⑤からの続き。
【12年】
年明けに静養をとった後、レコーディングが好きで、新曲を作っていると言っていた桑田佳祐が、スペシャル・ベストアルバム発売と全国ツアー開催を発表した。(新曲は次々オンエアされたが、シングルカットされない貴重な年となった)
『I LOVE YOU -now & forever-』
である。
7月7日の七夕の夜に収録され、7月11日、
『桑田佳祐の音楽寅さん 2012 "I LOVE YOU -now & forever-"スペシャル』
が放送された。
【Set list】
01.本当は怖い愛とロマンス
02.今でも君を愛してる
03.たなばたさま ~ ベガ
04.MY LITTLE HOMETOWN
05.MASARU
06.真夜中のダンディー
07.東京
08.EARLY IN THE MORNING~旅立ちの朝~
09.愛しい人へ捧ぐ歌
10.幸せのラストダンス
11.悲しい気持ち(JUST A MAN IN LOVE)
12.シーズン・イン・ザ・サン(TUBE)~波乗りジョニー
13.100万年の幸せ!!
【ENCORE】
EN1.祭りのあと
その一週間後7月18日、桑田佳祐スペシャル・ベストアルバム
『I LOVE YOU -now & forever-』
が発売された。
テッド・ジェンセンにマスタリングを依頼し、新曲5曲を入れた極めて現在的意義のある作品として発表された。
初動で43・1万枚を売上げた本作は、7月月間1位、年間6位に輝き、《累積75.7万枚》に達した。
本作はソロ名義で初の<3週連続>1位を獲得したばかりではない。
この記録は、92年に発表したサザンのアルバム『世に万葉の花が咲くなり』で、4週連続ぶっちぎりで1位を達成して以来、実に20年ぶりであった。
けれども、このアルバムはただのベスト盤ではないし、数字では推し測れない価値がある。
それはこの作品が1年ぶりに立つ宮城のステージから再開するツアーを想定したものであり、桑田じしんと東北の再起をかけて編んだものなのだからである。
ソロワークスの集大成が出来上がりツアーが成功すれば、次はサザンで恩返しだ!……桑田の意志が固まっていたからこそ、『I LOVE YOU -now & forever-』のラストを
『愛しい人へ捧ぐ歌』
にしたのである。
『Mercy Mercy Me(マーシー・マーシー・ミー)』を切々と歌うマーヴィン・ゲイが憑依したかのようなこの世界史的傑作は、決して外側から復興を願うメッセージ・ソングではない。
すなわち、「ふとした病」を克服した桑田みずからが、まさに東日本大震災の当事者として被災人民と心を通わせた<鎮魂と再会と再起の約束>であり、<彼岸へと旅立たれたファンの方との誓い>なのである。
♪
Moving on.Keep me dreaming on.
涙枯れても止まぬ蝉しぐれ
海鳴る風
今は亡き人の面影に抱かれ
ひとり心と身体を横たえる
見つめ合うたび永久の幸せを
夢見た頃
波音はいつも寄せて返すのに
胸の振り子はあの日で動かない
また生まれ変わって僕と踊ろうよ
ふたりで寄り添って風になろうよ
こんな駄目な 野暮な男のわがままだけど
No, I'll never cry.
もう一度そばにいて
長い旅路を歩き疲れたら
荷物を降ろして
真夏の夜空に流れる星こそ
君が瞬く明日(あす)への道標
今、悲しみ去って空が晴れてく
またひとりで立って歩き出そうよ
こんな馬鹿な 弱気な僕を見つめて欲しい
Yes, I'm gonna try.
夢にも逢いに来て
また生まれ変わって愛を語ろうよ
ひとつに重なって風になろうよ
こんな駄目な 野暮な男の生きがいだもの
No, I'll never cry.
もうすぐ夜が明ける
…夏はゆく
Moving on. Keep me dreaming on.
