1989年・春
ギターリスト・トガワの加入により、一歩前進した俺達のバンド。
あとは、ドラマーを見つければバンドは動き出す。
さて、どうしたものか?と思案するまでもなく、トガワくんからある提案があった。
俺の家の近所にドラムやってる人がいるから、その人に頼んでみようかと思うけど、どう?
どう?ってあなた。どうもこうもねぇよ。
いいに決まってる。断る理由がねぇよ。
いいじゃん!頼んでみようよ!
でもさ、その人メタルが好きなんだよね。
あぁ・・・メタルかぁ・・・でもとりあえず頼もうよ。やってみて良くなかったら他に見つかるまででもさ。
数日後。
トガワくんに連れられて、ドラマーがやってきた。彼の名は金子くんと言い、当時26歳だった。
俺らとは8~10歳も年齢差があったのだが、金子くんは飄々とした温和な人だったので、俺達はすぐに打ち解けた。
金子くんは、俺達の『スタークラブのコピーから始めましょう』『パンクしかやりたくないです』『既成の音楽に飽き飽きしてるんです』等と尻の青い言葉に、『ほう、なるほどね』と応答。
手ごたえは悪くない。いいんじゃね?
俺達は自意識過剰の集まりだったので、『俺達が金子くんに本物のロックってやつを教えてやる』というつもりだったのが、無知の恐ろしいところ。
今思えば、俺達は、金子くんに大人の対応であしらわれていたのだ。
しかし、それに気がつくのはまだまだ先の事。
とにかく、金子くんも結構変わりモノだったので、『就職先が決まるまで』という条件付きで俺達のバンドに加入してくれる事となり、俺達もそれで了解した。
就職が決まるまで。そんな事は全然問題なかった。
なぜなら
俺達はスターになる!
きっと金子くんの就職が決まる前に売れちゃう!
売れたら、俺を入れてくれ!ってパンクなドラマーがくる!
そしたらそっちを入れちゃう!
ヘビメタ好きの金子くんには辞めてもらう!
という非人道的な策略があったのだ。
俺もすっかり忘れていたが、これを書いてるうちに思い出した。
俺はそんな事を思ってはいなかったが、当時のトガワくんは強気!強気!の一辺倒な男だったので、平気でこんな言葉を吐いていた。まさに読んで字の如く『餓鬼』の様な男だ。
俺は俺で、『そんなに巧くいくかねぇ・・・?』と思いながらも、弱気な発言はナメられるし、強気の方がパンクっぽいという勘違いからその策略に賛同した。
遂に俺達のバンド『the Swapping』が始動した。
そうなれば、まずバンドとしてナニをするべきか?
そんなのは簡単すぎて放屁だぜ。
スタジオで音を出してみる。
つまり練習ですな。
普通ならばそうなる処だが、ザ・スワッピングのメンバー達は違っていた。
彼らは、ライブ予定も無いのにフライヤーを作る事から始めた。
そして、『ステージネームを考えよう』と言い出したのだ。
結果
Vo JACK (ヒラノ)
Gu TO-MASS (トガワ)
Ba HIRO (俺)
Dr YOU (金子)
とメンバーの名前が書かれたフライヤーを完成。更にそれを拡大コピーし部屋に貼るという暴挙に出た。
フライヤーには『Welcom to the SWAPPING SHOW』という呪いの文字が・・・
そのフライヤーを眺め、HIROはご満悦だった。JACKも嬉しそうだった。TO-MASSは『メジャーシーンをぶち壊してやろうぜ!』と言い放ち、YOUはその時すでに辞めたいモードを醸し出していた。
よし!フライヤーも作ったしさ、ライブやろうぜ!
うん、ちょうど俺らの学校の奴にさ、本八幡のジャガーカフェで一緒にライブやらないって誘われてるんだよ。
え?ジャガーカフェってあのジャガーさんの店?
え?なにジャガーさんって?
知らねぇのかよ、ジャガーさんって凄ぇロッカーが千葉に居るんだよ!普段は洋服直しの店やっててよ、自分のスタジオも持っててよ、千葉テレビの番組枠買い取ってな、ハロージャガーって番組まで持ってるんだよ。
へ~凄いねぇ。でまぁ、それはいいんだけど、ライブやる?
もちろんやるよ。で、そいつらのジャンルは?
ん、自分達ではハードコアって言ってる。
へぇ・・・バンド名は?
子宮ガンだって。
ほぅ・・・子宮ガンねぇ。凄ぇ名前だな・・・。
自分達のバンドもかなり凄ぇ名前だったが、この時はカッコイイ名前だと思っていたのでこんな言葉も口から滑り出す。恥知らずとはまさにこの事也。
1ヵ月後、俺達は今は亡き伝説のライブハウス『本八幡ジャガーカフェ』にてデビューライブを行った。
全曲ザ・スタークラブとスワンキーズのコピーだった。 そしてお客さんは20人程度だった。
ま、最初だから、こんなもんじゃね?
俺達は、こんなもんがずっと続くとも知らずに若者らしく油断した。
それから、更に1ヵ月後、YOUは靴屋に就職が決まった。
当初のずさんな計画では、俺達は既に都内では新進気鋭のパンクバンドとして名を馳せているはずであったが、現実はもちろんメチャクチャにストロングで厳しい。
俺達はもちろんアンノウンソルジャーのままで、もちろんこんなバンドに加入したいなんてドラマーは現れるはずもなく、金子くんとの『就職が決まるまで』といった約束は、こちらの勝手な都合で曖昧にしておいた。
数日後、スタジオ練習日。
スタジオに金子くんの姿はなかった。
何度も金子くんの自宅に電話したが応答はなかった。
やはり26歳の大人が、17~8の世間知らずなガキとパンクバンドをやるのには無理があったのだろう。
金子くんは3ヶ月で脱退した。
さて、どうすんべ・・・?
季節は夏。
とりあえず・・・たまにはパンクとか忘れてさ、海でも行ってみる?
俺達はバンドを一時中断し、3人で、海水浴・遊園地・おでん作りのバイト・と楽しそうなモノに流れるままに流されてみた。
ラジカセから敬愛するスタークラブの名曲『HELLO NEW PUNKS』が流れている。
ナニを本当にしたいかわからないまま
堕ちる自分を眺める時間はないはずさ
スピーカーからそんな言葉が流れているのも気づかない愚かな若竹。
デビューライブ(笑
電車に乗ってお出かけ(笑
右から金子・俺・ヒラノ・トガワくん
俺、頭にバンダナ巻いてるね・・・
子宮ガンの皆さん(笑
昭和ですな・・・