、フィーリングを大切に小編(短編小説)のように仕上げた桑田のセンスが光る。

ポール・マッカートニーの『マイ・ラヴ』やビリー・ジョエルの『レニングラード』さらにエルトン・ジョンのように美しく深みがあるメロディーだ。

『MUSICMAN』で到達した境地を生かしながらも、深遠で響きのあるトーンはサザンならでは。


途中制作段階の映画『永遠の0』のDVDを観た時の傷みと悼み、そこから広がった哀しみのイマジネーションを大切にして作曲したことが伝わってくる。

お国のためでも天皇のためでもない、自分を待つ家族のために生きて帰らん-これは学徒出陣兵の手記『きけ、わだつみの声』(岩波文庫)の一学徒兵の声(恋人)でもある。

いつか来た道を二度と繰り返さない-そのために桑田は国家と国家によって犠牲となった魂(声無き声)に命を吹きこんでいるように思える。

それはやがてまた同時に<3・11>で犠牲になった方々や桑田が亡くした血縁・知人への鎮魂歌であり、2013年現在の「平和」への祈りでもあるのだ。


本気でこの曲に耳を傾ける者にはサザンのメッセージがきっと伝わってくるはずだ。これは 21世紀の"誓い" の調べなのである。






③『栄光の男』

 ジャクソン・ブラウン『孤独なランナー』と、ボブ・ディラン&ザ・バンドの『地下室(ザ・ベースメント・テープス)』の風情。

そして、サザン再始動で桑田がやりたいのは寡黙なメッセンジャーとしての吉田拓郎である。『ピースとハイライト』のハイライトを採用したゆえんでもある。サザン復活の手始めは、『MUSICMAN』の三拍子そろったサウンドと『孤独の太陽』で追求したディラン、さらに拓郎のメッセージ性であらゆる世代に訴えかけようとしている。これは今、サザンオールスターズがなすべきことの一つでもあるのだ。

すなわち、ヒューマニズムすらもが、風化しつつある時代だからだ。そして、歌謡曲はこのままでいいのか!


ストレートなフォーク・ロックとエッジの効いた骨太なヴォーカルは桑田にとっても久々で、味わい深い名曲である。


 長嶋茂雄の国民栄誉賞授与式を見た桑田が、青学時代に、長嶋の引退セレモニーを見た「俺」を思い出すという構造になっている。

 「信じたモノはみな/メッキが剥がれてく」という歌詞が重要で、自分を含む受け手の側の刹那性をこそ浮き彫りにしている「永遠」に変わらぬものなどない、常に挑戦し変わってゆくことで、「永久に不滅」たらしめねばならないのだ。原点回帰とはチャレンジャーが発して初めて説得力をもつ。だからこそ、サザンもまた甘えず挑戦し常に時代を切り拓いてゆくと言い聞かせているかのようだ。

 さらに、サビや二番では "幸せ" がテーマとなってゆくが、学生時代と、<3・11>以後の現在と、に重なる<時代の閉塞感>をアンチテーゼとして措定し、歌っている。



I will never cry.この世は弱い者には冷たいね終わりなき旅路よ明日天気にしておくれ



 今日(2013年当時)、“弱肉強食・優勝劣敗”の「市場原理」至上主義を根幹とした新自由主義的な諸政策-<大増税と社会保障制度改悪、労働諸法制改悪に原発再稼働など>-がわが労働者・人民の頭上に矢継ぎ早に降り下ろされている。
 かかるアベノミクス諸政策を貫くイデオロギーは、“社会的弱者”を早く死ねとばかりに冷酷非道に切り捨てる、ファシズムの「優生」思想の今日版にほかならない。




 

だからこそ、桑田佳祐は新自由主義的諸施策にヒューマニズムを対置し、厳かに告発せずにはおれないのだ!





「愛と平和」なんてのは 

遠い昔の夢か

強くあれと言う前に

己の弱さを知れ




-『百万本の赤い薔薇
桑田佳祐









④『人生の散歩道』

リードヴォーカル・作詞、原由子。

人生を散歩道に例えたとされる母なるシンガー原由子が若い世代に寄りそうような曲。

曲調はフェデリコ・フェリーニ&ニーノ・ロータと、木の実ナナの『うぬぼれワルツ』を合わせたような美しいメロディーである。根っ子にはザ・ビートルズの『オクトパス・ガーデン』や『イエロー・サブマリン』を感じさせる。

この曲を聴くと、桑田は本当にビートルズを愛しているんだなと感じさせられるのが嬉しい。

イントロでは、原由子のソロ曲『あじさいのうた』を想起させる。幾重もの多彩な魅力に溢れる原由子の歌唱は微笑ましくも実にたくましい。母から子供たちへ、成熟した女性から少女・少年たちへ、そして若い世代へと寄りそう眼差しはやさしくも、力強いのだ。生きとし生けるものを包み込む母性本能の偉大さが心に響く。


 人生いろいろあるけど、きっと大丈夫だから、と唄う原由子には、夫・桑田の「ふとした病」と<3・11>を経過した彼女の音楽的境地の深みが伝わってくる。



 “ラブソングを歌い続けられる世の中であってほしい”という一心で歌い続けてきた原由子。





 「……私はずっと桑田の音楽の大ファンなんです。今回の『ピースとハイライト』も素晴らしい平和のメッセージで、『よくぞ歌ってくれた』という想いです。時にはちょっとエッチなことや過激な歌で世間様に眉をひそめられるかもしれないけど、『そんな時は一緒に怒られましょうね』という気持ちです(笑)」


(『Switch VOL.31』SWITCH PUBLISHING 036頁)






 サザンオールスターズ54thシングル『ピースとハイライト』は初登場1位、4週連続ベストテン入りを果たし、8月月間2位、年間17位(33・9万枚)に輝いた。2013年度、アーティストならびにミュージシャンでは最高位となった。

 さらに2014年7月には、累積推定売上は約37万枚におよんだ。











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