♪
桑田佳祐がツアーに向けステージ演出を練り上げる中、原由子が春先にレコーディングした曲
『ヘヴン』
を主題歌とする映画が、9月公開された。
御法川修(みのりがわおさむ)監督作品
『人生、いろどり』
で、徳島県上勝町を舞台とした実話にもとづいた作品だ。原は『ヘヴン』の編曲とピアノを末光篤に依頼した。
歌詩&エッセイ集
『桑田佳祐 言の葉大全集 やっぱり、ただの歌詩じゃねえか、こんなもん』
刊行直後、ついにツアーがスタートした。
9月15日-12月31日、10都市22公演
『Docomo presents 桑田佳祐 LIVE TOUR 2012
「I LOVE YOU -now & forever-」』
である。
1年ぶりの宮城、セキスイハイムスーパーアリーナからスタートした。
ソロツアーの皮切りは、1年前に奇跡を授けてくれたステージ「グランディ・21」以外あり得なかった!
「『愛しい人へ捧ぐ歌』という、僕の一番新しい歌は、再びあの宮城のステージに立ち、東北の皆さんの前で歌う自分の姿をイメージして作った所もある。
そして東北はもちろんのこと、ツアーはそのあと、全国を回って大晦日の横浜まで続く。各地で様々な人に出逢い、様々な想いを受け止めつつ、最後まで皆さんに、出来るだけ新鮮な気持ちで楽しんで頂きたいと、今はそう願うばかりである。」
(『桑田佳祐 言の葉大全集 やっぱり、ただの歌詩じゃねえか、こんなもん』新潮社 330頁)。
11年に植樹した桜も咲き誇り、葉を茂らせた。
会場外に開設された「虹の広場」には、今年も提灯に櫓に屋台が軒を並べ大盛況となった。
終演後、竹の灯籠もともされた。
毎回、桑田佳祐は楽曲のライヴアレンジを変えるわけだが、今回は曲の雰囲気をガラッと変えてのぞんだ。アップテンポの曲とスローテンポの曲が正反対のアレンジに変えられた。そればかりかツアーが進むにつれ完成形に近づく演出は見事だった。
中盤には『声に出して歌いたい日本文学』を20分にわたってノンストップで披露。まさにロック・オペラが展開された!
桑田は全国ツアーを重ねるにつれ、ステージを強化し続けた。キャリアに甘えることのない想像力と創作意欲は凄まじく、エンターテインメントの究極を追い求め続けた。
ただ斬新なステージだっただけではない。
前半のラストには『幸せのラストダンス』で婚約したカップルを祝福し、ついに新作『愛しい人へ捧ぐ歌』を万感の思いをこめ披露した。
本編ラストの『100万年の幸せ!!』では、バンドメンバー全員がステージ中央に集結し、ゴールデンボンバーばりのダンスでポンポンを持ち踊りあかした。
大阪ではゲストに金本知憲を招いた。
そして、アンコール・ラストでは、ア・カペラで『明日晴れるかな』を歌い上げた。当初、ワンコーラスだけだったが、映像作品化されたさいたまスーパーアリーナ公演では、サビの前までア・カペラを通した。この瞬間、桑田佳祐の歌はまさに神がかっていた!
おそらく、当初のLIVEテーマ設定は昨年が復帰と再生ならば、今年は「明日への道標」、ルネッサンス、エンターテインメントだったに違いない。けれども、ツアーが進むにつれ、桑田の問題意識は『愛しい人へ捧ぐ歌』のその先へ向かう。
CMの依頼も受け、センチメンタルを一掃しようと考えつつあった桑田のイメージがぴたり結びついた。それが
『涙をぶっとばせ!!』
だ。
したがって、このツアーは『涙をぶっとばせ!!』というテーマに成長を遂げ昇華した、と言った方がふさわしい!
