natalie
▲ナタリー
前稿でライブの様子とセットリストは記したので次に総括をこころみたい。
昨日12月22日、女性ダンス&ボーカル・グループである東京女子流は自身初の単独日本武道館公演、《TOKYO GIRLS' STYLE 『LIVE AT BUDOKAN 2012』》を大成功させた。
年齢非公開を解禁した東京女子流は、女性グループとしては、日本武道館公演の最年少記録を平均年齢15歳にぬりかえた。
ファンの中でささやかれた、東京女子流は武道館で解散を発表するのではないか?、との声を完璧にうち砕いたのだった。
東京女子流が1月30日に発表する3枚目のアルバムを引っ提げた3rdジャパンツアーを決定したからだけではない。核心的には、東京女子流が自身初の日本武道館ワンマン公演をファンクならびにR&B色を全面的におしだして実現したからこそなのだ。
《パワーアップした土方隆之バンドの力》
東京女子流を楽曲面でサポートしてきた土方隆之バンドは6名編成にパワーアップして、武道館公演にのぞんだ。それは東京女子流に興味をもって集まった人たちに衝撃をもたらすためであった。彼らは事実上のプロデューサー佐竹義康と入念に議論をかさねつつ、今回のライブをファンク色を全面的におしだして実現したのだ。
集まった人をとりこにする。そのために彼ら運営・サポートスタッフはぎりぎりまで当日券を販売した。一年前から設定していた武道館公演をこの場で人気拡大の場にしようと決意したのだろう。今年の下半期いっさいを費やして、武道館公演を焦点化することで、大勝利をおさめたのである。
まず、総合マネージャーは武道館を半分に区切って、ステージを取り囲むような会場の戦闘配置を整えた。会場入りした瞬間、私はとても驚いた。「これは東京ドームシティーホールにそっくりだ!」、と。ライブハウスのような作りにしつつ、中央ステージを取り囲むように設営してあるので、どの位置・角度からも舞台がせりだしてみえる。メンバーが身近に感じられるのでパフォーマンスじたいを楽しむことができる。開演後に感じたのは、AKB48が東京ドームシティホールでやる全劇場公演などのコンサートを参考にしつつ、のりこえをめざしたのだなと思った。
しかも、日比谷野音に次ぎこの公演は、パワーアップした土方隆之バンドが最初から最後まで完全にサポートし、生のサウンド・ボーカル・ダンスにこだわった。
そして、土方隆之バンドはファンクとR&B色を全面的におしだした。特に楽曲のアレンジ面では、例えば『Rock you!』という曲は、リズムにかなりタメをつくって、いつものアップテンポなロックより泥臭く黒っぽい(粘りのある)ファンクを意識していたと私には感じた。
とりわけ、冒頭4曲にはどぎもを抜かれた。これは最近の曲をもってきただけが理由ではないと思った。言わば、今夜のライブの方向性、そして2012年これだけ成長したことにふまえて2013年の理想を提示してくれたように思った。まず、1曲目はなんと野音ではアンコール頭にもってきた女子流の代表曲アンリミテッド・アディクのロイヤルミックスで始めたが、これは最高にソウルフルだった。続くディスコードは激しくブルージーなナンバー。3曲目のロリータ・ストロベリーは女子流アレンジではドライブ感豊かなR&B色の強い曲。そしてバッド・フラワーは60年代のブルース・ロックとメンフィス・ソウルとスカパラのような曲。このように、土方隆之バンドは冒頭4曲を手始めに全面的にファンク色をにじませた。このことによって、歌謡R&B特有の抜ける洗練されたタメのないサウンドを否定したのだと思う。
【来年1月発売3rdアルバムは完成度のきわめて高いファンクアルバムだ】
セットリスト中では、ニューアルバム『約束』収録の5曲の内、3曲を披露してくれた。『ふたりだけ』『約束』『月とサヨウナラ』で、残り2曲『それでいいじゃん』と『幻』は未公開。
公演前までは、女子流はKポップでいくか、アイドルっぽいポップでいくか、ロックテイストで行くか、三つのうちどれかだろうと思っていた。完全に期待は裏切られた。なんと3rdアルバムは日本型ファンクだ。最高の展開になった。
武道館の初見の印象でしかないが、「ふたりきり」は幻想的なバラード、「月とサヨウナラ」は椅子を使った「誘惑のガーター」のような曲だが、もっとジャジーなミディアム・ソウルナンバー。表題曲「約束」は現時点の女子流最高傑作で、プリンスの『ドロシーパーカーのバラッド』のような黒っぽいファンク。以上のことから東京女子流3枚目のアルバムはもの凄く質の高いファンクアルバムだ。現時点の東京女子流は全盛期のプリンスのように、音楽ジャンル間の境界線をまたぐような多彩な世界観を志向し始めた。他面で音楽的ルーツに忠実なサウンドをめざす。もちろん、実験的な革新性はないけれども、楽曲が深く・厚く・濃くかなり魅力的になってきた。かといって、メンバーの身の丈にみあった乙女心もにじませている。武道館ライブの3rdアルバム収録曲と土方隆之バンドのアレンジには完全にノックアウトされてしまった。
《課題克服に奮起した東京女子流》
このファンク路線に女子流メンバーはとても頑張ってついてきていると思った。このことが最重要。
武道館は重低音が魅力だがサウンドがクリアーな訳ではない。また、メンバーのボーカル面での弱点はマイクやサウンドでかき消されたと言えなくもない。
けれども、メンバーの歌うことに対する執着心がすごく伝わってきた。ひとことで、会場に来た人の心に響かせたいという気持ちが強かった。発展途上のテクニックだが今回はとてもソウルフルだった。
冒頭4曲のもう一つの意味は、頭から小西さんのパートから始まり核となる曲であることからも明らかだが、まず小西さんに飛躍をうながしたことだと思う。とても丁寧に気を使っていた。女子流は低音が小西さんと中江さん、高音がセンター新井さんと庄司さん、中間が山邊さんに分けていると思うがみな今回にかける意気込みが違った。覚醒してきたのは中江さん。こんなにパワフルに歌う中江さんは初めて聴いた気がした。
ダンスでは今回、目を引いたのはリズム感。女子流は具体的に反省し課題を克服しようと努力していて素晴らしいと思った。みな実家や学校は東京ではないし、レッスン時間も限られているはずだが、この一ヶ月、相当に努力したと思う。スタッフはメンバーの力をのばすために、あえて難解なダンスと質の高い楽曲に挑戦させた。だが、女子流は本気で指導に応えようとしている。ファンに成長する姿をみせるというのはこのことだと思う。
以上のことから、東京女子流は武道館公演で現時点の最高到達点をたたきだした。舞台演出・ライトアップ・舞台芸術も素晴らしかった。この公演、早くブルーレイにならないものだろうか。2012年の女性アイドルグループでSDN48卒業公演をこえたのは、平均年齢15歳の東京女子流だけだと思った。意地と情熱で未完成の技術を補い2013年の飛躍を感じさせてくれた感動的なライブだった。
どんな条件におかれても、技術が完全でなくとも、東京女子流の5人は、決して安易に妥協しなかったし、楽な道を選ばなかった。なんと言われようと、苦しかったとしても引かなかった。これはすごいことだと思う。技術が足りないところは、伝えたいという情熱と根性でおぎなった。東京女子流は日本武道館公演と3rdアルバムで魂をみせてくれた。その結果、東京女子流「第3章」のスタイルを確立できたと思うのだ。
ももいろクリスマスはこの情熱をこえるだろうか。実に楽しみではないだろうか。
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