ようやく日本映画ベスト10へ。では5位から。




第5位



大地の子守歌



(1976年 増村保造監督)





これはビデオしか出てなくて、たまに日本映画専チャンでやる程度。



でも増村監督後期の大傑作。たまたま深夜映画で観て、その後20回は観たな。


瀬戸内海の小島に売られた小女が、ついに深い精神の自立に達する作品。



主人公りんを半裸も辞さず体当たりで演じた原田美技子。なんと当時16歳だよ、この役者魂。





失明しお遍路さんになった原田さん演じるおりんが、大地に耳をあて生きることの意味を自問自答するシーンは爽快ですらあるよ。





水谷豊と共演した『青春の殺人者』と共に、この年の女優賞を独占。この若き女優魂の発露は永遠に日本映画史に刻みつけられるね。



DVD出さないのは逆に当時の女性を蔑視してるよね。ちゃんと大人が過去の現実をしらせないと。しかもこの主人公立派な人だよ。



原田さんは『愛を乞う人』でも自立する女性を一人二役で感動的に演じたな。女の歴史を感じさせるよね。




深作欣二監督『火宅の人』が好き。作家檀一雄役に緒形拳、妻役にいしだあゆみ、愛人役に原田美枝子と松坂慶子と美女ぞろい。いしださんと原田さんの静かな愛憎バトルは必見。これも20回はみたな。



バトルといえば野村芳太郎監督『疑惑』は死ぬ前に必ず一度観てほしい。被告役に桃井かおり、女弁護士役に岩下志麻。最後にグラスのワインを美女が鬼のようにぶっかけあう。女優と演技で観る映画ならこれ。今の若手女優とは月とスッポンほども格が違うよ。



原田さんと桃井かおりさんがキネ旬主演女優最多受賞です。黒澤明監督の『乱』でも共演した二人。





桃井さんは安保闘争以後デビューした「しらけ世代」を代表する女優さん。東陽一監督『もう頬づえはつかない』で主演賞総なめ。肌がビリビリする映画で女子必見。人生観変わるよ。むしろ全力で生きてやる!って思うね。


椿鬼奴もモノマネするなら演技の真似もやってみ、絶対できないから(笑)。甘えた声で実はしたたか、本当は愛に飢えてる女性像かな。だけどこの人すげぇハードボイルドでダンディズム(笑)。蒼井優が憧れる訳だね。そういえば9月に日本映画専チャンで秋元康がアイドルを語るらしい。《ニッポンアイドル興亡史》その内の一本、おにゃん子の映画にも桃井かおりさん出てるね。






あっ原田さんに話しを戻さなきゃ。



原田さんは美人で根性があって演技の達人です。笑顔は元より女性らしいせつない表情に、たまらなく男心をそそられる大好きな女優さんです(世代はかなり違いますが(笑))。




去年のキネ旬授賞式に原田芳雄とサプライズで登壇された時は、涙がこみあげるほど感動しました。ああ本物の原田美枝子さんが目の前にいるって感じ。お歳を召しても綺麗だよね。本物のいい女っていうのは、年齢を重ねれば重ねるほど熟成してゆくもんだね。






第4位



『愛のむきだし』



(2008年 園子温監督)






最初観たのは東京フィルメックスで。俺タイトルとチラシでピンと来た。AAAの西島隆弘と満島ひかりなんて知らなかった。これは弁証法(真実と嘘、理性と本能)と唯物論(むきだし)の映画だって。格好いい邦画だなってそれだけ。急いでチケットとった。実際観てしびれたよね。『ダークナイト』よりさらにすげぇって。グッときた。



あと西島と満島は若手ナンバー1と思った。勝てるのは役づくりの天才蒼井優だけだって。熊井啓監督『海と毒薬』の奥田瑛ニの娘安藤サクラも本能的ないかした演技するね。渡辺真起子と渡部篤郎もクラッときた。おっと内容!