桑田はこの時点で、ソロ名義で出来る全てをやり尽くした。
公演終了後、桑田佳祐はスタッフに呟いた。
「そろそろサザンやるか」、と。
同じ頃、関口和之も6枚目のソロ・アルバムを急ピッチで仕上げた。10月24日発売
『UKULELE CARAVAN』
である。
ウクレレを用いたポップスの集大成とも言うべき作品で、ゲストは20名にもおよんだ。
MONGOL800のキヨサク、YOU、大貫妙子、原由子、ゴスペラーズの黒沢薫、つじあやの、PAITITIの洞口依子・石田英範、元「子供バンド」でウクレレ☆エルヴィスの勝誠二、口笛で分山貴美子と大庭エヴェレットが参加している。
プレイヤーではIWAO、アレンジャーでもYANAGIMAN、小倉博和、青柳拓次、田村玄一が参加した。
こうして、関口和之もウクレレ・マイスターとしてのライフ・ワークを充実させた。特に子供たちと交流した「ケイキ・ウクレレ・オブ・ジャパン」の経験が遺憾なく発揮された。
【13年】
3月13日、桑田佳祐トリプルA面シングルとLIVE映像が同時発売された。
『Yin Yang(イヤン) / 涙をぶっとばせ!! / おいしい秘密』
と
『桑田佳祐 LIVE TOUR & DOCUMENT FILM 「I LOVE YOU -now & forever-」』
である。いずれも3位を獲得した。
ドラマのエンディング場面やCMに桑田が出演したものの、具体的なプロモーション活動を一切やらなかったのは、この時すでに<サザン再始動>の準備が始まっていたからだ!
サザン35周年を目前にした6月22日のラジオ放送(この日は生でなく収録)で桑田は「大事な話」があると語りつつも、その内容について触れることはなかった。23日にサザンのファン有志が「希望の襷」プロジェクトを企画し35周年を盛り上げるだけだった。
しかし、水面下では新曲4曲がほぼ完成していたのである。
前日24日、YAHOO! JAPANトップバナーで、サザン未発表曲のイントロらしきメロディが流れた翌6月25日。朝刊が配布され朝のニュースが流れる午前4時になると、一勢に情報が解禁された。
サザンオールスターズがデビュー35周年を迎えた本日6月25日をもって、本格的に活動を再開する!、というのだ。
①8月7日に新曲『ピースとハイライト』を発売すると同時に、
②8月10日日産スタジアムから、(2000年以来の)茅ヶ崎公園野球場をはさみ、9月22日の宮城スタジアムまで、35万人を動員する全国5ヵ所9公演の野外スタジアムツアーを開催することが、電撃的に発表された。
右のようなサザン「復活★」のニュースが日本全土を駆け巡った!
昼には、CDショップの告知や街頭広告などが開始。なんとNHKのニュースも取り上げ「社会現象」となった。
当日中に、「サザンオールスターズ応援団」のツアー申し込み要領も続々と配達された。
駅頭での号外配布、全面広告掲載、ワーゲンのCMもオンエアされ、桑田佳祐によるサザン「再開」あいさつ全文が、ファンクラブ季刊発行誌号外『代官山通信』にぶち抜かれた!
7月1日、ツアータイトルがニュースや新聞紙上で一勢に解禁となった。
『WOWOW presents
サザンオールスターズ SUPER SUMMER LIVE 2013
「灼熱のマンピー!! G★スポット解禁!!」
supported by Volkswagen Golf』
である。
ライブ抽選申し込み開始と同時に、8月31日-9月1日の茅ヶ崎公演はライヴビューイングが行われる旨が公表され、全国中継劇場が具体的に公表された。
さらに、サザンが2週連続Mステに出演することが告知された。
7月26日はいきものがかり・コブクロ・堂本光一と出演。サザン活動再開後、初の生放送となった。
翌週の放送では、翌日ライヴを開催するaikoが極めてタイトなスケジュールをおして共演を果たした。
桑田佳祐の術後復帰ならびに<3・11>後の再生が、かえってメンバーを刺激した。桑田本人も05年とは逆に、ソロで出来ることはいったんやり尽くしたと自覚している。新しい展開を切り拓くために、今サザンで活動を再開すべきだ!、と決断した。
今、サザンオールスターズはより強力に生まれ変わる。もう二度と後悔はしないし、過去の栄光の歴史を懐古趣味的に振り返ることもない。あくまでも、来るべき未来に向け断固たる進撃あるのみなのだ。
サザンオールスターズとは<永遠の今>である。
不断に新作(ポップ・ミュージック)で勝負する、まさに<無敵のサザン>なのだ★
最終章⑦につづく。
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