6月26日~7月4日、オンライン上で開催されるヨーロッパ最大のアジア映画祭・ウーディネ・ファーイースト映画祭で特集上映される大田原愚豚舎作品をご紹介してゆきます。
宜しければ是非ご一読ください。
第3回は
第32回東京国際映画祭 日本映画スプラッシュ部門 監督賞受賞作品『叫び声(2019)』
【ウーディネ・ファーイースト映画祭・上映作品紹介③ 『叫び声』】
2020年、6月26日~7月4日、オンライン上で開催されることになったヨーロッパ最大のアジア映画祭第22回ウーディネ・ファーイースト映画祭。
コロナウイルスの影響によりイタリア行きが叶わなかったのは残念ですが、大田原愚豚舎初となる海外での特集上映は本当に光栄ですし、大きな喜びです。
ぜひ、この機会により多くの皆様に大田原愚豚舎作品を楽しんで頂けたらと思っております。
大田原愚豚舎は、2013年に旗揚げされた小さな自主映画制作団体で、映画監督の渡辺紘文、映画音楽家の渡辺雄司、撮影監督のバン・ウヒョンの三人が中心となり7年で7本の長編映画を製作してきました。
第22回ウーディネ・ファーイースト映画祭の特集上映では『地球はお祭り騒ぎ(2017)』『普通は走り出す(2018)』『叫び声(2019)』に加え最新作『わたしは元気(2020)』がワールドプレミア上映されます。
ウーディネ上映される4本の作品を少しずつご紹介していきたいと思います。
今日、紹介するのは大田原愚豚舎第6回作品『叫び声(2019)』です。
『叫び声』は昨年開催された第32回東京国際映画祭で上映されたのみの公開前の作品ですのであまり説明はできないのですが、北関東郊外の小さな街の養豚場で働く男と、その祖母との生活をただひたすらに淡々と描いた映画です。
大田原愚豚舎作品の多く、というかほとんどすべての作品を、ぼくたちは喜劇映画、コメディー映画だと思っているのですが『叫び声』は現在唯一の喜劇ではない大田原愚豚舎作品であり、最も個人的な大田原愚豚舎作品と言えるかもしれません。
『叫び声』の大本となる素材を撮影したのは2016年のことです。
今、考えるとよくあんな過密な撮影スケジュールをこなせたなとも思うのですが(体力があったのです)、『叫び声』は第29回東京国際映画祭 日本映画スプラッシュ部門でグランプリを受賞した『プールサイドマン』と映画と同時に撮影を進めていました。
企画を動かし始めたのは大田原愚豚舎の第二回作品『七日(2015)』という映画が東京国際映画祭で上映された直後の冬のことです。
『七日』という映画は大田原愚豚舎の最重要作品と僕はいつでもどこでも言っているのですが、第28回東京国際映画祭での世界初上映時には途中退席者が続出しました。
「なんで『そして泥船はゆく』みたいなバカなコメディー映画つくらなかったんだ! 期待してたのに! バカ!」
と、多くの人が僕に石を投げ、槍を投げ、僕を罵りました。
そんなこともあり、否定されればされるほど否定されたことをやりたがる僕は「次回作は何を作るんだ」と聞かれるたびに『七日2』ですと答えていましたし、本気で『七日2』をつくるつもりでいました。
なので、寒い冬のある日、韓国から日本に遊びに来ていたバン・ウヒョンと喫茶店で話をしながら
「ウヒョンよ」
「なんだ」
「春になったら新作撮るか」
「どんな映画だ」
「2本あるんだ、同時に撮影する」
「同時に2本も撮れるのか」
「おれとおまえと雄司がいりゃ撮れるだろ」
「まあ、撮れるけど」
「1本は七日2」
「ははは、いいね」
「前は牛だったから次は豚だ」
「いいねー」
「もう1本はタイトルだけは決まってる」
「なんだ」
「プールサイドマン」
と、僕たちは2本の新作を動かし始めました。
これは余談ですが、僕たちのデビュー作である『そして泥船はゆく』は今だから言いますが続編の準備を進めてはいました。
泥船2はシナリオもほぼほぼ完成していましたが、準備をすればするほど、泥船2を作ることに対する情熱は僕の中から無くなり、やがて企画は完全に立ち消えました。
あとから考えてみても、大田原愚豚舎は泥船2を創る道を選ばず本当に正解だったと思っています。
『叫び声』メインの撮影場所となったのは日本映画学校の卒業制作映画『八月の軽い豚』を撮影したのと同じ養豚場です。
学生時代以来の場長の方との再会を僕は本当に心から喜びました。
しかし、撮影をしたのはいいものの、自分の中で何か納得がいかないまま編集に取り掛かることができず、『叫び声』の素材は3年間、家の棚の奥でほこりを被って眠り続けていました。
何故、撮影したにもかかわらず納得がいかなかったのかも、何故2019年になって急に編集する気になったのかも自分の中ではあまり明確な理由は説明できません。
ただ、詳しくは書きませんが『地球はお祭り騒ぎ』から『叫び声』にかけてのおよそ2年間のあいだ、僕にとっては個人的にとても辛く、悲しい出来事が立て続けに起こりました。
生きていてこんなにつらい日々は初めてなのではないだろうかというくらいの喪失感や絶望感に襲われ、現実感のない、地に足のつかないような時間が果てしなく続くような毎日でした。
これは不幸なことなのかもしれませんが
「こんなつらい時に映画なんかやってられるか」
と僕の場合はならず、寧ろ脚本を書くなり、カメラを回すなり、映像をいじくるなりしなければ自分が暗い何処かへ引きずり込まれてしまうような、押しつぶされてしまうような感覚で必死に映画創作にしがみついていたような感じでした。
なので余程精神状態がまいっていたのか、狂っていたのか、壊れていたのか、自分の中の何かがあの頃のことを思い出させないようにしているのか『叫び声』がいつどのように完成したかはほとんど記憶にありません。
ただ、今までの大田原愚豚舎作品の流れというのはこの作品で終わりを迎えるのだろうなという予感はありました。
映画の編集を終えた日は、まもなく夏になるというのに妙に肌寒い日で、雨が降っていたことを覚えています。
最後まで思いつかなかった映画のタイトルは生きるものの言葉にならない悲しみや嘆きという意味を込めて『叫び声 ※英題はCry』としました。
大田原愚豚舎の第6回作品となった『叫び声』は、5回目の東京国際映画祭正式出品作品となり、日本映画スプラッシュ部門の監督賞を受賞しました。
■叫び声(2019)/Cry
製作総指揮・脚本・編集・録音・美術・監督:渡辺紘文
製作総指揮・録音・美術・音楽監督:渡辺雄司
撮影監督:バン・ウヒョン
出演
渡辺紘文
平山ミサオ
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