外観に惑わされず最後まで観てほしい。これはベッドシーンすらない究極の純愛映画。自分が変態と勘違いした男子と、男はすべて変態だと思いこんでいる女子の話。全て監督が聴いた実話に基づいてるんだってさ。





俺、大好きなボレロの調べが繰り返される。これはね宿命って事。登場人物が出会う必然であり、コインの裏表って事。これを人物造形が似ているって評論家がいた。映画が丸っきり分かってない(笑)。格好良いヒーローやヒロインが活躍する映画しか見たことないのかなって。




過去からは逃れられないから、未来を変えるために人間は、現在をのりこえようとするんじゃん。そこを庶民に向けて呈示するのが映画、あんたならどうする?、どう思う?って。万人受けのTVドラマとは根本的にちゃう。それを作家性って言うんじゃないかい?






この監督は主人公に二度もヒロインの奪回を失敗させ、密かに彼を愛するライバルを……追いこむんだよね。でもそれが二人の絆を分かち難く結びつける。





ラストで真実の愛に気付いたヒロインの心からの叫び。何たる比類なき美しさ。本音で語る純愛映画の傑作。愛や心はただ観念でなく、必ず物質的形態をとって相手の心を射ぬくって着眼点が素晴らしい。





それと1シーン1カットで満島が、新約聖書のコリント書13章を全文そらんじるシーン。俺は宗教も政治も積極的に支持してないけどスゴイよ。これで満島は映画賞を総ナメにしたよね。

DVDの特典では監督が満島に「お前それでも女優かよ!、感動させる演技やれよ!、バカ」って罵倒しまくり。


幸せな女優だよ、本気で育ててくれる監督に巡り逢えて。


新たな古典。







いよいよ
第3位



にっぽん昆虫記



(1963年 今村昌平監督)






世界3大映画祭カンヌ国際映画祭でパルドールを2度受賞した監督はたしか5人。唯一の日本人が《世界の今平》こと今村昌平監督。でもホントの傑作は初期。俺はフェリーニと今平は全部好き。





今平は日本映画学校の創始者。ひとくちで日本土着の伝統や文化にふまえて生身の人間の生態をあけすけに描く人。作品トーンは重喜劇。重いテーマで爆笑を誘うって事。






昆虫記はね、日本戦後史と女の半生をこれでもかって描いた今村重喜劇の傑作だよ。




人間の生存本能=生態を昆虫にたとえてて本当に面白い。観察日記だね。だから今の監督が誰もかなわんリアリズム。マーティン・スコセッシが師と仰ぐ訳だね。





したたかにたくましく生きる女性像は世界映画史でゆいいつじゃない。左幸子さんもスクリーンの中でキラキラ輝く女優さんだね。今なら寺島しのぶ。共演者を圧倒しちゃうオーラと演技を自然体でやりきっちゃう人。キャメラワークで表情が全部違う。






今平の作品としての最高傑作は次回作の『赤い殺意』だけど、おもしろ川柳で日本人の精神構造を面白おかしく暴く昆虫記こそ、今平節が炸裂した代表作だよ。



DVD各社は今平作品には必ず字幕スーパーつけてほしいよね。絶対!!




あとは『豚と軍艦』。60年安保の時の横須賀米軍基地のまわりで生きる人たちの悲喜こもごも。日本と米国の関係ってこうなんだって。あの時代にすごいモダンな映画。今の横須賀ドブ板横丁と比べてみて。





息子が桑田佳祐って位そっくりな長門裕之さんの撮影エピソード。南田洋子さんとの馴れ初めも今平作品。


長門さん便器に顔をつっこむシーンがあった。今平、スタッフにこれで用たせって指示。長門さん激怒し大号泣。年が近くてタメ口。ついにやってやるよとやけ。スタッフがこっそり小道具つくって、涙ぐんだとさ。でも出演者みな演技が上手くなるんだよね。








この今平のチーフだったのが浦山桐郎。『キューポラのある街』。吉永小百合の出世作。このしゃんとした演技も若手は目に焼きつけてほしいね。



ダーンダッダッダーン(笑)BGMがグッとくるよ。埼玉の川口市を舞台に社会問題がごまんと出てくるけど吉永さんが明るく立ち向う姿がとても素敵。進路で困ってる人にも生きることの意味、命の重さを考えさせてくれるよ。






2位と1位は次回。