第三夜
こんな夢を見た。
私は菅原文太がバーテンダーをつとめる店で一人、飲んでいた。店と言ってもそこはちっともバーのようではなく、普通の家のリビングだった。おまけにその家は現在増築中らしく、サッシ窓の外を、ニッカボッカを履いた大工たちが何人もうろうろしていた。
ガンガン、バリバリという音が間断なく外から聞こえ、とても落ち着いて飲めるような雰囲気ではなかったが、菅原文太は一向気にかけず、氷を割ったり、グラスを拭いたりしている。だから私もそんなものかと思い、文太の作ってくれたキールロワイヤルを黙って飲んだ。壁面の棚の上には「Bunta's Bar」という看板がかかっていた。
その家は築8年といったところで、まだまだ新しく、壁なども真っ白だった。床は明るい色のフローリングでソファのセットに大型液晶テレビまである。子供のおもちゃが散乱しているところを見ると幼子がいるのだろうか。リビングの端の、キッチンがあるべき所に Bunta's Barはあった。不思議なことだが、リビングも外も燦燦と陽光が射しているのに、バーだけは薄暗いのだった。天井に付けられたスポットライトが、カウンターテーブルを部分的に照らす以外は、照明らしきものは見当たらない。
「じいじ、じいじ」階上から子供の声がする。どうやらこの家での文太の立場は「おじいちゃん」らしい。2世帯同居で、息子夫婦か娘夫婦と一緒に暮らしているのだろうか。孫にじいじと呼ばれても、文太はバーテンダーの顔を崩さない。祖父の顔とバーテンダーの顔、きっちり使い分けているらしかった。
私はふと、文太の細君のことが気になった。奥さんはバーを手伝ったりしないのだろうか。仏壇らしきものは見当たらないから、健在なのかもうこの世にいないのかは定かでない。しかしなぜか、細君はもう亡くなっているに違いないと思った。
文太には男やもめがよく似合うからだ。
第四夜
こんな夢を見た。
ミステリーツアーは全体的に楽しかったが、私の心は晴れなかった。この後で私は、容疑者として取調べを受けることになっていたからだ。担当の刑事も、同じバスに乗っていた。しかしこの若い刑事は、私を監視する目的というより、純粋に楽しむためにツアーに参加したらしかった。もらった土産を検分しつつ、にやにやしている。
一体何の容疑で取り調べられるのか、記憶があまりにも漠然としていて、それがどうにもイヤだった。罪を犯した自覚はあるものの、それがどんな罪なのか、重罪なのか微罪なのか、皆目分からないのだ。こんな状態で取り調べられるのは納得がいかなかった。私はどうやって言い訳しようか、そればかり考えていた。
もう少しで解散場所に到着という地点で、なぜだかバスは突然高速を下り、香港の裏街のような細い路地に入って行った。大型の観光バスが通れるような道ではないはずなのに、民家と民家の間の幅50センチくらいの道を、車体をがたがた言わせながら、バスは突き進んで行く。一体どこへ連れていかれるのだろう・・・?乗客は次第にざわつき始め、車内に不安な空気が広がった。
しばらく細い道を行くと、今度はものすごい急勾配の坂道に突き当たった。まるでジェットコースターの、急降下する前に頂点まで引き上げられる坂のようだ。いくらなんでもこの坂はバスでは無理だろう、と思っていたら、運転手は果敢にもアクセルを踏み込み、この上り坂に挑戦しようとしている。
車体が一気に傾き、垂直に近くなった。乗客は皆、必死でシートにしがみついている。私は一番前に座っていたのだが、坂が急過ぎて行く手が全く見えない。運転手は尚もアクセルを踏み続け、必死に坂を登りきろうと頑張っている。ここで力尽きてしまったら、全員後ろ向きに落ちるしかない。
ようやくバスが坂を登り切ると、眼前に一面砂の景色が広がった。どうやら砂浜らしい。やれやれと思った瞬間、力尽きてエンジンがやられたか、砂にタイヤを取られたか、バスがバランスを崩し、横転した。地面は柔らかい砂だったらしく、車体はずぶずぶと埋り、半分まで砂に隠れた。
乗客たちは窓から必死で脱出した。誰もが砂をかぶっていた。荷物もお土産も、みんな砂に埋ってしまった。私も全身砂まみれで、散々な気分だったが、例の刑事も同様に砂まみれだったので、やや溜飲が下がった。
第四夜は、のりさんの記事と、香奈さんの記事に影響を受けてます。間違いなく。( ̄∇ ̄)